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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第17話

 さて、そろそろかな。


 オレは腕時計を見て時刻を確認する。


 0時13分。

 約束の2分前だ。


 オレと違ってトキノは時間には正確だから、きっと遅れずに来るだろう。


 待ち合わせ場所に指定したのは、家の裏手にある登山道の入口。

 自宅近くの人気のない場所として、ここがまず思い浮かんだ。

 この時間帯に山に登る人なんていないだろうから、密談にはもってこいだろう。


 オレは登山道脇にある小屋から出て、空を見上げる。

 一応、目印になるよう赤いパーカーを着てきたが、そんな必要はなかった。


 満点の星空だった。


 大地は仄かに照らし出され深夜とは思えない程明るかった。


 ふと、思う。


 オレの目はあの星にまで届くのだろうか、と。


 瞳に映る全てを消してしまうオレの神威は、銀河の果てまで届くものなのだろうか、と。


 ……流石にそれをすぐ実行に移すわけにはいかないな。


 もし、世界にオレしかいなくなって、全てがどうでもよくなったら、その時に試してみるとしよう。そんな物騒な事を考えていると、風もないのに木々が大きく、ざわめいた。


「はぁ、はぁ、じ、仁、ま、まって」


 ずいぶんと息が荒いな。

 お前の神威で呼吸が乱れることなんてないから、多分、緊張しているのかもしれない。

 ……まあどうでもいいか。


「話を聞いて欲しいの。私は」


「お前の話なんてどうでもいいよ。それより」


 交渉を始めよう。切り札は残したままで。


「火野華をどこへやった?」


「……仁、なんであの人間にそこまで執着するの? そんなにあの女が大事なの?」


 おや?声が急に不機嫌になったな。まったく多感な事だ。


「いいから早く答えてくれ。今、お前に望むのはそれだけだ」


「答えたくない。なんでなの? あんな女のどこがいいのよっ!?」


 話が逸れるが仕方ない。


「別に執着しているわけじゃない。ただお前も知っての通り、ギシンが神威を人間に向かって使うのはルール違反だ。だからルールを破った身内の尻拭いをしようとしている。以上だ」


「何を言うかと思えばルール?そんな人間たちが決めたルールに意味なんてあって?私たちはギシンなのよ」


「いやいや、オレたちがギシンだからって関係ない。この社会で暮らしていく以上、ルールには従わなければならない」


「そのルールが人間たちが作った、自分たちにとって都合のいいルールだとしても?」


「そうだ。どんなに歪だとしても、オレ達はそれを受け入れなければいけない」


 やれやれ、とばかりに首をふるうトキノ。

 どうやらすっかり、いつもの調子を取り戻しているようだ。


「話にならないわ。なんでそこまで従順になれるのかしら? ギシンは人間よりも優れた存在、いわば神にも等しい存在なのよ。それなのに下等な人間の管理に置かれている今の状況こそがおかしいって、なんで気付かないの?」


 トキノは信じられないとばかりに両手を広げてみせる。


「優れた存在、か。トキノ、どうやらお前はまだ分かっていないようだな。いい機会だからオレたちギシンが本当は何なのか、教えてやるよ」


「何ですって?」


 オマエもうすうすは分かってるんじゃないか?だけど認めようとはしていない。

 オレ達は本当は


「ギシンは、ただの人間だ」


 トキノが吹き出す。


「何を言うかと思えば、そんな世迷い事を」


「お前、昔は体弱くて、よく熱出してたよな」


「いきなりなに?」


「その時財団から支給された薬、ギシンにしか効果のないと言われていた特注の薬があっただろ。実はオレ、どんな成分が入っているのか気になってさ、あの薬をちょっとだけ拝借して調べてもらったことがあるんだ。それであれ、何の薬だったと思う?」


「さあ? 知らないし、興味もないわ」


「主成分はアセトアミノフェン。要するに、ただの市販の風邪薬だ」


「はあ?」


 寝耳に水、といった顔だ。

 ムリも無い。

 けれども。


「ギシンは神にも等しい存在、だと言われていたのに、なぜそんな俗世の薬が効いたんだろうな? オレも当時は納得できなかった。だから、その後に今度はオレの髪の毛から塩基配列を調べてもらうことにしたんだ。神の因子が見つかることを期待して、な。だが、結果は想像とは真逆、オレの遺伝子は人間と全て一致、ギシンは生物学的には人間と全く同じだということが、証明されただけだった」


 正直、予想はしていた。

 母親はともかく父親はいたって普通の人間なのだから。


「なによそれ? なんでそんなウソを言うのよ!!」


「ウソじゃない。ホントのことだ」


 オレだってギシンとしてのアイデンティティが欲しかった。

 人間よりも優れている、選ばれた存在という確固たる証明が欲しかったんだ。


 だから必死に求めた。

 そうでもしなきゃ終末獣と戦うなんて冗談みたいな現実、受け入れられるわけないだろ。



 だけど世間で言われている通り、現実はどこまでも残酷だったんだ。



「仁はそれでいいの?」


「いいも何もそれが事実だ。受け入れるしかないだろ」


「じゃあ神威は? この素晴らしい力はなんなの? この力の存在こそ私たちギシンが神に近い存在だという証明に他ならないじゃない」


「正直、神威についてはオレもよく分からない。だがはっきりしているのはこの力はちっとも素晴らしくなんかないってことだ」


「どういう意味よ」


「神威は神のような奇跡を起こす力じゃない。ただ異世界からくる化け物を駆逐することに特化しただけの力、言い換えればただの武器。こんな武器を生まれながらに持ってるおかげで、オレ達は紛い物の神扱いされて、終末獣と戦うことを強要されている。だからと言って別に感謝されたり崇められているわけでもない。ただ人間と接していなければ神威が発動しなくなるから、妥協して世間に置いてもらっているだけの異邦人だ。オレ達をそんな境遇におとしめた神威が素晴らしい力だって? そんな風に思えるのだとしたら、それはただの自己欺瞞ってヤツだ」


「そんな事ないわ。神威のおかげで私たちは……」


 完全に言葉に詰まるトキノ。

 そりゃそうだ。神威のおかげで得したことなんて、

 いくら考えてみても思い浮かぶはずがない。


「これで分かっただろ。ギシンなんて呼ばれているオレ達が、ただの運のないだけの人間だってことがさ」


「ウソよ、そんなのウソ」


 トキノは顔を伏せてブツブツと呟きだす。

 人一倍ギシンとしてのプライドが高いヤツだ。

 よほど堪えていると見える。

 

「仁は、なんで、そんなひどいことを言うの? もし、仁の言う通りだとしたら、私は、本当にただのついてない、かわいそうなだけの人になっちゃうじゃない。それを受け入れろっていうの? そんな残酷なことを私に突き付けるの?」


 ぐっと唇を噛みしめるトキノを見ても、オレの決意は揺らがない。揺らいでなるものか。


「だって、神さまだっていうから私我慢してこれたのに……」


 トキノは自らの太ももに触れる。



 感覚を失い、二度と満足に動かなくなった自らの脚を。


 直立することがやっとで、神威を使わなければ一歩も動けないその不自由な脚を。


 神威は、目覚める際に何かを引き換えに奪っていく。



「仁は・・そんな事実を知ってもなお戦えるっていうの?」


「ギシンが戦いを放棄したら世界は三日も持たないだろうな。オレ達には生まれた瞬間から戦わないなんて選択肢は与えられていない」


「……いやよ。」


「何だと」


「私はいやよ。戦わない。終末獣を倒す責任を負わされる、なのに自由に力を使っちゃいけない、そんなの納得できて!? なんでのほほんと暮らしてる人間にそこまで指図されなきゃいけないのよ!?」


 トキノが吠える。

 だが、肩を抱いて自らを支えようとしているその姿は

 口調の強さとは裏腹に、とても儚げに見えた。



この回も伏線回となっております。


回収は……3章くらいで行おうと思っております。^^;

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