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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第9話

「ふわぁぁ、今日は、あっという間だったなぁ」


 思ったことを恥ずかしげもなく口にしてしまうのは、

 きっと、寝起きのテンションというヤツのせいだろう。


 今日一日は本当に短かった。

 あっと言う間だった。


 何せ、寝ているだけで一日が終わってしまったのだから。


 結局、一限目が終わったあとからオレは一度たりとも目を覚ますことはなかった。

 どんだけ爆睡してるんだ、オレは。

 ムリな体勢で寝ていたため体の節々から悲鳴が上がっており、昼飯を食べそこなった胃からは抗議の音がひっきりなしだ。


 なぜ誰も起こしてくれなかったのだと恨み言を言いたくもなるが、まあそこはギシンだから仕方ないと自分を納得させる。


 なんせ世間では、触らぬ神にたたりなし、と言うしな。


 だが、おかげでコンディションだけはバッチリだ。

 これで深夜の鑑賞会はつつがなく執り行えるだろう。


 フフフフッ、全ては計画通り、なんだぜ(?)

 

 不敵な笑みを浮かべながら校舎から出る。

 するとすぐに異様な雰囲気に気付く。


 なんだ? 何かあったのか?


 下校する生徒の流れが滞留して、校門付近でちょっとした人だかりが出来ていた。


 どうも校門付近に何かがあり、誰もがそこで一度足を止めるため渋滞が起きてしまっているようだった。


 オレも野次馬でその人だかりの背後につけ、背伸びして中央を覗いてみる。


 人がいた。


 ……なんかよく見知った顔だった。


 オレはソイツに気付かれないように、ゆっくりと回れ右すると身を屈めながら校舎の中へと引き返す。



 な、何しに来たんだアイツ?


 っていうか、何を考えてるんだ?


 こんなところで何かあったらどうするつもりなんだよ?


 て、TPOを誰かアイツに教えてやってくれっ!!


 遠い遠い財団のお偉いさんたちに向かって、オレはそう願っていた。

 

 すると下駄箱に見知った顔が現れる。


「あれ? 仁も今から帰り?」

「………………」


 火野華と時雨の凸凹コンビのおでましだ。

 どうも今日はこの二人とやたら縁がある。

 なぜ今日に限って。


「あ、あぁ、帰ろうかと思ってたんだが、ちょっとヤボ用を思い出してな」


 オレは冷静を装いジェスチャーを交えて校内に戻ろうとする意志を伝える。すると。


「ふーん。じゃあわたし待ってるよ。しぐっちごめん。今日は先に帰ってて」

「えっ? でも、今日はいっしょに英語の課題やるはずじゃ……」

「それはそのぉ~ホントにごめん!! こんど絶対埋め合わせするから!!」


 おいおい、男よりも女同士の友情を大事にした方がいいと思うが……、

 分かってる、分かってるから時雨、そんな目でオレを睨みつけないでくれ。


 はぁ、仕方がない。


「と、思ったが実はそんな大した用事じゃなかったから、やっぱり帰るところだ。つー訳でお先に」


「あっ、待ってよ!!」


 慌てて靴を履き替えようとする火野華を置いて、オレはダッシュで校内から出る。


 こうなっては仕方ない。

 一刻も早く学校の敷地外に出るとしよう。


 オレは自らの脚力に全てをかける。

 風よ!! 力を貸してくれ!!


 校門から離れた位置にある来客用出入り口めがけて全力疾走する。

 この位置からだと校庭の真ん中を突っ切ることになるので、少し目立ってしまうが、こっちの方が距離が短い。なによりアイツのすぐ近くを通るのは避けたい。


 途中トラックを周回する運動部とニアミスしそうになったが、なんとかオレは来客用出入り口まであと一歩のところに迫る。


 勝った。


 勝利を確信したオレは、思わず校門に向けて、心中で勝利宣言していた。

 

 すると何か第六感でも働いたのか、ふいにこちらを向いたアイツと視線が合う。


 ヤバい!!? と思った時にはすでに時遅し。


 次の瞬間にはオレの胴はガッチリとホールドされてしまっていた。


 鼻腔いっぱいに、沈丁花の香りが広がる。



 ……懐かしい匂いだな。



 オレはもうすっかり白旗を上げて、とりあえずその芳香を堪能することにした。



「……なあ、一つ聞いていいか。」


「どうぞ」


「シャンプー変えた?」


「ふふっ、違うわよ。これ香水。いい匂いでしょ?」


「いい匂いっつーか、懐かしいっつーか、まあとにかくだ」


 オレは胴にしがみついている人物の肩をそっと押す。


「あいさつとしてはオーバーすぎるだろ、トキノよ」


 しばしの沈黙の後、トキノは名残惜しそうにゆっくりと離れる。


「何言ってるの? 久しぶりの再会なのだからこれくらい普通じゃない?」


 整った顔立ちに輝く銀髪、白磁のように透き通った肌を包むのは喪服のように黒いドレス。

 相変わらず現実感の薄いヤツだった。

 ほっとけばその内、ケガしてないのに眼帯と包帯をつけ出しそうな勢いだった。

 人、それを中二病と呼ぶ。


「久しぶりって……まだ別れてから一カ月しか経ってないけどな。で、今日は何しにこっちに来たんだ? 警報は出てなかったし、さてはあれか、タケノコ狩りだな」


 実はここだけの話、この時期オレの家の裏山では、それはそれは上質なタケノコが採取できるのだ。この町ではちょっとした穴場スポットとして有名なのだが、まさか外部にまで漏れ伝わっているとは驚きだった。


「冗談。アナタに会いに来たに決まってるでしょ」


 トキノは表情筋を動かすのすらもったいないとばかりに、真顔で否定する。

 うん、まあ分かってたよ。お前の恰好は山を舐めすぎてるしな。

 それにしても、アナタと来たか、おいおい……。

 財団のお偉いさん、コイツに正しい日本語を早急にお願いしやっす!! 


「そうか。それは遠いところわざわざありがとう。オレの健康は良好だ。心身ともに何の問題もない。安心しただろ。じゃあそういう事で、またな~」


 軽く手を挙げて、そのまま自然な流れでトキノの脇をすり抜けようとする。


 ……すぐにガシッと腕を捕まれてしまう。


「私はアナタの主治医じゃないわよ。別に健康状態を確認しに来たわけじゃない」


「じゃあ何だ?」


「……分かってるくせに」


 ほんの少しだけ口角を持ち上げてオレを見つめる。色香の含まれた視線。

 いや、ほら、分かっちゃダメだと思うんだが。


「ねぇ、さっきから何を慌てているの? せっかく会いに来たんだから、もうちょっと何かあってもいいんじゃない?」


 ヤバい、ぐずりだした。

 トキノの機嫌を損ねるのはこちらとしても本懐ではない。

 前はどこに連れてかれた(拉致された)んだっけ?

 慌ててフォローを入れる。


「いや、でも、あんまり遅くなるとマズいかなと思って。ほら、お前の家、結構遠いじゃん」


「フフッ、何を言うかと思ったら。それもなにかの冗談かしら?」


 お上品に口元に手を添えて笑うトキノ。

 うん、たしかに今のは冗談にもなっていなかったけどさ。




「ねぇねぇ、仁、この綺麗な人だれ?もしかしてモデルさんとか?」




 この時オレが感じた感覚はアレだ。血の気が引く、というヤツだ。


 

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