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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第7話

「火野華には絶対に近づかないでよね!!」


 放課後、机で頬杖つきながらボケっと校庭を眺めていたオレに向かって、

 ウチの高校の制服を着た女の子がいきなりそう告げてきた。


 オレは色々と思うところがあったが、

 まず、これだけははっきり言わなければならないという使命感に駆られた。


「キミぃ、ダメだよ。お姉さんの制服着て勝手に入って来ちゃ。ここは高校、キミにはまだちょっと早いんだゾ☆」


 どう見ても小学生のその子に、オレはお兄さんらしく優しくそう告げた。

 きっと背伸びしたい年頃なのだろう。かわいいものだ。


 だが、その女の子はオレの気遣いが勘にさわったのか、目つきを鋭くさせ睨みつけてきた。

 キ、キミ迫力あるね。


「なんで覚えてないのよっ!! 昨日、自己紹介の時間があったでしょうがっ!!」


 自己紹介?

 もしかして昨日、教壇の前で一人一分でやらされたあれを言ってるのか?

 でも悪い、覚えてないんだ。というより聞いてない。


 小中でもあったんだが、オレに見られてるのが分かると、みんな泣き出しそうな顔になるんだよ。だから最初から見ないし、聞かない。興味も持たない。これはギシンあるあるだから、責めないでほしいところなんだが。


「ん? じゃあ、キミって、もしかして、その、昨日もここに来てたの? さらに自己紹介までしたっていうの?」


 なんという驚くべき胆力だ。

 オレが小学生の時なんて、高校など得体のしれない魔窟(まくつ)にしか思えなかったが。

 そこにあえて飛び込んでくるとは何てガッツのある子なんだろう。

 あまつさえ自己紹介までして……いや、っていうか誰か気づけよ!!


 心の中でそんなツッコミをしているオレをよそに、その女の子はさらに語気を荒げ出す。


「当然でしょうがっ!!! 私のクラスはここなんだからねっ!!」


 ん?クラスがここ?


 んー、どういう事だ?


 って、よく見たら制服が体のサイズとぴったりフィットしてるな。


 つまり、このちんまいのはわざわざ特注の制服をあつらえて、入学式の日に高校に来て、クラスの誰からも咎められずに自己紹介を終えて、そしてまた今日この学校に来て、放課後に男子高校生にメンチを切っている、ということになる。


 演繹法によって導き出される驚愕の事実。


「も、も、も、もしかしてキミ、こ、こ、高校生なの?」


「当たり前でしょうがっ!!どこをどう見たら勘違いできんのよっ!!」


 どこって、逆にどう見れば高校生に見えると思ったのか教えてほしいくらいだよ!! などと不用意な発言は控えたほうがよさそうだな。


 すっかり怒ってしまっているようだし、なんかこの子、ちょっと、いや、かなりこわい。


「えーっと、でもキミ人違いしてるんじゃない?オレ、ヒノカって人知らないよ」


「しらばっくれないでよ。昨日アンタに手紙を渡してた子がいたでしょ」


「ああ、確かにいたな。そんなの」


 オレは机に手を入れてガサゴソとやり始める。

 すでに机の中が混沌としているのは、決してオレのせいではない。


 書類が多すぎるんだよ、環境保護の必要がもうないからって、開き直ってるんじゃないのか?3Rの精神を思い出せ!!人類よ!!


 オレは昔流行ったエコ活動の標語を、頭の中で叫びながら、目的のブツを見つけ出す。


「これだろ」


 淡いピンク色の封筒を指の間に挟んで見せると、女の子はひったくるようにそれを奪った。

 おいおい、ずいぶん乱暴だな。


 だが、女の子は封筒をジロジロと眺めると怪訝そうな表情を浮かべ

「もしかしてアンタ、読んでないの?」

 さらに眉間にシワを寄せて睨み付けてくる。


 やっぱり迫力あるな。


「ああ、まあな」


 オレは恐怖を悟られまいと鼻を鳴らして応答する。


「なんで読まないのよ。ありえないでしょ」


 あり得ない?なんでだ?仕方がないだろう、だって。


「あのなぁ。いくらオレがギシンだからって、神威が使える以外は普通の人間と同じなんだからな。殴られればちゃんと痛いんだぞ」


 実は小中とこういう類の嫌がらせにはごまんとあっている。


 女子力の高い封筒に、可愛らしい丸文字、情熱的な文面を見て何度胸ときめかせたか分からない。だが、なぜか呼び出された場所に行くと毎回ガラのよろしくない連中が待ち構えているのだ。

彼らの話を要約すると、ギシンを倒すと超スゲェ、超カッケェ、マジヤバい、だからシクヨロ!!ということらしい。


 ってシクヨロじゃねーよ!!トキメキを返せっ!!


 こんな連中の書いた文章に胸踊らされていたことに若干のむなしさを覚えつつ、オレは何度もそう叫んだものだった。


 しかし、ああいう連中はなんで終末獣が攻めてきた時のことを考えないんだろう?もしかしたら明日の見えない世界で、せめて最後にひと花咲かせたいと考え抜いた結論だったかもしれないが。


 だけどそれは、とても浅はかな結論だと言わざるを得ない。


 だって世界に12人、あ、いや、もう10人か。とにかくそれしかいないギシンが、終末獣に唯一対抗できる兵器が、どのように管理・保護されているのか想像が出来なかったんだから。


 言い訳に聞こえるかもしれないが、オレは直接は手を下してはいない。


 ただ、オレに絡んできた連中をその後見たことは一度も無い。


 だからお互いのためにもこうした呼び出しは極力無視するに限る、ということをオブラートに包みながらも切々と目の前の女子に語って聞かせる。


「全く高校生にもなってこんな幼稚な事するなよな。しかも入学初日とは流石のオレもドン引きだ」


 お灸をすえるために少しキツめに言っておく。これで分かってもらえたかな、と思って顔色を窺うといきなり目の前で閃光が弾けた。


 パシンッ


 やっぱり理解できてなかったか。さっき言っただろ。ギシンだって殴られれば痛いんだって。


 オレは、はたかれた頬をさすりながら、抗議の声を上げようとしたが。


「アンタ、終わってるわ。なんで火野華がアンタを傷つけるなんて勘違いができるのよ。あの子はね。アンタと―――」


 その時、教室の扉がガラッと開く。


 今度は間違いなくウチの生徒だと分かった。

 あんなにデカい小学生はそうそういないだろうし、なんか見覚えがあった。

 そうだ、確か昨日この手紙を渡してきたヤツに違いない。


 入口に立つ女子生徒はオレ達を視界に収めると、ニコッと微笑んだ。


「やっぱりここにいた!!」


「ひ、火野華」


 目の前の女子は慌てた様子で封筒をポケットにしまった。

 おそらく、角度的に入口に立つ女子には見えなかったと思われる。


「しぐっちありがとね。引き留めといてくれたんだね」


 入口に立つ女子は、そんな隠ぺいがあったことにも気づいていない様子で教室にずかずかと入り込んでくる。そしてオレの前でピタリと歩を止めると。


「えーっと、来てくれなかったって事は、そういう事なんだよね。でも、わたし、その、諦めないから」


 何か力強い口調でそう宣言される。


 うん、諦めないことはいい事だ。

 いつかきっと叶う日が来るだろう。がんばれよ。名も知らぬ女子。


 オレは心の中でエールを送っておく。

 何のかは分からないけども。


「ってことでまずはお友達になってくれないかな」


 ってどういうことですか?


「火野華っ!!アンタっ!!」


 小さいほうの女子は慌てた様子で、オレとデカい方の女子の間に割って入る。


 それを払いのけようともせずに、じっとただオレを見つめ続ける高身長の女子。


 そしてオレは


 あっけにとられ口をポカンと開けていた。


 なんだこの画は。


 放課後の教室に夕陽が射し始める。


 オレ達三人はその赤い陽を受けて、全員が燃えるように真っ赤に染まっていた。


 その時、人生初めて、言葉を失うという経験をしたのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~




 今、思い出しても本当によく分からん状況だ。

 一体何だったんだあのやり取りは?


 だが、人間は学習する生き物、今なら分かることがなんと三つもある!


 それはあのデカい方の女子が火野華で、


 ちんまいのが時雨だったということだ。


 そしてさらに


 どうやらオレは出会った瞬間から時雨に嫌われていたらしい。


 うん、なら仕方ない。

 原因が分からんのなら改善のしようもないな。


 オレはいさぎよく時雨との関係改善を諦めることにする。

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