第1節
―――人類はそう遠くない未来に絶滅します―――
そんな事を言われてああ、そうなんですか、と信じるヤツはまずいないだろう。
何をバカな事を言ってるんだ、と聞き捨てるのが普通の感覚だ。
だが、この世界に住む誰もが、その言葉を疑いもせず信じた。
なぜならそれは、預言者死村慈恩が発した言葉だったから。
彼女はある日突然、ネットの世界に現れた。
中二病全開のハンドルネームで、動画サイトに自分の予言をアップする痛いヤツ。最初に彼女を見た誰もがそう思ったことだろう。
だが、しばらくしてその認識が誤っていることに気付く者が現れる。
そして噂は喧伝され、詳細な検証がネットに住まう有志たちによってなされていく。
その結果、ある結論が導き出された。
あれ、この人………ヤバいんじゃない?
もしかすると、本物なんじゃないか、と。
彼女の予言は、とにかくよく当たったのだ。
どれくらい当たったかと言うと、パーセンテージで言えば、
――――100%当たった。
それは比喩でも誇張でもない。
本当に100%当たったのだ。
絶対に予測不可能なはずの事件、事故、天災も彼女によって事前に暴かれていく。
それはどんな奇跡もかすむほどの衝撃を、視る者に与えた。
その素顔はベールに隠されて分からなかったが、声は高いソプラノであったため、かろうじて女性ということだけは分かった。それ以外は一切が謎に包まれている女性。
そんなミステリアスな雰囲気と、絶対にあたる予言に誰もが魅せられ、いつしか死村慈恩の言葉はあらゆる言語に翻訳されて、世界中に発信されるようになっていった。
今日はどんな予言をしてくれるのだろう?
誰もがモニタの前で神託を待ち望む。
そんなある日の事、いつものように死村の新しい予言が発信された。
「……今日の予言は、少し特別な内容になります」
そんな前置きは今までなかったことだった。人々が何事かと見守る中、死村はカメラに向かってよどみなくこう告げた。
「人類はそう遠くない未来に絶滅します。
まず避けようのない、環境の変化が訪れます。
それによって安住の地が減少し、土地を求めて人間同士の争いが始まります。
その争いにより、人類の半数以上の方が亡くなるでしょう。
ですが、あなた方に降りかかる災禍は、それで終わりではありません。
その争いが終結したのちに、別次元の世界から災厄をもたらす獣、終末獣がやってきます。
その獣がもたらす破壊によって、残された秩序も崩壊し、全ての人が死に絶えることとなるでしょう。残念ながら今のあなた方では、絶対に敵わない相手です。
ですから今日お伝えしたいのは、せめて人間同士では争わず、
心穏やかに最期までの時を過ごして欲しいという、お願いなんです。
どうか滅びを―――粛々と受け入れてください」
それはほんの1分にも満たない動画だった。
だが、全人類を絶望のどん底に叩き落とすには充分すぎる長さだった。
なぜなら。
―――死村慈恩の予言は100%的中する―――
誰もがその事を身を持って知ってしまっていたのだから。
―――もしかしたら、死村は人類を絶望させるために現れた魔女だったのかもしれない。
その時、誰もがそう思ったことだろう。
そしてこの終末予言を最後に、死村慈恩は姿を消してしまう。
それ以来、人類は死の恐怖に怯えながら過ごすこととなる。
終末獣がいつ現れるのか?審判の日がいつ訪れるのか?
姿を消した預言者以外、誰もその日が何時なのか、知らない。