140字小説集 第3巻
永遠
「私は永遠と言う言葉を、現実にする存在なの。」
少女は不老不死だった。僕が子供の頃から彼女は何も変わらない。
「羨ましいな」
僕は激しく咳き込む。どうやら限界が近いらしい。
少女の流した涙は頬を伝い、線を作った。
「だけどこんな気持ちを味わうくらいなら、死んだ方がマシだわ」
朝の女神
会社の先輩に好きな人が出来たらしい。見たいと言うと朝の牛丼屋に連れてこられた。
先輩の思い人は客のOLだった。顔は確かに綺麗だがそれよりも目を奪われたのは牛丼大盛りを豪快にかきこんでいる姿だった。
「……美しい」
「だろ?」
先輩と俺は彼女を朝の女神と呼ぶ事にした。
あの子の夢は
バスの中。今日もあの子は眠ってる。ポケットにはスマートフォンが顔を
覗かせている。
耳にさしたシルバーのイヤホンからはどんな音楽流れているんだろう。
いやそれよりも。
彼女がどんな夢を見ているのかが重要だ。
あんなに幸せそうな顔をしているんだから。
ありふれた
ありふれた。
この言葉は普通という意味に捉えて嫌う人がいるけれど、私は大好きな言葉だ。
ありふれた日常。
ありふれた恋。
ありふれた幸せ。
ありふれているからこそ特別で美しい。
私はそんな「ありふれた」世界の中で頬笑みを浮かべ生きているのだ。
雪とエゴ
歌うたいになりたい君は今日、この雪の降る町から出ていく。
昔、必死にバイトして買ったという真っ赤なギターを担いで。
マフラーを巻いた私は彼に手を振り見送るんだ。
忘れてしまうのかな。
この町も、この雪も、この私も。
忘れないで。
そんな私のエゴな気持ちは、結局言えなかった。
SF映画みたいな世界で
君をロケットに乗せて宇宙に連れていく。
技術革新が進んで、SF映画がリアルなドラマになった現在でも、個人でロケットを飛ばすのはどうやら難しいみたいだ。
それでも僕は君を宇宙に連れていく。
あの星々が輝く空間には、君を泣かせるしがらみなんて無いはずなのだから。
涙
瞳から涙が溢れた。
一度零れた暖かい水は、顔に二つの小さな川を作る。
あたし気づいたの。
涙は誰かに贈るためにあるんだって。
それならあたしは、この流した塩水を君に捧げるよ。
迷惑かもしれないけれど。
枯れてしまった君に染み渡れば良いな。
願いを込めて、泣き叫ぶ。
役割
この世の中では、みんなが役目を持っている。
役目があるから人は生きていけるなんて言う人もいる。
じゃあ私の役目はなんだろう?
世界を変えるとか、そんな大それた事は無理だけど、隣で眠る君ぐらいは笑顔にしたいな。
自分で作った役目のおかげで、私は今日も頬笑む事が出来るのだ。
旅
飛行機の中でふと思った。
旅は脱皮に似ているのかもしれない。
旅先にいるのは今までの自分ではなく、全くの新しい自分なのだろう。
価値観、思想、経験、知識。
僕は過去を脱ぎ捨てる事が出来るだろうか?
……いや、考えるはよそう。
結果は行ってみなければわからないのだから。