3
粥を奢った翌日以降、それは置き続けた。
「それでは! お洗濯しますです!」
炭から作った洗剤を引っ繰り返して、部屋中を汚した。洗濯は翌日になった。
「それでは! お掃除しますです!」
雑巾がけをしていて、また襖に突撃した。今年三回目の修理だ。
「それでは! 焼き魚をお作りしますです!」
炭火で焼いた魚が消し炭になった。
「それでは! この兎さんを捌いて……お肉……きゅう……」
血を見ると意識を失うらしい。兎は逃げた。
「それでは! お野菜ですます!!」
気付いたら俺の分まで食べていた。生のまま。バリバリと。
「それでは! 水を汲んできますです!」
ずぶ濡れになって底の抜けた桶を持って帰ってきた。
「それでは! 炭焼きをお手伝い致しますです!」
最初から怖すぎて無理だった。
「美味いな、俺の作った飯は」
「……ごめんなさいませです」
小鹿の努力は怒涛の勢いで空回りしていた。
泊まり込んでから何度目かの満月を見ながら、俺たちは夕飯を食べている。
「……明日は、今までよりもっともっと、恩返しさせて頂きます!」
「ていうか、俺、一個も返して貰った覚えがないぞ」
「はい! いつも美味しい御飯ありがとうございます! 頑張りますです!」
「そうだな。そろそろ雨降りそうだし……明日はちゃんと屋根を治さなきゃな」
先ほど屋根を掃除すると云って小鹿がブチ破った穴から覗く満月を軸にした星空が、妙にキレイだった。
俺と小鹿の生活は続いた。俺が小鹿に恩を返し終わらなくて良いと思っていることに気が付いてからも、しばらく、続くのだ。