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少年オカルト

スレンダーマン

作者: mira

変なものを見た。


マンションのベランダに蜘蛛のように張り付いている人間。

異様に長い手足でベランダを器用に移動していく。

そして、ある部屋に着くと細長い首を更に細く伸ばし、窓に近づけて覗き込んでいるようだった。


そこからまったく動かない。

ずっと窓から中を見ているようだ。


今は学校の登校途中。

つまり朝だ。

良く晴れていて雲一つ無い。


なのに、僕の目には、異様な人間が写っている。

周りの人たちは気にも止めずにそのまま通り過ぎていく。


僕にしか見えていないんだろうか。


それからしばらく見つめていたが、その人間は窓を覗きんでそのままだ。

たまに顔の角度をすばやく傾けて変えている。

虫のような動作だった。


携帯のカメラで写真をとりあえず撮ってみたが相手にリアクションは無い。

そして、写真には……写っていない。

ただマンションのベランダが写っているだけだ。


でも、肉眼で見る限りその人間はまだ窓を覗いている。


学校に遅刻しそうになっている事に気づいた僕はとりあえず学校に行くことにした。

あれは一体、何なんだろう。



「それ、スレンダーマンじゃないか?」


なるほど、一理あるかもしれない。


スレンダーマンと言うのは海外で産まれた怪物だ。

異様に細く長い胴体と手足。

噂が伝播するに連れて格好や行動が多少変化していっているが、基本となるのはその姿だ。

見た目だけで言えば確かに近い存在だったかも。


「建物に張り付くスレンダーマンの動画が確かあったな。

 ロシアかどこかで作られた偽物だったけど、ちょっと見てみるか」


そういった友人のカヤは僕に動画を見せてくれた。

そこには建物に張り付いて移動する異様な怪物の姿があった。

少し似ている気はしたが、その映像の怪物はかなり大きく、そして人間の姿からは程遠い姿だった。


僕が見たのはもう少し普通の人間の身長に近く、また人間の面影があった。

長い髪もあったし服も着ていた。

女か男かわからないが、ズボンだったところを見ると男の可能性の方が高いかもしれない。

ただ、手足と首は普通の人間によりもかなり長かった。


「なるほど。もしかしたらだけど、そういう人だった……のかもな」


生きた人間と考えると取っていた行動が異様だ。

何をしていたんだろう。


「単純に考えると泥棒だよな」


確かに、部屋には入っていなかったが獲物を物色中だったのかもしれない。


「泥棒って忙しい朝が多いって言うし、案外本当にそうかもな」


そう考えるとあれだけ窓を覗きこんでいたのは何故だろう。

というよりも、やはりあの体つきは人間にしては細く長すぎるように思えた。


そうだ、しかも写真には写らなかったんだった。


「なんだよ、早く言ってくれよ。その写真見せてよ」


カヤと一緒に写真を見た。

やはり閑静なマンションが写っているだけで他には何も写っていない。


「どのベランダにいたんだ?」


ピンチ操作で写真を広げながらこのベランダだと告げる。

拡大しても何も写っていないし、窓にはカーテンが見えるだけ……。


「あれ、カーテンの隙間に顔みたいなものが見えないか?」


確かに床近くのカーテンの隙間から顔のように見えるものが……。

あ、これ顔だな。


「うん顔だな、たぶん女の人の顔……」


そうだ、女の人に見えるけど、もう少し拡大してみるか。

あれ、この人……。


「おい、この人……もしかして、死んでるんじゃないか?」


僕らは顔を見合わせた。

ベランダのカーテンの隙間には、苦悶の表情を浮かべ、口から血を流して横たわる女の人の顔が写っていた。




学校の帰り道は大変な事になっていた。


朝スレンダーマンが覗いていた部屋で女の人が死んでいたようだ。

パトカーがたくさん止まっており、ブルーシートがベランダを覆っている。


人だかりがたくさん出来ており、それぞれが様々なことを口にして喧騒となっている。

自殺、事故、そして他殺。

憶測が憶測を呼んでいるようだ。


もしかして、僕の写真に写っていたものは、本当に死人の顔だったのか。


ベランダ、マンションにはもう、異様なものは存在していなかった。


しばらくそこに立っているとテレビの取材も来ている事が分かった。

マンションから出てきた人にマイクを持った人が近づき声をかけている。


そこにスレンダーマンがいた。


取材を受けている人の背面にぼうっと立っている。

その体制のまま少し屈み、首を長く伸ばして顔を周り込むようにしている。

正面から顔を見ているようだ。


見られている人もマイク、カメラを向けている人たちも何も動じていない。

あんなに近くに異様な存在がいるのにも関わらず。


僕は怖かった。

毎日通っている学校への通学路が異質なものになっている事もそうだったし、

実際人が死んだ事、そしてそれを予感させたオカルト的なものと僕が結びついてしまったことが。


ベランダを取った写真を削除し、足早に家に帰る。

玄関を開け、自分の部屋にいっきに戻った僕は勢い良く布団に入った。

それからは夕飯までずっと震えていた。


一体これから何が起こるのか。



翌日僕は学校を休んだ。

熱は無かったが、妙に頭が痛くて気だるかったからだ。


ベットでずっと横になっていると昨日の事が夢だったような気もしてくる。

時間がゆっくりと過ぎていく。

特に気にする事はなかったのかもしれない。

単純に幻を見て、そして偶然その場所で人が死んでいただけ。


偶然の一致としては出来すぎているが……。


トイレに行った時に母親がつけているテレビをちらっと見ると、

昨日取材を受けていた人がテレビに映っていた。

深刻な表情で死んだ女性の事を話している。


それから死んだ女性の顔が映った。

その顔は写真に写っていた女性の顔に似ているようだった。

あの写真はやはり死んだ女性の顔を写してしまっていたんだ。

また頭痛がひどくなってきている。


しばらくするとカヤとクラスメイトの美智が尋ねてきた。

学校帰りにお見舞いに寄ったとの事だった。


「昨日のあのマンション、死んだ人のこと少し聞いてきた。シュンが気にしていると思ってな」


そういったカヤは死んだ人の事で分かったことを話してくれた。


「自殺だったみたいだ。風呂場で首を吊っていたところを管理人さんが発見したって」


風呂場で首を吊っていた?


「そう。風呂場で死んでいたところを発見された。死んでから5日は経っていたみたい」


じゃあ、あの窓に写っていた顔は?

死んだ女性の顔とそっくりだったけれど。


「訳が分からないよな。死んだ人とは関係なかったってことになる。

 少なくともあそこで死んだわけじゃないから、窓からは確実に見えないんだよな」


「幽霊って事もあるかもね。死んでいた人が居たわけだし」


美智が怖いことを言う。

確かに心霊写真という可能性もあるけど。


「何なんだろうな。ちょっと関係ありそうだけど繋がらないっていうか」


「勘違いって事でいいんじゃない? 事件性があるわけでもないし、その怪物が人を殺したって訳でもないし」


気にしないほうが良いと美智は言う。

どうやら彼女なりの不器用な気遣いみたいだ。


「写真は? ああ、消したのか。それがいいよ。気持ち悪かったしな」


「残念ね。ちょっと見たかったけど、まあ気にして翌日休んじゃうようならしょうがないね」


二人が家から出て行った後、体が少し元気になっている事に気づいた。

気持ちの問題だったのかもしれない。


窓から二人の背中が見えた。

妙に距離をとって歩いているところを見ると、二人きりは少し気まずいようだった。


水路沿いに歩いている二人。

もう少しで窓から二人が見えなくなる頃、カヤが水路に身を乗り出した。

慌ててカヤが走り出し、美智も急いでその後を追った。


何があったんだろう。


僕も窓を開けて身を乗り出してカヤたちを見ようとしたとき、水路を挟んだ道路に妙なものが見えた。


長い手足に覗き込むような動作。

間違いない、スレンダーマンだ。


スレンダーマンが二人の事を追いかけるように走って行く。

長い手足で走りにくそうだがスピードはかなりの速さだった。


僕は気が気ではなくなった。

急いで上着を羽織り玄関を飛び出して二人の後を追った。


すぐに美智に追いつく。

しかし、スレンダーマンは見当たらなかった。


「あ、シュン君! 水路に子供が落ちちゃったみたいで今カヤ君が……」


「シュンか? 悪い手を貸してくれ」


シュンが子供を後ろから押して、僕が子供の手を掴みなんとか水路から子供を引っ張り上げた。

美智がハンカチで子供の擦り傷を応急処置していると、周りに人だかりが出来ていることに気づいた。

救急車も呼ばれてちょっとした事件になっていた。


救急車を見送った後、周囲からの賞賛を受けた僕たちはちょっとしたヒーロー気分だった。

良い気持ちで解散しようとした時、スレンダーマンの事を思い出した。


「え? いたのか? どこにいたんだ」


二人の後を追いかけて行ったことを告げるが二人とも何も見ていなかった。


「なんで、いたんだろうな。子供が死ぬところだったのか?」


「訳わかんないわね。とりあえず今日は帰るね。ちょっと疲れた」


美智の言葉をきっかけに僕らは別れた。

怖い気持ちは無くなっていたが、正直混乱していた。


いろいろな事が起こりすぎて考えをまとめる時間がほしい。


家に帰った僕は、また少し痛くなってきた頭を抱えて眠りについた。




翌日は体調も良くなっていたから学校に向かうことにした。

放課後に警察に3人で事情を説明することになっていたこともあったからだ。


学校で二人と話してそのまま授業を受ける。

何事も無く放課後となった。


放課後、警察に簡単に事情を話した。

今度感謝状を貰える事になるといわれて僕たちは少し興奮していた。


「感謝状ってあれだよな、新聞とかテレビとかも来るんだよな!」


「そんな事ないと思うけど、ちょっとテンション上がるわね。警察に褒められるなんてちょっとないし」


三人で警察の玄関口を出る。

そこで僕らは立ち止まった。


目の前にスレンダーマンがいた。

まっすぐに立って首だけ伸ばし、僕らを覗き込むようしている。


顔は……僕の顔だった。

スレンダーマンは僕の顔をしていた。


呆然と立ち尽くす僕たち。

ひたすら僕らを順番に覗き込むスレンダーマン。


しばらくすると、スレンダーマンは満足そうに肯いた。


「な、何なんだ。お前は……」


カヤが搾り出すように声を出し尋ねた。


「ミタカッタダケ」


しわがれた声だったがスレンダーマンはそう言った。

そして、すばやい動きで僕らの前から去って行った。

あの長い手足で器用に走っていく。


僕らは何も言えずに立ち尽くしていた。

しばらくしてからカヤが呟いた。


「見ちゃったよ。スレンダーマン」


「なんで、アイツ。私の顔してたんだけど」


美智がそう言った。

美智には美智の顔が見えていたのか。


「オレは、オレの顔に見えた」


カヤもカヤの顔に見えていたようだ。

ということは見る人間の顔をしていたということ。


「まあ、何もしてこなかったし、害はない奴なんじゃない……かな?」


「そ、そうね。見たかっただけって言っていたし、私たちを見たかっただけなんでしょ?」


そういった美智の言葉で何か繋がった気がした。


見たかっただけ。

これからみんなが見たがる場所や人たちを見たかっただけ。

みんなより先に見たい、より近くで見たいって気持ちが強くてあの姿になっているのか。


「なるほどね。それか自分が注目されたいって思いがあると、あいつが来るのかもね」


美智が言った事も正しい気がした。

僕らは注目される事を少なからず望んでいたのかもしれない。


そうすると自殺したあの女性は……。


「あんな形で注目されたいとは思ってなかったと思うけどね。

 自殺したってことは、少なからず誰かから無関心を向けられていたんじゃないの?」


美智の言った事がとても悲しいことに思えた。

少し寂しい気持ちになった僕らは、なんとなくお互いに近くに寄って歩き出した。

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