(4)機銃掃射
縦列がくねくねと曲がった森沿いの道を進んでいく。穂先を焦がして硬化させた黒ずんだ竹槍が延々と連なっていく。
やっと、札幌市街を出た。
「戦国時代の足軽部隊ね」
桜子がやや息を切らしながら呟いた。
「まあ確かに。これで旗印を付けたら完璧だと思う」
ただ、戦国時代の足軽の槍はちゃんと金属の刃だし、第一、足軽の方が戦慣れしている。でもそんなことを口にして、周りに咎められたら大変なので、思ったことは胸の内に秘めておく。
しかし道を行くにしたがって、そんな冗談めいたことを考える余裕もだんだん無くなりはじめた。
疲れが溜まってくると前後に足を運ぶことで頭が一杯になって、ざくっざくっという行軍の足音がぼんやりと聞こえてくる。
出発してから3時間ぐらいが経った頃だった。
突如、爆音とともに黒い点が何個か青空に浮かんだ。その黒点はきらきらと光りながらこっちへ突っ込んでくる。
「敵機ッ!」
「散れーッ!」
黒点の翼端がきらめいて、煙を引いた曳光弾がこっちに殺到した。
悲鳴があちこちで挙がる。
私は足がすくんで、逃げなきゃとわかっていても座り込みそうになった。母親が私の手を取って森に私を引きずった。
機銃弾が横殴りの雨のように降りかかり、土埃を激しく噴き上げた。既に撃たれた兵士の上にかぶさった土埃は、血と混じって泥となる。
地獄絵図だった。
私たちの逃げ込んだ森にも次々と銃弾は着弾し、撃ち落された葉や枝、そして木の粉がぴゅっぴゅっと落ちてくる。
銃弾にえぐり取られた太い幹が私の隣にいたおばさんの上に落ちた。おばさんは悲鳴を上げてがくりと崩れた。頭がぱっくりとやられて太い幹の下敷きになった横顔に血がつーっと流れて落ちているのが見えて、私の頭の中の血液がずーんと冷えた。
敵機は来たときと同じく爆音を残してあっという間に帰って行った。
しかし札幌地区第八特設警備隊、そしてその指揮下にある国民義勇戦闘隊の三分の一が死んだり、重傷を負って動けなくなった。
「眞規子!」
敦子が叫んでいる。敦子の隣を歩いていて逃げ遅れた元・同級生の相楽眞規子が破壊力のある大口径の銃弾に粉々に砕かれて殺されていた。
土埃の舞う中で敦子をはじめとした、人々の悲痛な叫びを聞いて私は、気持ち悪くなって座り込んだ。母が吐き気を催している私を抱きとめて胸や背中をさすってくれた。
桜子が口元を押さえながら私を覗きこむ。
「真っ青よ、友枝。けがは?」
私は声も出なかったが、とにかく頷いた。
「損害を確認せよ!」
生き残っていた地区警備隊長が、叫びまわった。ぼろぼろに態勢を崩された格好の部隊の掌握を始めているようだった。
「損害――人間も戦うための道具にすぎないのか」
桜子はそう呟いた。そして桜子は歯をかちかちと恐怖のためか、憤りのためかわからないが、鳴らしていた。
さらに下士官たちが命令を叫び続けた。
「ドツボとイッポウだけを連れて行け! ニホウは置き去りにせよ」
軍隊特有の用語を使っていて私にはわからない。まわりを見てみると同じく軍隊用語に馴染みのない多くの人がまごついているようだ。だが「置き去り」と後ろにつく言葉に嫌な予感がした。苛立った下士官が叫んだ。
「歩ける者だけを連れて行く。歩けないものは置いていけ」
肉親を傷つけられた人々の中から悲鳴が上がった。
「お願いします」と下士官に詰め寄る人が何人も見えた。だが、いつ敵機が来襲するかわからんと怒鳴りつけられれば、もう抵抗する余地も無かった。
私たちは結局命令で、そこに重傷者や遺体を置き去りにして行軍を再開させられた。行軍の列は乱れ、戦う前から既に敗残兵と成り下がっていた。




