(7)書けないことと書かなければいけないこと
映画が終わり、大講堂が明るくなる。誰も途中退席をしない。途中退席をした回数も秘密警察はちゃんと確認しているので、迂闊にトイレにも立てない。明るくなってから提出が義務付けられている映画の感想を全員が書き始める。制限時間は30分しかない。私が前に聞いたところによると、「本当に愛国心を持っている人間は30分という短い時間であっても己の憂国の至情を文章で表現できるはずだ」という保衛省側の妄想的なこだわりがあるらしい。文章力の無い人はどうするのだと突っ込みを入れたくなる。
試験の時のように秘密警察官が通路を通りながらカンニングがないかを監視している。すべての職員は、まるで空白が残っていたらそれだけで処罰されると怯えているように、ただ背中を丸めて用紙を真っ黒に埋めていくのに全精力をつぎ込んでいる。
カリカリカリという鉛筆が藁半紙の上を擦る音が耳障りで、私を落ち着かない気分にさせる。いい言葉が浮かばなくて苦悩の表情を浮かべる人もいる。その人も白紙で出したらもちろん無事では済まないとわかっている。しかも、限られた時間は刻々と消えていく。焦りに焦って、苦しげな表情を浮かべているのは、傍目から見てもかわいそうだった。
権力者が解釈をほしいままに操ることで、人を奴隷にしてしまうこの状況を私は見たことがある。実を言うと私はその理由を探ろうとしたことまである。




