(1)機密要塞の中へ~中規模機械製作省
1958年 北日本人民共和国・真駒内
「そろそろですよ、主任さん」
「あ、そうね」
昔のことを思い出していた私は、運転手の声で我に返った。
外の景色を見ると、二重の鉄柵と無数の監視塔で囲まれた警備厳重区域に沿って公用車は走っている。真駒内の原子力研究都市はその性質上、地図上でも空白で表記されるほど機密性も高く、警備も官庁街の比ではない。
監視塔に据え付けられた機関銃とサーチライトが私たちを睨んでいた。
この要塞のような研究都市内に書類の配送先の中規模機械製作省の本部がある。
私の視界に入るだけでも自動小銃を構えた兵士が100人はいるだろうか。北日本人民軍はもちろん、国家保衛省の警察官が、獰猛な面構えの警察犬を歩かせている姿もあった。
「両手を頭の後ろへ!」
「身分証を確認する……よし次」
「車体の下を検査する! 次はトランクだ!」
「写真機や武器などは持ち込んでいないな?」
検査係が、先端にミラーをつけた長い棒を車体の下に突っ込んで、爆発物などを持ち込んでいないかを覗きこんでいる。衛兵がさっきから私たちに自動小銃の狙いをつけている。
「チッ。いつ来ても面倒なところだ。たっぷり一時間半はかかる」
運転手はこのやたらに厳重警戒、厳重検査ばかりの場所に来ることをいつも嫌がっていた。
――妙ね。
自動小銃を構えた兵士たちが車の周りをしきりに横切って行く。その様子を後部座席に座って見ていた私はあることに気づく。
―兵隊の行きかう間隔が狭い。
それだけいつもより多くの兵士が頻繁に行きかっていることになる。
―なんだか、いつもより警備が厳重ね。
その理由に心当たりは無かった。運転手にもなさそうだ。
さっき並走したソ連兵を満載した軍用トラックのことが脳裏によぎった。




