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小説『狭い器』 本土決戦の中で私と桜子は二人だけの世界を構築した。  作者: 居木井丈晴
第一章 北日本人民共和国の朝
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(1)スターリン様式での眠り

挿絵(By みてみん)

(一)

1958年10月。北日本人民共和国・首都 札幌。


 私はベッドの中から手を伸ばして、うすぼんやりとした意識の中でカーテンを少し開けた。白熱電灯をぶら下げた天井に、開けたカーテンの隙間からぼんやりとした白い光がすっと伸びている。それがベッドに仰向けで寝ている私の視界に入った。


――どうやら今日は曇りのようね。


 そう思ってから私はゆっくりとベッドから這い出た。午前七時。

私はぼんやりとしている頭を軽く振った。


 窓からは、全く規格の同じ、長方形の小さな小窓だけが並んだスターリン様式の高層アパートの灰色の壁以外は何も見えない。冬も近い、この季節のこんな曇り空の日に、丸みのある柔らかさ一つ持っていないこの灰色の罅割れた壁は、憂鬱な雰囲気を醸し出して、私の心を掻き乱してくる。

 

ベッドから這い出て、ヒーターに点火する。それから肩口が掠れてぼやけた水色になっている使い古しの濃紺の人民服に着替えた。


 私はヒーターに軽く手をかざしてから、刺すように冷たいフローリングの床を踏みしめて配管がむき出しになった簡易キッチンへ行く。点火装置の無いコンロに、マッチで火を点けて、そばに置いていたホーローの鍋を温める。鍋には昨日の夜に作り置きした芋粥が入っている。それは一夜のうちに完全に水を吸ってねっちょりと粘ったけれど、私はそれを深皿の中に、おたまで落とし込むと食卓へ戻り、手早くかきこんだ。


 朝食を終えた後、壁に釘で打ち付けた鏡の前で、髪の毛に左手を添えながら、私はさっと右手に持ったブラシをざっざっと大雑把な手つきでかけた。髪の毛を整え後ろで纏めると、前髪の一部を耳のすぐ近くの左頬を隠すように垂らした。そして私はショルダーバッグを肩に掛けると、ヒーターを消して時計を見ながら、足早に職場へと向かった。

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