表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界戦記譚  作者: 田中銀二
1/5

一話

 初投稿になります。

 誤字・脱字等沢山あるかもしれませんが、随時直して行きたいと思いますので

 生暖かい目で見てってください。

 住んでいたのは日本の片田舎だ。

 といってもコンビニには不自由しないしネット通販だって頼めば翌日に来る。地域住民は情に厚いでも薄いでも無い。高層ビルや住宅密集地などはないし回りは田んぼだらけだが、山奥でも何でも無い。

 随分中途半端なところだと子供の頃から思っていた。


 30年生きてきたが、血を見るような凄惨なことも奇跡のような幸福もない。

 家族は優しい母と、お調子者だが頼りになる父と、可愛いと思う妹がいた。

 容姿は悪いとは思わないがよくもなかった。身長は平均より少し上で、髪は染めた事はないから黒々としている。女性と付き合った事もあるし、振られたこともある。女性から告白された事はないけれど。

 多分自分は幸せな環境で生きてきたと思う。


 もちろんたまには不幸があったり辛いと思うことはあったが、やはり所詮庶民的で一般的なものだ。

 今日も何事もなく朝起きて 働いて 飯を食べて 家族と他愛も無い話をして 風呂に入って 眠る

 明日も同じ。

 それがずっと続いていくものだと思っていた。



 ※



 ツンとした血の臭いが鼻につく。

 此処数年で嗅ぎ慣れてしまい、不快感も沸かなくなっている自分につい笑いが漏れた。

 幸いにもこの臭いの発生源は自分の体ではなかった。周りに吐いて捨てるほどある死体と、死体になりかけているヤツらからだ。


 此処は戦場だっだ。


 フラフラと足を引きずりながら辺りを見渡すと燃える天幕と屍の海である。

 しかしながら屍の海を構成しているのは味方のものばかり。まばらに敵の兵の死体も見受けられるが、状況は酷いものだ。

 この戦いの決着はもうついたのだろう。自分の勢力の軍は壊走し、生き残ってる味方は既に撤退したのか姿が見えなくなっている。それの追撃に行っているのか敵の兵の姿も無い。

 おそらく気絶している自分を敵は死体だと思って捨て置いたのだろう。とてもありがたいが、ここで阿呆のように立ち尽くしていては死体剥ぎの部隊に見つかってしまう。そうそうに移動しなければならないが……。


「うちの傭兵隊は壊滅だろうな……。」


 所属の傭兵部隊に合流しようにも、まちがいなく既に離散してどうしようもなくなっているだろう。なにせ仕切っていた団長の頭に矢が刺さるところを間近で目撃したのだから。


 自分がいた傭兵隊【山猫の爪】は、規模は200人程で傭兵家業をやってる組織としては平均値である。構成員は山賊崩れとか元兵士なんかはありがちだが、パン屋の次男や獣人・亜人まで出自はバラバラの集団だった。

 しかしそれでもうちの部隊はそこそこ名が知れていた。というのも 団長は腕っ節も強く、なにより人の使い方が上手く出自や人種にこだわらない能力主義の人だったのだ。短気な人ではあったが確実に上司としての器があった。

 人間の連携や獣人の特性・亜人の特技なんかを生かした采配は連戦連勝……とまではいかないが、勝てる戦を勝って負ける戦を回避してきた。その中に自分の戦術論も少なからず影響していたと自負はしている。


「それでも負けるときは負けるもんだな。」


 自嘲気味の苦笑と共に、誰に向けた訳でもない台詞が口から出た。


 頭を振り思考を切り替える。これからどうするか、何処に行くかを考えなければならない。

 世話になった団の合い言葉は 生きているなら生きて、死ぬなら死ね だ。


「生きているなら生きる か……。」


 死んだ者の為に悲しむのは、悲しめる状況になってからでいい。

 振ったおかげでボサボサになった頭を抑えながら思考を走らせる。


 今自分のいるところは《オリステール王国》の西方前線拠点から西へ2日歩いた先の大草原だ。オリステール王国は今回の雇い主である。鼻持ちならないお貴族様ばっかりの所だが流石に金払いがよかった国だ。

 さらに周辺の地図を頭に思い描く。オリステール王国を中心に置くと西にあるのが敵として戦った《カルバーラ王国》、さらに西には大きな領土を持つ《シルトドキア帝国》がある。北には小国家群があり、その先は大森林だ。

 東にあるのは《トルテモト宗国》という宗教国家があり、南には《ニゴステ共和国》がある。ニゴステ共和国は海に面した商業国家でにぎやかな街だった記憶がある。


「久々に魚が食いたいな。」


 戦場で次に食べたい飯に思いを馳せるなんて我ながらどうかしている気もするが、今出来る事はそう多くない。だったら行き先を腹の虫に決めてもらうとしよう。


 握りっぱなしだった抜き身の剣を鞘に納め、足を南に向けた。

 方位磁石など無いが方角は日の向きでわかる。

 南の港町まで掛かる日数にうんざりしながら歩き始めた所で――――――。



 右肩からトスッと言う軽い音がした。

 同時に強く押された感覚につい倒れ囲む。

 右肩に目をむけると、肩から矢が生えていた。


(嗚呼、魚は当分お預けになってしまったかな……。)


 離れた所から聞こえてくる人の声について考える間もなく、自分は意識を手放したのだった。



 ※



 自分は押し込まれた薄暗い牢の中で、今までの境遇を思い返していた。


 この異世界に放り込まれたのはもう三年前になるだろうか。


 目が覚めたら唐突に異世界にいたのだ。

 よく噂による飛行機事故による行方不明だとか、

 体に落ちた雷の影響だとか、

 心霊スポットでの神隠しだとか。


 そんなこともなく、ただ普通に寝て起きたら草原の真っ只中に寝間着のまま倒れていた。


 思い返すとあの時の自分は悲しいほどに滑稽だったに違いない。


 朝日に促され、目が覚めるなんて殊勝な事はなかった。

 自分の出勤時間は大体午後だ。朝を寝てすごし、昼に起きて、簡単な準備をして家を出る。

 普段なら時間を確認して二度寝を決め込むはずだった。しかし、あまりの違和感に一気に意識は覚醒した。


「な…!?」


 口から驚愕の呻きがもれる。


 周り一面の草原に、遠くには聳え立つ山々が見えた。


 頭が混乱する。昨日まで普通に家の布団で寝ていたはずだ。何故?此処は?夢か?幻か?夢遊病のケなんてなかったはずだ。となるとまだこれは夢の中か?ココまで滑稽無等な夢なんて見た事あっただろうか?


 しかし嗅覚には草の青い臭いが入り込んでくる。試しに頬を強く抓ると間違いない痛みがあった。

 色々な疑問が頭を駆け巡る中、起きているのを確かめるために頬を抓るなんて漫画のような事をする日が来るなんてなぁと間の抜けた事を思ったのを覚えている。


 その後はしばらく呆然として、幻だと笑い、狂ったように叫び、覚めない幻に泣き、唐突な現実に怒った。それを繰り返し丸二日も続けたのだから、案外体力はあったのかもしれない。


 何回目かの泣きに入った所で、あの傭兵団に拾われたのだ。


 まぁ、後ろから殴られ昏倒したところで簀巻きにされて拉致られたのを拾われた といって正しいかどうかわからないが。


 傭兵団に殺されなかったのは、多分タイミングが良かったのだろう。

 あとから聞いたのだが、仕事の後で懐に余裕があったこと。仕事の後で人出が減ったこと。団長が変人だったことが要因のようだ。

 仕事の前だったらきっと早々に切り捨てられたに違いない。


 この世界については傭兵団に教わった。

 天幕に縄で繋がれながら近くに居た見張り番の男にアレコレ聞いたのだ。

 気が狂うほどに体力の余裕がなかったおかげで、すんなり受け入れられたのは僥倖だったに違いない。

 夜中遅くまで質問攻めにあったこと見張り役にとっては不幸だっただろうが……。


 今居るこの世界に名前などは無かったが(それもそうだ。前いた世界にも名前など無かったし。)、大陸の名前はシオウ大陸という、聞いたこともない地名だった。

 文明のレベルとしては中世の欧州に似ているようで、麻の服を来て、黒く硬いパンを食べ、木と石と煉瓦の家に住み、剣と弓で人を殺す。

 異世界においても争っているのだから、ヒトの程度というのは変わらないのかもしれない。

 大陸は長く続く戦争時代に陥っており、各国での争いを飯のタネとして傭兵達は食いつないでいるそうだ。


 元の世界と似ていない部分も勿論あった。


 まず獣人や亜人などの人種がいた事。肌の色の違いなどというレベルでない種の違いには驚愕を隠せなかった。

 傭兵団にいた獣人は、犬の様な顔と体毛の生えた犬人族。それと、人の顔はしているが猫の耳を生やした猫人族という人がいた。ここら辺ではその二つの種族が多いらしいが、少数でまた違う種族や他の地方には蜥蜴の様な姿をした種族もいるらしい。

 亜人に関しては団に一人だけドワーフという種族の亜人がいた。亜人種には他にもエルフやホビットなどお伽噺や映画に出てくるようなワードに胸が騒いだが、これは異世界の言語による影響だった。


 異世界でも種族や地方に寄って言語が違う。しかしそれでもこの世界に[言葉が通じない]と言うことはない。

「何故此処では日本語が通じるのか」と見張りに聞いた所、まるで奇妙な言葉遊びをする子供を見るような目で見られたものだ。

 何故ならば、どの言語で話そうとも相手には意味が直接伝わるのだ。

 どうやら言葉で聞いたものは不思議な力で翻訳され脳に認識されるらしいので(それ以外に情報が得られなかったのでとりあえずその結論にしておいた。)種族名が自分の知るワードになったということだ。


 他にもこの世界には魔法が存在する事を知った。

 魔法は自分の想像する通りのモノのようで、何もない所から火を出したり、水を操ったり、岩を動かしたりするらしい。

「あなたも魔法が使えるのですか?」と見張りに聞くと大笑いされた。

 魔法が使える人間は1000人に一人居るか居ないかの希少さで、使えたとしてもピンキリが激しすぎるのだそうだ。

 とはいえどんな弱くとも魔法がつける人間は大体は国で雇われるほど引っ張り凧らしい。


「使えたらこんな所にいたりしねーよ」とは見張りの言だ。


 聞いた話を頷いたり唸ったりしていると、見張りに

「まるで学者みたいだな。」

 と言われた辺りから自分の境遇が変化して言ったような気がする。


 拾った男が変人で学があるかもしれないという事が団長に伝わり、考える頭を持つものが少ないから役に立ちそうなら使って見るかと団長に呼びだされた。

 髭面で浅黒く、いかにも山賊顔をした団長に失禁しなかっただけその当時の自分を褒めてやりたい。


 酒焼けした声で自分の名前を聞かれたとき、ようやく自分の名前を思い出せない事に気がついた。


 元居た世界の記憶はある。

 自分が何処に住んで、何をして生きてきたのか。

 元居た世界の様子も覚えているのに名前が思い出せない。

 そしてさらに家族の名前や顔までまるでモヤがかかった様に思い出せなかったのだ。


 正常であればまたそこで発狂していたのかもしれない。

 しかし心は落ち着いて、まるで仕方のないことだと割り切ったような気持ちにさせられていた。


 心の異常を感じながら狂うことも出来なくなった自分はどんな顔をしていたのだろうか。

 今となってはそれを聞く事ができる相手も居なくなったが。


 団長はそんな自分に同情したのか もしくは呆れたのか(多分後者だろうが)それ以上聞く事はなかったが、名前がないのはこれから不便だと云う事で新しい自分の名前をつけた。


 ダンド


 団長の故郷の古い言葉で「物忘れ」と言う意味らしい。


 こうしてダンドとしての自分の生活が始まったのだった。


 それから自分は計算が出来るからと事務方にまわされ、色々雑務をさせられた。

 正体不明の人間をよく働かせる気になったものだが、冷静に考えれば平和な社会で育った自分は貧弱で、素手で殺せるヤツだから何が出来るわけでもないだろうとの事だった。

 自分の仕事ぶりは案外評価され、いつの間にか作戦会議にも顔を出させられるようになり、戦場に連れて行かれるようになった。


 最初は血を見て青ざめたり、ゲロを吐いたりしたものだが、2回3回と戦場に連れ出されるようになってからはそんな事は少なくなった。感情の起伏が少なくなっていく異常な感覚はいまでも強くなっている。


 親しい人もできたが傭兵家業の悲しきかな、顔の入れ替わりが激しいのは止むを得ない。色々教えてもらった(質問攻めにしたとも言うが)見張りの男も4回目の戦いの後に見なくなってしまった。


 3年の間に色々あったものだと思う。


 そしてこれから自分はどうなるのか。


(もしかしたら明日には殺されてしまうかもしれないな。)


 その確率は低くないだろう。敵対していた兵に捕まってしまったのだから。

 殺される前に一服させてくれるだろうか?

 異世界に飛ばされてから三年間煙草を喫む事が出来なかった。

 当分味わって居ない煙の味を思い出していると、コツコツと牢内に複数の足音が響き始める。


「件の捕虜はこちらの檻です。おそらく【山猫の爪】の者で間違いないかと。」


 男の声が近づく。自分の格子の前に現れたのは二人の男と、一人の女だった。


 男の一人は見張り番だろうが、もう一人はがっちりとした鎧を着けた厳つい男。

 もう一人の女は……。


「貴様、所属と名前を言え。」


 褐色の肌に銀の髪。


 アメジストを思わせる澄んだ紫の瞳。


 高い鼻と強気さを伺える唇。


 そして騎士服がやけに似合う美人だった。



見切り発車で投稿したのでサブタイやあらすじ、前書きなんかは変えたりするかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ