悪役令嬢はBAD(ry 後日談
あの国を去り、妙な邂逅を済ませてから2か月がたったある日。
爽やかな朝、モーニングコールとともに清々しい気分で目を覚まし、朝食を食べ、のんびりと自室にて読書でもしようと思っていた時
「……貴女は現れる、本当に神出鬼没ね」
『いや~、照れるね』
そう白々しくも照れる動作をする某国工作員
『あっ、今絶対私の名前も国も出さない粗雑な感想抱いたでしょ』
「あら、あなたの国は医療・薬学だけでなく心理系も発達傾向なんですのね」
『否定もせずにハキハキ言うよね』
「それで、何の御用かしら、わざわざ警戒態勢を強化していたにも拘らず、やすやすと入り込んできた、ゴルベスト王国の諜報員Aさん」
『……アミリシア、貴女本当は人の顔憶えるの苦手でしょう。まあ良いわ、用件はね、併呑した国に戻ってくる気はないか、って打診して来いって上が』
「BADENDの人物を連れ出すのはお止めなさい。どっちにしろ、双方にとって益にはならない事よ」
その答えを予め想定していたのか、ニンマリ笑いながら
『もうあの4馬鹿はいないんだから戻ってもなんともないでしょうに、そんなに穴倉にいるのが好きなのかしら、コウモリ令嬢は』
「……BATENDと言いたいの?アレは無能な作家が書き立てているだけでしょう、初め見た瞬間誤字の類だと思ったわよ。」
『でも理由を聞いたら、納得できたわよ。って言うか、あてはまり過ぎよね、貴女の家』
「………その反応を見る限りさっきの用件はついでで、そっちを聴きに来たんでしょ、貴女」
『否定はしないわ、まあ、諦めて話すか、私が話すのを訂正するか、どっちがいいかしら』
「自己語りとか、薄ら寒いわ、貴女が話せば良いわよ」
『あらそう、じゃあこっちの情報収集能力の一端を教えてあげるわ。バレンシュタットフェルト家はもともとあの国じゃなくて、建国の時に現れた流れの余所者だった。ただ優秀な才覚を持ち、建国の祖、初代フェルマニス王に召し抱えられる事になる。』
『その後、今の代になるまで侯爵家として王国に存在した。表向きは領民の血税で裕福な生活を。裏では国内の情報を収集しつつ、王国の害悪になる虫を駆逐していた。まあそれ自体は秘密裏に降していたみたいだから、王国からの評価も何もなかった。その分、秘密の裏金が出来た訳で、これが表向きの理由と見事に沿っていたし、悪役侯爵家といった評判が付いて回る結果にもなった。』
『そして、ある事件のせいでその王国からも身を引くことにした。そして分散していた裏金の一部で建てていた別荘に身を隠した。』
「それが今の状況ね、って言うか、原因の大本が客観的に話しているのは若干むかつくわね」
『それで、間違いはあったかしら』
何故か満足げな、ドヤ顔とも言える表情をしながらこちらに聞いてきた。
「そうね」
そう言いながら、考える振りをして
「初めは、休憩のつもりだった、でも止まった若木は実をつけようとしていた。だから暫し、その場に留まってみようと思い、果実に群がり始めた虫を食う事が出来た。でも、まさか、甲虫が飛んでくるなんて思わなくてね。思わず手出しできず、実が腐ってしまったわ。留まる事は止まる事に非ず。我が家の家訓というか、教訓ね。」
『ほらやっぱり、BATENDになった訳よね』
「ぶら下がる国が亡くなった時点でBADENDなのよ、蝙蝠とは皮肉だったけど」
『作家はすぐさま場所を移る事を皮肉ってだと思うけど』
「いずれにせよ、こんなこと後付けにしか過ぎないわ。物語はあの時点で終わった。だからもう触れても意味は無い。満足するか、取り繕うか、言い訳がましいだけよ。」
『……とことんまで、未練も何もない感想を言うわね』
「あら、未練はありますわよ、悪役は意外と楽でしたのよ、相手は勝手に勘違いをし、疑ってかかり、こっちは好き勝手に振舞っていて良いんですから、あと情報網が弱体化したのも痛手でしたわ。この国に今貴女の国が進行をかけても判らないんですもの。何時の間にか渦中、もしくは火中の栗を拾う羽目になりそうで、恐ろしいですわ」
『蝙蝠のままの貴女に言われると皮肉よね、多分、いつの間にかこの住処も飛び立ってそうって雰囲気がヒシヒシしてるもの』
「それはアレかしら」
「『今も昔も宙ぶらりん』」
「皮肉よね、何と無く立場が違ければあの学園時代良い級友だったかもしれないのに」
『お互い様じゃないかしら、表面上の付き合いで終わったんじゃない、多分』
そういいながら、お互い微笑みかえした。
そんな空気の中に空気を読めずに入ってくる従者がいる。
「お嬢s、ヒッ」
『……はぁ、お暇するわね、何かそがれたわ』
「…ええ、早く帰りなさい」
そう言うとまた彼女は窓から外に出てバルコニーに足を掛けた。
『あ、そういえば、アレ気付いていたの?』
「アレって?」
『謁見の間の国王陛下の件』
「さあ?どうでしょう、ご想像にお任せしますわ」
『……ああ、やっぱり悪役みたいね、貴女の輝かしい笑顔って』
そう言って彼女は去って行った。
「お嬢様、さっきの方は」
「二回目の侵入者よ、前回貴方がドタドタと駆けつけた時にはいなかった時の、もしくは亡霊かしらね」
そう言うと、青褪める馬鹿に若干心が安らぐのは、やはり悪役だからだろうか。
次に彼女が来たら、笑い話にできるかもしれないと、そう思った私も、毒されているのかもしれない。
彼女の毒に。