冒険者になろう
「フォル様。こちらが冒険者相互補助組合、通称冒険者ギルドのセルラニア本部に当たります。
さあ、登録いたしましょう」
レンガ造りの頑丈そうな建物を見上げる俺に前を歩いていたアイシャが振り返って促す。
普段のメイド服ではなく、動きやすそうな長袖服、長ズボンの上に皮製の胸鎧と腰当を身に付けている姿は一端の冒険者に見える。
同じ服装なのにコスプレにしか見えない俺としては少々複雑だが。
「ああ。
…にしても、兄貴も急だよな。
昨日まで街に出たこともない人間にいきなりダンジョン探索するから冒険者登録してこいって、しかも本人は別行動…」
「…きっとダイクライム様にもお考えがあるのですよ。
今回の別行動も私が既に登録済みだと知ってみえたので、ご自身は必要な消耗品の買い出しを優先しただけでしょうし」
…この反応を見るに兄貴の奴、アイシャにも何でダンジョンに行くか説明してないな。
かと言って家族の反応は、
「俺も行きたい!」
「駄目に決まっているでしょ!」
と言うやり取りの王様と宰相。
「お弁当は何がいい?」
「綺麗な花が咲いてたら摘んできて下さいね」
母さん、義姉さん。ピクニックじゃないから!
「私も付いていく!」
言うと思った!
「今回はダメです。
次の機会にしなさい」
そう言えば基本的に家族に甘いクライムが珍しく止めていたな。…やはり何かある?
まあ、それは別にしても、相変わらず残念度の高い家族だな。竜族だから緊張感がないのか?
「フォル様?
聞いてみえますか? フォル様?」
考え事をしていた俺は、アイシャの声で我に帰った。思考状態に陥るとまわりに目がいかなくなるこの癖はどうにかしないといけないな。
「すまない。聞いていなかった。
何だ?」
「やっぱりですか。
これからこの紙に書かれた内容に沿って空欄を埋めてください。
……フォル・ダムフォード様」
頷いてアイシャから紙を受け取る。
偽名を強調せんでも、冒険者登録用紙にフォルセウス・アルヴィスと書くわけないだろうに。
…履歴書?
名前に年齢、種族、住所で最後に得意技能と徐々に偽情報を埋めていく。……偽情報ではないか。
この街で行動するフォル・ダムフォードとしてはこれは正しい情報になる。
現にこの住所に書かれた場所には、ダムフォード騎士爵邸があると言う具合だ。
そんな感じで大体が埋まったのだが。
「得意技能?」
「そちらはまだ書いてはダメですよ。
これから試験を受けて、その内容を試験官に記入してもらう必要がありますから」
「自己申告はあてにならないか」
「はい。ただ使えるだけなのか、完全に使いこなしているのかは自分では分かりませんから。
…試験官を呼んできますから少々お待ち下さい。絶対に喧嘩は売らないで下さいね」
「善処しよう」
「……どこで覚えたんですか? そんな言い回し?」
「気にしない気にしない」
溜め息をついてカウンターへ向かうアイシャから視線を外し、改めて周囲を見回す。
……小説にあるような薄汚い酒場ではないな。掃除が行き届いているし、前世の役所や銀行を連想する場所だ。
その手の小説だと大抵、俺のような子供は絡まれるがその心配はないか?
「ここはそんなに珍しいか?
少年?」
……周囲には少年と呼べる年齢層の人間は見当たらない。
俺の事だな、これは。
絡まれイベント発生か? と内心ワクワクしながらそちらを向くと、30代半ばのおっさんが机に頬杖をついて手招きをしていた。
「ここへ来たのは始めてですから…」
「お、やっぱりルーキーか?
これからよろしくな、
俺はルドルフ。ランクCの剣士だ」
「ランク?」
「冒険者の目安だな。AからGの6段階に分かれている。
Gは初心者、Fで街の雑用。
Eから一人前で、Dでベテランだな。
Cまで行けば一流と呼ばれる」
「それ以上は?」
「気になるか? だよな。Bなら超一流、Aなら化け物扱いだ」
「化け物って…」
「そう言いたくなる気持ちは分かる。けどな、俺も1度だけAランクと会った事があるが、本当にとんでもないぞ? 俺くらいなら10人がかりでも話にならない」
「……」
俺の見立てでは目の前の男は、剣術だけならクライム兄に匹敵するはず。
どんな化け物どもだよ。
「まあ、そんな連中はごく僅かだ。
凡人には凡人の生き方がある。……焦って死ぬなよ? 少年」
…見た目はちょい悪親父だが、良いおっさんみたいだな。
「忠告として受け取っておきましょう」
「はっはっ!
本当に面白い。もしも、パーティー組む時は誘ってくれよ。ええっと…」
「フォルです。フォル・ダムフォード。
よろしくお願いいたします」
「おう。……お迎えみたいだな」
「ええ。それではまた」
ルドルフのおっさんに別れを告げ、同い年位の少女を連れたアイシャの方へ向かう。
…試験官を呼びに行ったはずだがと不信に思いながら。