賢き竜を招きて
協力者ガレスの伺いの言葉に了承しつつ、立ち上がって歓迎の意を示します。
すぐにガレスに招き入れられて、今生におけるあの方の兄が入室してまいりました。
眉をひそめていますが、それも当然でしょうか。
見識のない私はともかく、私の左隣に立つマイケル・アストやそのさらに隣に立つハウレイム大司教とは面識があるはずですし。
「…はじめまして。と声をかけた方がいいか?」
「そうしていただけると助かります。
はじめまして、私はジード。
俗に神と呼ばれる存在です」
いぶかしぎながらも、口を開くダイクライムに軽くお辞儀をする。
「ジード神?
聞いた事がないが、総天教の大司教がいると言う事は創造主ヘレナスの眷族神か?」
噂に違わず、優秀なようですね。
いきなり神を名乗った者に対してむやみに否定しないと言うのは珍しい対応です。
大司教と言う信心深い立場にいるハウレイム達でさえ最初は疑ってかかったのですが。
「あえて言うなら後輩ですね。
所属する部署は違いますが」
「部署? 分業していると言うことか?」
「神と呼ばれる者とて万能ではありませんよ。
戦いを得意とする者もいれば、文学に秀でる者もいる。
当然の話でしょう?」
「なるほど。我々が思う程に神も特別ではないのか」
「納得いただけたのでしたら、こちらからも良いですか?
何故、私が神であることをあれほどすんなりと納得出来たのです?」
「竜族の俺の夢に干渉出来る存在など、最上級の淫魔か、同族、後は神族くらいだろう。
そのうち、前2つは除外できる。
違うか?」
…でしょうね。
高い抗魔力を持つ竜属に干渉出来る者は限られていますし、その中で淫魔ならまず精気を奪わないと言う事はないですし、竜属ならただアドバイスをするだけと言う事はあり得ません。
…稀少な雄竜を相手にするのですから。
「納得しました。あまりにこちらにとって都合が良かったので、困惑していましたが、それならば、証拠や証言を提示する必要はありませんね」
「ああ。それよりさっさと本題に入ってくれ。
お前は夢で弟の事を憂慮していると言ったが、あれはどういうつもりだ?
…弟に危害を加える予定なら」
「そう殺気立たないで下さい。
我々は利害の一致した同士となれる者なのですよ?」
「どういう意味だ?」
ダイクライムの強烈な殺気に反応して魔力が渦巻き、若干の輝きを帯初めていきます。
…この世界の一般的な竜族、竜属と分類される生物の最上位の中でも上位者を超えていますね。
やはり、この竜も彼女の影響を受けていますか。
「私達、神の勢力は現在フォルセウス少年と呼ばれる彼が死に輪廻の輪に入ることを望みません。
また、彼が怒りに駆られこの世界を滅ぼすことも。
……取り繕うべきではありませんね。この世界を滅ぼした挙げ句に我々が住まう上位世界へ至る事を恐れていると言うべきですか」
「まるで弟が化け物だと言っているみたいに聞こえるのだが?」
「化け物であれば、まだマシなのですがね。
我々、神属は彼の魂の根源となっている方を『あの方』と呼んでいます」
「『あの方』?」
「ええ。
『あの方』です。古代竜達は創祖竜と呼び、名前に該当するものはないと言っていたらしいですね」
「創祖竜?
聞いた事がないな」
「でしょうね。この世界の竜属の始祖は、第4世代に当たるファンフェイですから、『あの方』について知る機会など恵まれるはずもありません。
これは真に秘す事ですが。
……全ての竜は祖竜大樹ルーシェを始祖とし、その子供が第1世代、孫が第2世代の古代竜と呼ばれています。
ですが、第1世代が生まれた時点で、始祖となる祖竜大樹にルーシェと言う名が与えられていたと言います。
では誰が名を与えたのか?
それが『あの方』です」
「つまり、総ての竜の本当の祖先となる存在の生まれ変わりがうちの弟だと?」
「ええ。本来なら死ぬどころか、最上級神の攻撃でさえ傷一つ付かずにいる非常識な存在ですがね。
とある世界の娯楽を知った『あの方』は自らに転生の術を施し、脆弱な人の身へと生まれ変わりました。
……『あの方』を知る一部の神々は、当初大喜びをしたらしいですよ?
例え百年程度でも確実に『あの方』が神世界を訪れると言う脅威から解放されたのですからね」
「それほどか」
「ええ。
しかし、生まれ変わっても根本的な性格までは直らなかったようです。
好奇心を優先させた揚げ句、僅か30年で命を落として輪廻転生の流れを介し、神世界にやって来たのです。
当然、神世界では上から下まで大パニックになりましたよ。
……本来なら、輪廻転生をする魂は神世界にて長い休息を取り、記憶と疲れを取り除かれて、新たな生へと旅立ちます。
しかし、『あの方』を神世界に入れる等恐ろし過ぎる。
その判断の結果、神世界を通さず直ぐに転生させる方向で話がまとまりました」
「それでうちの弟へ転生してきたと?」
「はい。
しかし、そこでも問題が生じました。
この世界の竜属は、ファンフェイを祖としている為、他の世界の竜属から見るとかなり弱い種族となっています。
ですから、いくら『あの方』と言えど、完全に覚醒しない内は、そこまで強大な力は使えないと思われていたのですが…」
「違うのだな?」
「ええ。
あなた方の母親がファンフェイより上位の古代竜『極拳竜姫アディラミア』の転生体だったのです。
その為、現時点で第3世代古代竜クラス。こちらの想定以上の力を『あの方』は使える状態にあるのです」
「なんでそんな事になったんだ?」
「これも言い訳にしかならないのですが、彼女は他の古代竜に比べてかなり平和的な性格と危険性の低い能力の為、あまり警戒されていなかったので、昔『あの方』が神世界を訪れた大混乱時に行方が分からなくなり、現在に至りました。
古代竜を監視し、時にはそれとなく誘導する我々<操竜宮>でも把握出来ておらず、この世界へ降りた私が確認をとって始めて事態に気付いた状況です」
「…うちの母親はかなり強いと思うのだが、あれでも危険性が低いのか?」
「言い方が悪かったですね。
彼女の能力は周囲の様々な力を取り込み、自らの魔力へ変換するものですが、彼女が放った魔術自体も吸収されるので、彼女は放射系と呼ばれる魔術が使えないのです。
故に1対1の戦いでは古代竜でも上位に入りますが、1人で多くの相手を倒す殲滅力は低いのです」
「…確かに、そういう区分なら危険度は低いか」
「はい。
と話が逸れましたが、本日あなたを招いた理由です。
『あの方』が無茶をしそうになった時に諫め、迷った時には導いて欲しいのです。
転生させた当初の見込みでは、成竜になるくらいまでの期間は普通より少し力がある竜程度でしたから、人格の形成がしっかりするまで他の勢力に干渉される可能性は低いと考えていたのですが……」
「現時点で既に色々な勢力から目を付けられているな」
「……はい。
本来ならこちらが協力を仰ぐには『あの方』への影響が多過ぎるだろうあなたに協力を依頼しなくてはならないほどに」
「具体的に何をすればいいんだ?
利害が一致している以上、協力するのは問題ないが?」
「たいした事はありません。
必要に応じて『あの方』の手助けをして欲しいだけですから。
こちらはそれに役立つ情報を提供すると言う感じですね」
そう言って拍子抜けした顔のダイクライムに手を差し出します。
「これは?」
「互いの手を握り会う握手と言う風習ですよ。
『あの方』が前世でいた世界で仲良くしましょうと言う挨拶がわりのものですね。」
「よろしく頼む」
私の手を力強く握り返して呟いた後、特に口を挟むこともなく、席に座っていた2人の方へ向き、話しかけています。
すんなりと信じて貰うことが出来なかった時に口添えをしてもらうつもりでしたが、必要ありませんでしたね。……まあ、顔合わせをしておく方が何かとスムーズに行きますし、問題はないでしょう。
さて他の神達はそれぞれの新たな協力者をうまく取り込めたでしょうか?
…こればかりは祈るしかありませんね。
椅子に座り、体を預けます。やはり今回の協力依頼は精神的に疲れました。
…次はどのように布石を打ちますか?