裏側の協力者達
竜の子守唄亭。
王都の冒険者ギルド脇の道を一本入ったところにある。中規模の酒場兼宿屋だ。
味の良い料理を出すことで知られているが、それ以上に気に入らない客を叩き出す気難しい店主で有名な店。
王都にいる時は城で寝泊まりしているし、手早く食事をすませたい時はギルド内の酒場を利用するから僕は今まで入った事がないそんな店の前に僕、ダイクライム・アルヴィスはやって来た。
昼を過ぎたばかりの、普段なら親子ほども年の離れた弟と姪に生きていくための様々な技能を講義している時間…、一般的な労働者達が昼からの作業を再開している頃合いだけに目の前の酒場も静けさを保っている。
さて、目の前の扉には準備中の札がかけられているが、夢でされた指示では気にせず入ってくれと言うものだった。
……あまりと言えばあまりの状況に苦笑が洩れる。
いくら、夢でされたアドバイスが午前中の魔術訓練で多いに役に立ったと言ってもそれを信じてこんな店まで足を運ぶなんて、自分で自分が信じられない。
「準備中に申し訳ないが、少々いいだろうか?」
「なんだ? お前さん?
うちは冒険者相手の酒場だぜ? 貴族が来るところじゃない」
「こんななりだが、僕は冒険者だ。
とは言え、今日ここへ来たのは待ち合わせ場所と指定されたからだけどね」
「待ち合わせ? 何のだ?」
すっとぼけているようだな。夢で言われた通りの反応だ。この場合は合言葉を伝えてくれと言われたな。確か…。
「竜の庭に娯楽と平穏を。
こう言えば通じると聞いているが?」
「……見ねえ顔だし、新しい協力者か。
事前の通達くらいしてくれよ、まったく。
ついてきてくれ」
少し愚痴った店主が奥へ通じる扉を開く。合言葉は正解だったようだ。
「ジード様、新しい協力者の方がみえられました」
店主に続いて入った店の奥へ続く廊下、その一番奥にある部屋をノックした店主が扉越しに声をかける。
…ジード? 聞き覚えのない名前だね。夢の彼は名乗らなかったし、彼の事だと思うけど。
「どうぞ」
「失礼します。
あっしはここまでですので、どうぞ中へお入りください」