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転生領主とその周辺  作者: しから
セルラニア編
3/108

アルヴィスの末弟

 …チートは要らないと言ったんだがな。

 はぐれ竜ナタリー・アルヴィスの三男。フォルセウス・アルヴィスは心の中でぼやく。

 10歳の誕生日を迎えた今日。

 今朝起きて藤堂昭の記憶が戻って最初の感想だった。

 フォルセウスの記憶との間に酷い齟齬もなく、俺と言う人格は安定したようだ。しかし、転生によるチートは確かになかったが、生まれが竜と魔族のハーフで、雄1に対して雌30で生まれる竜族の雄とかすでに人生イージーモード確定じゃないか?


「フォル様? 起きていらっしゃいますか?」

「ああ。おはよう、アイシャ」


 10歳児にあるまじき発想をしていた俺に声をかけてきたのはメイドのアイシャ、生まれた時から俺の世話を担当している人狼種の美少女メイドだ。

 美少女と言うのは曖昧な表現か?

 スッキリとした鼻筋が通り、濡れ羽色の黒髪の少女。14歳で二次成長が始まりだしたばかりとは思えないくらいに胸もある。


「おはようございます。既に皆様も食堂へお集まりですよ」

「分かった。すぐ行くよ」

「……はい。では失礼します」


 微妙に残念そうな声音で去って行く。

 アルヴィス家としての教育方針が自分で出来ることは自分でするだから、酷い病気にでもかからない限りは自分で着替えることになるのだけど、将来の側室候補として言い含められているだろうアイシャの立場ではあまり嬉しくない方針だろうな。


 俺としてはありがたいけど。


 ……30過ぎのオタク中年としても10歳の青少年としても10代前半の美少女に着替えを手伝ってもらうのは気恥ずかしい。

 寝間着を脱ぎ捨て、仕立ての良い服に袖を通す。

 …転生して一番困ったのは、やはり衣食住の衣だな。

 名目上とは言え、王族をやっているから住む所は豪華だし、薄味だけど食事も旨い。

 しかし、着る物の材質は、王族や貴族で絹時々麻で身分や財が下がるに連れ、麻の比率が上がる感じ。


 石油製品は勿論、未だに綿が発見されていない状態らしい。

 これは要課題だ。上手くすれば素晴らしい富になる可能性がある。

 次点で香辛料。

 …この国は緯度的にヨーロッパに近い可能性が高いな。


「おはようございます」


 この世界での領地経営を考えながら、歩いていたら食堂まで来ていたらしい。食堂前で待機している護衛兵が声をかけてきた。

 …宰相が来ているのか?

 ウチの家族は竜族の中でも上位に入る戦闘力だから屋内で護衛を付けることはない。

 食堂を利用する可能性がある人物で護衛が必要なのは、宰相として実質的にこのセルラニア王国を取り仕切っているジェイル・カーネス公爵位だろう。

 ……徹夜か? 戦時ならともかく、平時は街の見回り位しか役に立たないガルドを王にもつと苦労するな。


「おはよう。兄が苦労をかける。開けてくれるかい?」


 護衛兵を労いつつ、扉を開けてもらうよう依頼すると、苦笑しながら扉を開く。

 彼らもジェイルに次ぐガルドの被害者だからな。


「いつも言っているでしょ! せめて、必要最低限の書類に目を通してから出掛けて下さい! 聞いていますか? 大叔父上!」


 丁度、食堂に入った所で初老の男性の怒鳴り声が響く。

 …どうやら、徹夜ではなく、兄を取っ捕まえての説教中だったらしい。


「別に俺じゃなくても…」

「あ・な・た・が、この国の国王でしょうが!」


 怒鳴られた相手、この国の国王でありフォルセウスの異父兄でもあるガルドバング・アルヴィスの反論をぴっしゃりとふさぐ。


「ジェイル、あまり叫ぶと身体に障るよ?」

「私の身を案じて下さるのでしたら、兄君をお諌めくださいませんか? ダイクライム様」

「おや? こちらに飛び火してしまったか…。兄弟とは言え、人族の年齢で見れば、親子程も違うのだよ? 中々言えないよ」

「ですか…。おや? おはようございます。フォル様」

「ああ、おはよう。兄が迷惑をかけているな」

「まあ、長年これですからね。ある程度は慣れましたよ」


 俺の労いに肩を落としつつ苦笑をもらす宰相。父親の補佐で15年、跡を継いで30年以上の付き合いだと言うからこの関係も今に始まったことでは無いのだろう。しかし、それほどの付き合いがあるにも関わらず、空気の読めないバカもいるんだが…。


「じゃあ問題ないな!」


 満面の笑顔で言い切る男。今年で齢80を数えるはずだが、見た目のように20代のチンピラみたいに空気を読まない男だ。


「竜族の方は、20歳を越えると見た目の成長が止まると言いますが、精神の成長まで止まるのでしたかな?…」

「若々しいと言うのは良いことだろう?」

「限度があります! あなたは幼いと言うのです!」

「2人は本当に仲が良いわね。

 長年連れ添った夫婦みたいに息が合うわ」

「お義母様それじゃあ、私は嫉妬しなくてはいけませんわ」

「何でそうなるのよ……」


 宰相とガルドのやり取りを見ながらのほほんと話す2人の女性に疲れた声で反論する少女の方へ向かう。


「大変だな。リム」

「片方はあなたのお母さんでしょ!? フォル伯父様?」

「さすがに歳上に伯父様呼ばわりされたくないんだが?

 リム姉さん? だいたい、それを言い出したらあなたにとっては祖母と母親に当たるのだけど?」


 同情しつつ隣の席に腰かけた所で激しく文句を言われたのでそのように返しておく。

 ……思えば、この少女も不憫だな。

 天然の母親にそれを越えるレベルの祖母、父親は細かいことは気にしない男だし。


「何か言いたいことでも?」

「いいや。そう言えば今日から俺も生活魔術以外の魔術の訓練が受けられるな」

「露骨に話題そらしたわね。まあ良いわ。

 私の実力を見せてあげる」


 得意気に胸を張る。2年分のハンデがあるから威張ることじゃない気もするけど好きにさせておく。絡まれても面倒だしと思ったのだが…。


「リム、あまり悠長にしていると直ぐに追い抜かれますよ?

 唯でさえフォルは魔族の血を引く分だけ魔術に対する才能は大きいのですから」


 こちらの思惑無視して次兄クライムが歳上の姪を煽る。教師役のクライムとしては発破をかけたつもりだろうが、それで絡まれる俺としてはたまらない。


「絶対に負けないからね!」

「勝手にしてくれ」


 案の定、強い視線と敵愾心を向けてくるリムへ投げやりに返す。

 ……全く単細胞はこれだから困るな。

 適当に放置して朝食のパンへ手を伸ばす。元日本人としては『いただきます』と手を合わせたいが、城から出たこともない10歳児がいきなりそんな行動をとると言うのは不審だろう。心内で手を合わせるに留める。


 口に入れたパンを噛み締めた瞬間、キッツい違和感を覚えた。

 味がしない上に堅くて噛めば噛むほどもさもさする。

 はっきり言ってかなり不味い。地球の頃に有ったもので例えるなら近所の自然公園で売っていた鯉の餌みたい。……いや、柔らかさと噛み締めて出てくる甘味の分だけ、あちらの方がマシか?

 今まではそんなに不味いなど考えていなかったはずだが。


 やむなく、一緒に出されたスープに浸けて食べる。…コンソメ風のスープの分だけマシだが、これにも香草の類いは入っていないな。

 ……今までこれらの食事に不満を覚えた事はなかったのだが、どうやら、自身の考えが甘かったようだ?

 まず、この場にいる人間の簡単な情報整理から始めよう。知っていると思い込んで行動すると厄介なことになりかねないし。


 一番の上座に座っているのが、ナタリー・アルヴィス。

 黒髪黒瞳の美女であるが纏っているのほほんとした空気がその近付き難さをかなり軽減しているフォルセウスの母親。

 竜の里を追放されてはぐれ竜となったが、その原因を俺は知らない。


 その右隣で説教されている筋肉隆々の大男が、ガルドバング・アルヴィス。

 このセルラニアの王太子と母の間に生まれ、祖父に当たる先王が崩御してからはこの国の国王をしているはずだがその自覚は薄い。

 …元々この国は隣のサザルラント帝国の脅威に晒されていたらしく、里を追放されて放浪していた母が通りががった時も、降伏か滅亡かの選択を迫られていたらしい。

 そんな中で訪れた竜族をうまく誘導して味方に付けようとした国王の計略に世間知らずな母は簡単に引っ掛かって歓待をしてくれた王国の為に帝国を追い払った。

 その後もこの国に居座るように優遇されたらしい。

 恐らく、当時の国王はどこかの貴族とくっつけてこの国の守護竜にでもする気だったのだろうが、大きな誤算が生じた。

 息子に当たる王太子が母を愛してしまったのだ、竜族の女性が異種族の男と子供をつくると高い確率で男の方は死亡してしまう事実を理解しているにも関わらず!

 数十年にも渡って帝国をいなしてきた老獪な国王もさすがに命掛けの恋愛を止めることはできず、男児が産まれたら、次期国王として養育する事を条件に婚姻を許可したらしい。

 王太子に弟がいたのも許可を与える要因だったと思うが…。


 ちなみにガルドの隣で説教をしているジェイルはその弟の孫に当たるとのことだ。

 王族に竜がいる現状ならと、王族として残るより貴族として新しく家を立ち上げて、他の方面から国を守る事にしたと聞いている。


 母さんの左隣、ガルドの正面に座っている緑髪の女性がガルドの正妻で、リムの母親に当たるベネティア・アルヴィス。

 母と同じはぐれ竜、ジュリアナンテ・ホゼルの娘で母と良く似た性格をしている。

 初対面の連中が十中八九、ガルドを婿養子と勘違いする位に。


 そんなベネティア義姉と俺の間に座るのが、リムティエル・アルヴィス。

 俺より2つ上の姪と言う微妙な関係になる。母親譲りの緑色の髪に、兄と同じ黒い瞳の美少女だが、同世代で生まれた時から知っているからか、フォルとしては若干の苦手意識を持っている。


 最後になるが、俺の左隣に腰掛けている細身の男性がダイクライム・アルヴィス。エルフを父親に持つからか、家族の中でも群を抜いて美形なのだが、学者肌のせいか、浮いた話が全く出てこない残念美形。

 本人も女性と話をするより、魔方陣弄っている方が好きと公言しているから竜族としては質が悪い。


 基本的に俺に絡んでくるのは後者の2人だろうか?

 後は専属メイドのアイシャくらい?


「そう言えば、フォルにプレゼントが届いているわよ?」


 情報整理をしていた俺に母が言うと同時、数人のメイドが小包を持ってくる。


「プレゼント? 誰から?」

「ガーラントね。多分、孫への誕生日プレゼントだと思うけど?」

「爺さん? …物騒な物じゃないだろうな?」

「さあ? さすがに10歳の子供にそんな物は渡さないと思うけどね。

 確かに渡したわよ?」

「うん。ありがとう」


 なんとなく嫌な感じも受けるが、気にしてもしょうがない。

 …後で開けてみることにしよう。

 若干の現実逃避に今日から始める本格的な魔術訓練を思い浮かべながら……。

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