プロローグ(表)
気が付くと俺は真っ白な部屋にいた。
採光の為の窓もなければ、照明器具も見当たらない…。
なのに明るい。蛍光灯に照らされているような明るさであるにも関わらず、暑さを感じない。
何だ!? ここ!?
……すごい面白そうじゃないか!
興味のままに周囲を見回そうとして、頭を押さえ、こちらをジト目で見ている男に気づいた。
「ここの壁は何で出来ている?」
「…最初にする質問がそれかい!」
?
早速の質問に大声で怒鳴り返された。
「普通はここは何処だとか、どうしてこんな所にいるかを気にするものじゃないかな?」
「言われてみれば! ではそれで」
「軽い!
まあいいか。困惑して暴れられても困るからね。
ここは生と死の狭間の領域。死者が最初に訪れる場所だよ」
「うん? と言うことは俺は死んだんだな?」
「そうだよ。死因は…」
「摂取したトリカブトの量を間違えたか。失敗したな!」
…ここへ来る前の最後の記憶を思い出す。漢方では強心剤として使われるトリカブトがどんな味で摂取した時にどんな感じか知りたかったから舐めてみたのだが、思ったより致死量が少なかったようだ。
ちなみに普通の薬と同様に苦かった気がする。直後に死んだから曖昧だ。…アルカロイドの一種だしある意味当たり前だったな。
「何で笑っているんだい? 君は…」
「済んだ事はしょうがないだろう? 予想より早く天国を見学できると思えばそれで良い!」
「残念だけど天国へは行けないよ」
「では地獄か! 痛覚がないはずなのにどうやって痛みを与えるかは興味があったのだ! ちょうど良い!」
思わず手を叩く。俺は知識を集めるのが楽しくて犯罪とかをやっている時間がなかったから地獄は行けんと思っていた所だ!
「残念だけどそちらへも行けないよ」
「ではどうなる?」
「藤堂昭30歳サラリーマン。君は異世界転生に興味があるだろう?」
「確かに!」
「そんな君をファンタジーの世界へご招待と言うことになった。
記憶と知識をもっての異世界転生を楽しみたまえ! と言う神々からのプレゼントだよ!」
「マジか?」
「うん、生憎とチートとかはないけど……」
「要らないから問題ない! さっさと送ってくれ!」
「いや、少しは警戒とかしないの?」
「めんどくさい!」
さっさと送れと急かす。憧れのファンタジー世界だぞ!
隠れオタクな俺にそれを提示されてお預けはいただけない。
「分かった。次の生はしっかり長生きしてくれよ!」
推定神からの餞別の言葉と共に意識が遠くなって…。
これも、お…もし……ろ…い…………。