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花贈りのコウノトリ  作者: しのはら捺樹
Flower Shop Cigogne
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3

 「…ありがとうございました」


 会場を並んで出て、僕は眞鍋さんに頭を下げた。他の店の人に仕事を取られて変に意気消沈したのと、眞鍋さんの香りが忘れられなくてドキドキが止まらないのとで、気持ちが変にぐちゃぐちゃしていた。


 「忙しいんですね…なんだか、珍しくイライラされてたみたいで、ついつい手を出してしまって」


 すみません、余計なお世話でしたよね。と眞鍋さんは苦笑した。


 そんなことより、あの時香ったいい匂いの方がずっと気になる。香水でもないし、洗濯物の香りともまた違う。聞こうと思ったが、セクハラ紛いになりかねないのでやめた。


 「大変ですよね、この時期」


 原付に鍵を差して眞鍋さんが呟く。確かに、と返事をすると眞鍋さんは肩を竦めた。


 「5月は母の日、6月は父の日。7月は終業式で8月はお盆休み…お花を贈るのが最近本当に増えましたね」


 「終業式って、誰に花を贈るんですかね」


 「そりゃあPTAとか、保護者が先生に贈るんじゃないですかね…」


 これも流行りというやつだろう。溜息をついて僕もスクーターに跨って鍵を差した。


 花を贈ることがここ数年増えた。何がきっかけになったかは知らないけれど、今では流行り云々よりも定着している気がする。当分、衰退の色は見えないだろう。


 そして僕はこっそりと、将来自分の店を持とうなんて考えている。本気の本気っていう訳ではないけど、いずれ、機会があれば。


 そしてその時、出来ることならどうか。


 この…眞鍋優子さんに、妻として働いて欲しいな、と。


 機会があればの話だが。


 「水嶋さん?」


 眞鍋さんが僕の顔を覗き込む。はっとして思わず顔を逸らすと、くすくすと眞鍋さんは笑う。


 何だか、気持ちに気付かれて遊ばれているような気がしないでもない。


 「と、とりあえず、僕はもう帰りますね。今日は一日配達だと思うので…早く帰らないと」


 エンジンをかけて頭を下げると、眞鍋さんは笑ったまま無言で手を振った。弄ばれてると思うと複雑だが、正直めちゃくちゃ嬉しい。


 今日、また会えたら。心の何処かで願いながらスロットルをぐいっと回した。

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