太陽の下出会いは突然に
静かな室内にカリ、カリ。とペンを走らせる音だけが響く。が、突然。心地よい静寂は少し乱暴にドアをたたく音に破られた。
「坊、ちょっといいか?」
続いて聞こえた珍しい声の主に領主ウェサマーは首を傾げながらも書き物をする手を止め、すぐに入室を促した。
入ってきた男は庭師のヴェルグといった。
腕は良いのだが人嫌いで、仕事において非常に厳しくいつも辛辣な物言いをする為同僚が次々辞めていった。そうして広い庭園を一人で管理する事になってしまった程対人能力のない男だった。ウェサマーを含めた数少ない心を許す人間にさえ自分から関わろうとする事は滅多にない。
「どうしたんだ?」
そんな男がそれも少し慌てた様子で入室してきたのだ。尋常ではない何かが起こったのだとウェサマーは気を引き締めた。
「ああ、それが……。とにかく来てくれ。見た方が早い」
「……? 分かった」
さっさと部屋を出て行ったヴェルグの後に続く。足はまっすぐ庭園に向かっていた。
「一体、どうしたんだ。お前が私の部屋へ来るなど何年振りだ?」
「……てめえの顔なんざ態々見に行く程じゃねえだろうが。こんな訳の分かんねえ事がなけりゃ誰がてめえの部屋になんか行くか」
幼少の頃から馴染みとはいえ、若いが主であるウェサマーに対してさえこの口の利き方である。心を許している証拠だから特別だ、と笑って許すウェサマーの懐の深さと元同僚の涙の訳が分かるというものだ。態々見に行く程でないというウェサマーの姿だとて、それこそ態々この辺境の地に挨拶に来るご令嬢が後を絶たない程眉目秀麗なのだ。
「訳の分からない事?」
ウェサマーの質問に、今度は茶化す事なくため息をひとつついてヴェルグが応える。
「光ったんだよ、庭が。急にぴかーっとびかーっと。眩しくて目が開けられない程にな。んで、目え閉じてる間に何か地面、じゃねえ空気? がぶるぶる震えていやがると思ったら……アレだ」
歩きながら話す内に庭園に着いていた。アレ、と顎をしゃくって示された先を辿り、ウェサマーは目を瞠った。
16、17歳くらいだろうか。艶々と美しい、珍しい黒髪の娘がヴェルグの上着を掛けられて地面に横たわっていた。
「頭打ってるかも知んねえから出てきた時のそのまんま動かしてねえ。一応、軽く見た限りじゃ怪我なんかは無いみてえだった。ちゃんと息もしてるし寝てるだけみてえだったから、とりあえずお前に知らせるかと思ってな」
「……出てきた? 突然、あらわれたという事か?」
「そうとしか思えねえんだよ。ここには普段俺しかいねえから連れ込むヤツもいねえし、門番潜り抜けて入り込んだにしちゃ庭でぶっ倒れてるなんて訳分かんねえだろ?」
ウェサマーは吸い寄せられた様に娘から目を離さない。目を閉じているから完全には分からないが見とれる程の顔立ちではない。だが娘の持つ独特の雰囲気に呑まれている様だった。
「まず、医師に診て貰おう。担架があった方が良いか。人を呼ぶ」
どこか上の空で言うウェサマーを見て、ヴェルグはまたひとつため息をついた。
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