七つの光
緋空の虹
瑟光は空を露台の先から、虹を見下ろしていた。
円を描き大地に吸い込まれていく。
ただ美しいと思う。
ぼんやりと眺めて居ると、真下に一頭の龍が現われた。
「砂奇、お帰りなさい。」
彼女は五色の龍に優しく声を掛けてやると、砂奇は鳴き声を高らかに上げた。
そして、瑟光の横へ降り立ち姿を変える。人の形へと。
「円月は元気だった?」
「七輝様に逢いたいと申しておりました。」
「そうか。里鵺ご苦労だったね。」
ではと彼女の使令は姿を隠した。
虹を飲み込む龍を殺し円月は地上に落とされた。そこは、龍の生まれる場所。
他には何も無い。
透明な時間だけが、彼の存在を赦して居るのだろう。
母も星落しの刑を受けた、彼と同じ様に。
水の大地に叩き付けられてから、約一ヶ月経ったが未だ円月に蒼天から迎えは無い。
生き残る為の最低限の荷物を持ち竜の大地をさ迷い歩いている。
此処では、空を翔ぶ事が出来ない。そう友人から助言を受けた
滴り落ちる雨が無ければ生きては行けまい。全ては己の罪が生み出した現状に只絶えなければならない。
何処までも。
蒼天の月が沈む頃合寝所を抜け出した瑟光は風樺宮に向かっていた。黒塗りの壁が月光を跳ね返しまるで生きているかの様な存在を放つ。
瑟光は片手を壁の淵に翳し、扉を開けた。すると黒塗りの門が現れ、彼女は中に入って行った。
「御止め下され。下界に向かってはならぬと。」
瑟光の横から獣が現れた。
白き肢体を持ち銀の瞳で語り掛ける。
「白露。皆は置いて行くからね。」
虹色の光沢の髪を一つに縛り、瑟光は黒塗りの門の中にある水鏡にその身を捧げた。
瞬間瑟光の体は溶けて霧の様に消えていった。
風樺宮には白き獣だけか取り残されていた。
闇の中に散らばる泉の中から一番小さく白と蒼二色の泉を瑟光は選び出した。
軽く手を伸し、泉の中に漬ける。すると蒼と白が交ざりあい、輝く銀色に変わっていった。満足げに瑟光は微笑む。「新しい世界よ」
瑟光がそう囁くと、銀の泉は手を付けた処から、七色に変わり輝いて行く。そして生き物の様にうねり瑟光を飲込んでいった。
カランと瑟光が付けていた紅い首飾りが墜ちていった。
赭鴉はそれを拾い、両手で優しく包み込んだ。
紅い輝きは増して、より強くなった。
「瑟光は僕を置いて行ったんだね。」
紅い首飾りに雫がポタリと落ちた。
虹の雲の中を白露に跨がり、風を斬る夢を見ていた。
速く、速くと白露をせかし、天に並ぶ月を目指していた。目の端に紅い髪が写る。
赭鴉だ。
待って!と彼が叫んだ気がした。
心の中で謝る。私一人で行かなくてはいけないから。
ガクンと身体が揺れて白露から瑟光は墜ちていった。
墜ちる風に身を寄せた。