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私が描く最愛  作者: 鬼灯
3/5

ほっとけなかった

《和泉》



 入学早々、季咲風花はとても目立っていた。

 新入生代表を務めた上、入学早々行われた実力テストもほぼ満点で学年一位。

 体力テストでさえ、女子の上位を記録したらしい。

 おまけに美人だってんだから男にモテそうなものだけど、逆に近付きづらいっつーか、俺なんかじゃ駄目だろ、って告白する前から諦める奴がほとんどだった。

 それでも無謀にも突撃した奴も何人かいたけど、全員玉砕した。

 俺は中学の頃からそれなりに女子にモテて、自分に自信もあったし、季咲のこともいい女だと思ったけど、告白するつもりとかはなかった。

 同じクラスになった俺は、なんとなく季咲が人と深く関わることを避けていることに気付いていたからだ。

 笑って話をしていても、本当には笑っていない。

 それが見ていてわかったから、自分から関わるつもりもなかった。


 だけど、ある日。


 放課後教室に忘れ物を取りに戻ると、夕焼けが差し込む教室にぽつんと一人、季咲がいた。

 季咲は自分の机でなにか描いていて、その姿が切羽詰まったみたいな、今にも泣き出してしまう寸前みたいなそんな感じに見えたから、俺は教室に入ることが出来ず、かと行って帰ることも出来ずに、コッソリと隠れて見ていた。


 本当に泣き出してしまったらどうしようかと、ビビりながら。


 だけど結局、季咲が泣き出すことはなく。

 彼女は陽が暮れて暗くなってしまった頃に席を立った。

 俺は慌てながらも迅速に、季咲に見付からないように隣の教室に隠れた。

 そうして足音が聞こえなくなったのを確認してから、いてもたってもいられずに、季咲の机の中を覗きこんだ。

 季咲があんなになって描いていたものが、気になって仕方なかった。

 持って帰っていたら諦めるしかなかったけど、季咲が机になにかを突っ込むところを俺は見ていた。

 机の中には、一冊のスケッチブックがあった。

 躊躇いながらも手に取り、汚したり傷付けたりしないようにそぉっと開いた。


「うわ、あいつ、絵まで上手いのか」


 写真と見間違いそうな程に精緻に描かれた人物画の数々。


「なんか、同じ人達ばっかだな。……あいつの父ちゃんと母ちゃんかな? それじゃあこっちは妹か?」


 そう思って見てみると、どことなく面影がある気がする。

 スケッチブックはどのページを開いても三人の姿が描かれていて、顔は全て笑顔だった。


「……なんか」


 違和感があった。

 文句なく上手い絵ではあるのだけど、どこかしっくりこない。

 まるで、本人と見分けがつかないほどよく出来たマネキンを描いたみたいな違和感。


 それに――……。


「……あいつ、この絵をどんな気持ちで描いてたんだろう」


 さっきまでここにいた季咲の姿が頭に浮かぶ。

 切羽詰まっていて、泣き出しそうで。



 とても、寂しそうだった。



「……」


 俺は、季咲の机の中にスケッチブックを戻した。


「……よし!」


 一人強くうなずくと、拳をギュッと握り締める。

 俺はその次の日から、季咲にちょっかいを出すようになった。

 べつに同情とか、そんなんじゃないけど。


 ほっとけなかった。





 朝。

 母ちゃんに叩き起こされて、欠伸をしながら学校に向かった。

 やべえ、今日の二時間目に提出のプリントやってねぇや、とか、まあ休憩中に誰かのを借りてソッコーで写せばいっか、とか、そんなことをつらつらと考えながら校門をくぐり、下駄箱で上履きにはきかえて、廊下をダラダラと歩いた。

 自分の教室が近付いたところで、なんだか今日はやけに騒がしいな、と思った。

 教室の扉をガラリと開くと、挨拶もなしに近くにいた奴にいきなり話しかけられた。


「和泉っ! お前なんか聞いてねえのかよ!? よく季咲にちょっかいかけてたろ!」


「は? なんだよ、なんの話?」


「季咲の家、親父があいつ以外車に乗せてトラックに突っ込んだんだと!」



 は?



「ッどういうことだよ!」


 俺は一瞬頭が真っ白になって、気付いたら話しかけてきたそいつの襟を掴んで怒鳴っていた。


「うわっ! お、俺も詳しいことはしらねえよ! だからお前に聞いたんだろ!」


「……っ、季咲は、乗ってなかったんだな?」


「ああ、俺はそう聞いたぜ」


 少しだけ、安心して。

 でもすぐに思う。

 それならあいつは。


 今、どんな気持ちでいるんだろう?


「……っくっそお!」


 じっとしていられなくなって、俺は駆け出した。

 靴もはきかえずに学校を飛び出して、途中まであいつと一緒に帰った道を辿った。

 だけど季咲の家なんか知らないから、結局思いつく限りの場所を探し回った。


 でも、あいつの姿はどこにもなかった。


 息がきれて体力ももう限界だったから、壁にもたれて地面に座り込む。

 ホントに俺、馬鹿みたいだ。

 でも。

 頭の中にも瞼の裏にも、夕焼けの教室で見た、あいつの姿が浮かぶんだ。


 寂しそうだったんだ。


「くそぉ……ッ!」



 ほっときたくなんて、なかったんだ。





 翌日の朝。

 担任の教師の口から、季咲が他の学校に転校すると伝えられた。


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