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それいけ!林檎ちゃん!

作者: kanatax

過去の黒歴史を投稿です!

「……と、言うことだ。頑張ってくれたまえ」

 なんで、こう学校長の話って長いんだろうね?

 眠くなってくるよ。

 というか、校長の話もそうだけど、祝辞とか要らないよね?

 ただでさえ、ずっと座っててめんどくさいのに、ながったらしい話を聞かなきゃいけないんだよ?

 誰も幸せにならない祝辞なんて、滅んでしまえ!

 あ、どうも皆さん。主人公の青森林檎です。

 今は、これから三年間通うことになる「私立岐阜南第三学園」の入学式の最中である。

 あ、ちなみに林檎とか書いてあるけど、男だからな?

 親が名字が青森だからってだけで林檎っていう名前にしたのだ。

 林檎だと女の子に聴こえるからやめてほしい。せめて、青森ねぶたとかが良かった。

 ……いや、よく考えたらねぶたも嫌だわ。

 ちなみに中学時代は地理でやたら青森県の事を質問されたり、教師が青森県の事ならって事で、俺を指名してきたりした。

 ふざけんな!青森って名字だからって、青森の事に詳しいと思うな!

 ……ふふふ、その質問に全部答えた俺の才能半端ないぜ(実は青森県大好き)


-教室-

 この、岐阜南第三学園は岐阜市にあるとても大きな私立高校だ。

 全校生徒は約4000人らしい。

 学科は、普通科、商業科、農業科、林業科、工業科、音楽科、美術科などなど高等学校に存在する学科のほとんどだ。

 ぶっちゃけ俺もどれだけの学科があるか把握していない。

 ただ、学科の人数が多いのは普通科のみで、他は10~50人の少数精鋭で成り立っている。

 俺は、岐阜県の中の加茂地区という岐阜市からはかなり離れた地区の中学から進学してきた。

 わざわざ、こんな遠い所に進学してきたのには訳がある。

 それは目立ちたくないからだ!

 俺は中学生の時、厨ニ病だったり、自作小説を書いていたりと、そうとうにいたくてあれなやつだった。

 俺は、そんな中学校時代を忘れるために、こんな遠い所まで来たのだ。

 ……非常に残念な事に、今年に限って千里と慎也というオタク仲間も何故かここに進学してきているがな。まぁ、あいつらは商業科だから良いのだ。基本、会わない。

 ちなみに、俺は高校デビューだぜ!中学の俺とは違うぜ!的なやつではない。

 俺は、奴らとは違う。教室の隅であいつ誰?って言われるような影の薄いキャラで居たいのだ!


「はーい、では自己紹介をやってもらいまーす」

 担任の声が教室に響き渡る。

 この先生は、大平香苗先生。このクラスの担任となった先生だ。

 年は24とかなり若い。

 ちなみに、クラスの男どもは、先生の体のある部位をじぃーと見つめている。

 その部位は圧倒的にでかいのだ。

 まぁ、その部位がどこか、ということまでは言わないけどな。

 自己紹介が着々と進んでいく。

 ちなみに、俺の番はもう終わった。

 青森だから、青川に続いて二番目だったのだ。

「青森林檎。……よろしく」

 と、超暗い感じで自己紹介しておいたから、目立たないだろ、うん。

「上田綾」

「はい」

 こうしているうちに自己紹介はどんどん進んでいく。

「愛媛蜜柑」

「はいっ!」

 あまりにも元気のよい声に反応して、俺は声の方向に振り向く。するとそこには……

 天使が居た……。

 一言でその少女の事を表すならそれは「愛」になるだろう。

 圧倒的にその子は可愛いかった。

 俺は思わず見惚れてしまう。

 すると、突然隣の奴が声をかけてきた。

「あの、蜜柑ちゃんって子、可愛いよなー!おそらく、クラス1いや学年1の美少女だぜ!」

 こいつは、確か、青川大和。俺の隣の席に座ったテライケメンだ。

「あ、ああしょうだな」

 か、噛んだだけだからなっ!

 コミュ障っていうな!

「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの理論で、生徒数が多いこの学校では1クラスに1人は美少女が居るらしいぜ!」

「そうなのか」

 そう言いながら俺は名残惜しい気持ちを押さえて、蜜柑から目を離す。

 どうせ、俺には縁のないやつだ……

-1週間後-

 暗い自己紹介と近づくなオーラを常に発していたお陰か、目論見通りこの1週間、俺に話しかけるやつらは居なくなった。

 ……こいつ以外は。

「おーっす林檎!今日、これから暇?」

 青川大和。偶然、俺の隣になったこの男だけは、何故か俺に話しかけてくるのだ。

 まぁ、1人くらい、話せるやつが居てくれたほうがいいので、わりと仲良くしている。

 あ、ちなみにこいつは相当の女たらしだ。

 この1週間だけで、5人とデートしたらしい。

 爆死しろ!

 ちなみに、こいつは入学式の日から毎日のように蜜柑にアタックしていたが軽くあしらわれていた。

 ざまぁみろである。

 ちなみに、蜜柑はあれからすぐにクラスいや学年のアイドルとなった。

 素晴らしい見た目と元気っ子な中身、少しの天然という3つの要素で、男子……だけではなく、女子のハートまでわしづかみにしたのだ。

 今では休み時間に他のクラスから見に来る奴らが居るくらいだ。

「すまんな、今日は本屋に行く予定があるのだ」

「そうか、そりゃ悪かったな。また誘うよ」

 そう言って、大和は出ていった。

 大和はクラスの不人気ものにも気をかけてくれるいいやつである。

 俺には勿体ないくらいのな。

 俺はスマホのブックマークを呼び出す。

 本屋に行く前にチャットをチェックするのだ。

 チャットには、丁度オタク仲間の慎也と千里が来ていた。

-----

林檎さんが入室されました。

慎也:林檎ちゃんおはー

林檎:ああ

千里:そういえばさ、何で岐阜に3つもこの学校存在しないのに学校の名前、第三学園なんだろうね?

林檎:ばっか、そんなもん、表向きにされてない事情があるに決まってるだろ!

慎也:宇宙人の侵略に備えて、第一学園と第二学園は地下に埋まってるとか?w

林檎:ww

千里:違いないねっ!

林檎:まぁ、本当は、第三が名前なんだけどな!

岐阜の南にある3つ目の高校なんじゃなくて、岐阜の南にある「第三学園」なんだよw

千里:え、そうだったんだw知らなかったw

林檎:東京とかだと、東京北第三学園らしいよw

慎也:マジかw林檎ちゃん傑作w

-----

 というような感じでチャットは盛り上がっていた。

 ちなみに、林檎ちゃんという、不本意な名前で呼ぶのはこいつらだけだ。

 この学校では、絶対に林檎ちゃんと呼ばれることがないよう、気を付けたい。

 その時だった。

「青森君だっけ?」

 天使ちゃん、もとい、愛媛蜜柑が俺に話しかけてきたのは。

 驚きのあまり、ビクッと体が震えてしまった。

「ななな、何かな?愛媛さん」

 美少女に話しかけられて急におどおどする俺。情けない。

「蜜柑で良いよー」

「蜜柑さん、何か用かな?」

 よし、噛まずに言えた。

「いや、さっきからスマホでなにやってるのかなー?って思って」

「ああ、チャットだよ。中学時代の同級生とね」

「へぇー。そうなんだ。教えてくれてありがとっ!また明日!」

 彼女はそう言って、立ち去った。

 彼女には見るだけで人を赤くする能力があるようだ。

 俺はしばらく、紅潮した頬をしたまま硬直していた……




 愛媛さん、もとい、蜜柑さんから話しかけられてから3日が立ち、週が開けた朝。

 俺は気だるげな体を起こす。

 俺が通う、岐阜南第三学園には寮が4つほどある。

 普通科が住むなのはな荘、商業・農業・工業科が住むあやめ荘、その他の科が住むひまわり荘・たんぽぽ荘の4つである。

 それぞれの寮は男子棟女子棟の二棟だてで、食堂、玄関などがある一階が二棟を繋いでいる。

 俺は普通科なので、なのはな荘だ。

 さて、朝食を食べて登校しますかね?


-教室-

 朝、俺は大和と教室で駄弁っていた。

 大和も寮に住んでいるため、大和とは寮を出るときから一緒だ。

 どうやら、俺とこいつとは切っても切れない関係らしい。

 ガラガラ

 教室の扉が開いた。

 愛媛蜜柑だった。

 大和はいつものように、会話を中断させ、蜜柑の方へ歩いていった。

「やっほー。愛媛さん!今日はまた一段と綺麗だね」

 蜜柑もまたその言葉に対して、いつものように答える。

「ありがとう、青川君。でもその言葉を聞くのは五回目だよ?」

「毎日、愛媛さんの可愛さはアップしていってるんだ!そうだ、今度一緒にお茶でもどう?」

「遠慮しておくねっ!」

 蜜柑が教室に入ってきて、大和が口説きに行って、軽くあしらわれるという毎朝行われている事が今日も行われていた。

 ただ、1ついつもと違ったのは、その後の蜜柑の行動だった。

 いつもはこのまま自分の席に向かっていったのだが、今日は何故かこちらに向かって歩いてきていた。

 ん、こちらって、俺しか居なくね?

 その悪い考えの通りに蜜柑は俺の席の方にやってきた。

 クラスメイトの視線がいきなり俺の方に向く。

「林檎ちゃん、おはよー!」

 ……んー。ちょっと待てー。突っ込みどころが満載だぞー。

 まず、どれから突っ込もうか?

 うん、やっぱり一番はこれだろう。

「おはよう、蜜柑さん。早速ちょっと良いかな?

なんで、林檎ちゃんなのーー!」

 俺にとって、一番突っ込みたいところはそこである。

「ニャハハー君が名前で呼ぶならこっちも名前で呼ぶに決まってるじゃん!」

 成る程。金曜日のあれは伏線だったか。

「俺が聞いているのはそこじゃない!何故ちゃん付けなんだ!」

「え、可愛いから」

 おいおい、理由そんなんかよ。

「なんだったら、私の事も蜜柑ちゃんとか蜜柑たんとか呼んでも良いよ?」

「丁重にお断りします。」

 もう、林檎ちゃんでいいや。

「んじゃーねー」

 彼女はそう言って、自分の席に帰っていった。

「ああ、最悪だ」

 何が最悪か?それは彼女という大人気者が俺という影が薄いやつに話しかけたことだ。

 視線は俺に集中し、教室がざわめきだした。

 何、コレ?いじめっすか?

 めだちたくないのに、超めだってるじゃん。

「おい、どういう事だよ?」

 早速、大和が俺に謎を投げてきた。

 それに対し、俺は。

「さあ?俺にもわからん」

 と、おどけてみせた。


-午後・HR-

「という、事でペアの件考えておいてくださいねー」

 先生はHRである爆弾を落としていった。

 なんでも、新入生同士の仲を深めるため、ダンス講習会が開かれるらしい。

 こういうのは、球技大会、悪くても遠足が普通だと思うんだけどな……

 んで、そのダンス講習会には男女ペアで出場するらしいのだ。

 そのペアは自力で見つけ、申告する。くじに任せるのどちらからしい。

 まぁ、自力でペアを見つけなくても良いというのは好都合だろう。

 誰も、クラスの日陰者と組みたいやつは居ないだろうしな。

 この時点の俺はまだ、このダンス講習会でまた1つ波乱が起きることを知らないのだった……


-HR後-

 クラスの男どもは、HRの後、蜜柑に群がっていた。

「愛媛さん!僕と一緒に踊りませんか?」

「いや、僕と!」

「いや、俺と!」

『愛媛さん!』

 ちなみに、大和はそこに居ない。

 こいつはこいつで、女子に群がられている。

 大和は女たらしだが、基本的にモテるのだ。

 二人の方を、大変だなぁという目で見ていると蜜柑がこちらを向き、にっこりと笑った。

 俺は、それに対応しないのは失礼かと思い、笑い返した。

 すると、蜜柑はそれを見て、周りに群がる男たちに、

「ごめんねー。先約があるんだー」

 と、言い、こちらに向かって歩いてきた。

 ……朝と同じ様な悪寒が俺の背中を走り抜ける。

 彼女は俺の隣まで来て、俺の腕をとり、

「私は林檎ちゃんと組みます」

 と、宣言した。

 その言葉を聞いたクラスメイト達がまた、朝と同じように騒ぎ出した。

 俺は、騒ぐクラスメイトをよそに、小声で蜜柑に話しかけた。

「約束なんてしてました?」

「さっき言われたばっかりなのに、してるわけないじゃん」

「……ですよねー。俺に決定権は?」

「ないよ」

「さいですか」

 俺には目立ちたくないという願いがガラガラと崩れ落ちていく音が聞こえていた。


-翌日-

「うわー」

 予想はしていたが、山盛りとは……

 俺の上靴には大量の画ビョウが入れられていた。

 まぁ、蜜柑と関わることになったときから予想はしていた事だがな。

 この学園には、靴箱に大量のラブレターが入れられている男がいるという七不思議があるが、今の俺はそいつとは真逆の立ち位置に居るなと、俺は苦笑した。

-午後-

 ダンス講習会は普通科生徒の親睦行事として行われている。

 普通科の新入生全600人は15クラスに別れている。

 その六クラスに二人づつ講師が来て、ダンス講習会は行われるのだ。

 俺が所属する普通科1年A組は体育館で、講師からの指導を受けていた。

 今、俺たちが教わっているのはチャチャチャだ。

 チャチャチャの基本動作、2、3チャチャチャの動き方を覚えていく。

「林檎ちゃん、上手いね。ていうか、なんで教わる前から動きがわかるわけ?」

「中学校でも同じ様な講習会があったからね。というか、蜜柑さんだって、習う前から出来てるじゃないですか」

「私これでも良いとこのお嬢様だからねー」

 ああ、そういえば、そうだったな。

 蜜柑はかなりのお嬢様らしい。

 中学までは箱入り娘だったらしいが、今は高級マンションに一人暮らしで、そこから学園に通っていると聞いたことがある。

「そうでしたね」

 ちなみに、地の文と台詞のキャラが違うのは、猫を被っているからである。

 地味に地味に目立たなくを目標に高校生活を送る俺にとっては当たり前の事である。


 講習会はその後も順調に進んでいき、覚えたチャチャチャを曲に合わせて実際にやってみる段階まで来ていた。

 ここまで来ると、流石に自分の相手に大変になったのか練習の時から俺が蜜柑と手を繋いだり、背中に手を回したときに聞こえてきていた、「うおっ」だの「ああっ」だのという声は聞こえなくなってきていた。


「お嬢様、お手を」

 音楽が始まる少し前、俺は若干ふざけて、蜜柑さんの手をとった。

「ふふ、林檎ちゃんはそういう風にしてたほうが面白いと思うけどな」

 彼女の声は音楽と合わさってかきけされていた。


 俺と彼女が踊るのを見た周りから声が上がる。

 彼女の美しさに対する声、それに続いて、パートナーの俺を貶す声。

 少しだけ存在するダンスの上手さを褒める声だ。

 俺たちはその多種多様な声のなかを躍り抜いた。



「ねぇ、林檎ちゃんってさ、名古屋に地理に詳しい?」

 ダンス講習会が終わり、教室に帰る帰り道の事だ。

 隣を歩く蜜柑から、いきなり変なことを聞かれた。

「ええ、まぁ」

 悪友の慎也や千里と共にオタショップ巡りに何回も行ったことがあったので、名古屋にはある程度詳しかった。

「私さ、名古屋でちょっとしたいことがあるんだよねー。今週の土日とか暇?」

 もしかして、また厄介事だろうか?

「まぁ、何もする事はないですけど」

「じゃあさっ、買い物に付き合ってくれない?」

「……」

 今後の学園生活に影響はないだろうか?

「駄目、かな」

 …………まぁ学園の外だからどうということはないだろう。

「大丈夫ですよ」

 俺はそうこたえた。

 まぁ、理由は影響が無さそうだからという思いだけではなく、彼女の笑顔にやられたこともあったのだが……

「ありがとうっ!」

 この彼女の笑顔を見れるなら、何でもできる。俺はそう思ってしまったのだった。


-名古屋-

 約束の時間……の30分前。

 名古屋駅の、待ち合わせ場所に俺は来ていた。

 「待ったー?」「ううん?いまきたとこー」的な定番やり取りをする気満々だったのだが、すでにそこに彼女は居た。

 周囲からの視線を欲しいがままにしながら、そこに愛媛蜜柑は立っていた。

 俺は、苦笑いしながら話しかける。

「ま、まったー?」

「ううん?今来たとこだよ」

 想定と逆である。

「いつから居たんですか?」

「ヒ・ミ・ツ!」

 ……まぁいいか。

「んじゃあ、行くぞ」

「お願いねー」

 っと、そうだ忘れていた。

「蜜柑さんはどこに行きたいんですか?」

「電気店に行きたいな」


 駅構内を歩いて行く。

 すれ違った人は、最初に蜜柑さんの綺麗さに目を奪われ、次に横で歩いている俺に羨望の眼差し、又は誰?あいつ?彼氏だとしたら不釣合いだよねー的な目で見てくる。

 余計なお世話だ。


 名古屋駅は愛知という大きな県の代表の駅だ。

 そこに居る人は様々である。

 外国人、旅行で来た人、地元の人、オタショップ巡りの帰りのやつ、などなどだ。

 ちなみに、アニメイトが名古屋駅の近くにあるから、一番多く見かけるのはアニメイトの青い袋だ。

 

「最初はどこにいくのー?」

「ソフマップです。もう少し進んだ先にあります」

 ソフマップに行きたいやつは、あおなみ線の改札に向かって行けばたどり着ける。

 なんてったって、すぐ横だからな。

-ソフマップ前-

「あ」

 俺はフリーズした。

「そうだ忘れてた!」

「どうしたの?」

 蜜柑さんが心配そうに覗き込んでくる。

「ソフマップは11時開店だったー!」

 くそう、前回慎也が同じ事をしたときに爆笑したのに!同じ事をしてしまった!

 もう、こうなったらあれだ、奥の手だ。

 無かった事にしよう。

「さぁ、蜜柑さん最初の目的地、ビックカメラに向かいましょうか?」

「無かったことにしようとしても覚えてるからね!?」

-昼-

 その後、ビックカメラ、エイデン、ヤマダ電機、11時になったので再び行ったソフマップにも彼女の求めているものはないようだった。

「そもそも蜜柑さんは何を探しているんですか?」

「それはちょっと話せないんだけど……うーん、こういう量販店には無いのかも……」

「じゃあ、大須にある怪しげな店が立ち並ぶゾーンにでも行ってみましょうか」

 しかし、量販店に無いものってなんだろうなー?

-大須-

「まずは、ご飯を食べましょう」

 もう時間は昼過ぎ。俺の腹も限界だった。

 ふだんなら、名古屋駅の地下街、エスカで済ませてしまうのだが、せっかくだ。

 お嬢様においしいおいしいオムライスを食べさせてあげよう。

-昼食後-

「ふぅーおいしかったー!」

 蜜柑さんは満足げである。

 今回連れて行ったのは、大須にあるオムライス店。こじんまりとした店だが、あそこのオムライスは旨い。

「あそこはお気に入りなんですよ」

「良い店知ってるね!」

-怪しげな店-

「あったー!これだー!」

 彼女が目的のものを見つけたようである。

 俺は何が欲しかったのか気になり、覗き込んだ。

「げ!」

 彼女が手にしていたもの、それはスタンガンだった。

「最近、物騒だしさー、何せ私1人暮らしじゃん?護身用に持っておこうと思って」

 確かに、彼女は美人過ぎるから、危ないのかも知れない。

 だが

 関わっていいことはなさそうなので、俺はスタンガンを見なかったことにした。

「今日はありがとうねー」

 蜜柑さんが黒光りするアレが入った袋を持ちながら、お礼を言ってくる。

「いえいえ」

 まぁ、疲れたけど、彼女と歩くのは楽しかったから良しとしよう。

 

 ……そんなときだった。

 怪しげなやつら数人が俺らを囲んできた。

「誰だ!」

 そいつらのリーダーっぽい男が話しかけてくる。

「いやぁ、名古屋駅で恐ろしいほどの美少女を見かけちゃってさぁ。慌てて仲間に連絡したんだよねー」

「???」

「わかりやすくいうと、今巷を騒がしてる例のあれ?って奴かねぇ」

 そういえば、最近そういう不届きなやからが居るから注意しろとニュースでやっていた。

「---!!」

 彼女が後ろで、声にならない叫びを上げる。

 残念ながら、ここは怪しげな店に行った帰り道の路地裏なので叫んでも人は来ないだろう。

 ……考えてても仕方が無い。

 この場所に彼女を連れてきたのは俺だ。

 俺がどうなっても彼女だけは守り通す。

 そう俺が考えている間も奴らは下卑た笑いを浮かべ、近づいてくる。

 もう時間は残されていないようだな……

 俺は特に力が強いわけではない。

 でも、読書家であったあった俺はゴールデンスランバーという小説で出てきた柔道の技、大外刈りという技に惚れ、それだけ覚えていたのだ。

 要するに。

 隙を作ることくらいはできるということだ!

 俺は、近くに居た男を技にかける。

 自分より体格がでかい奴が倒れた。

 付近に、一瞬の静寂が訪れた。

 そして、俺はその静寂を破る。

「蜜柑!逃げろ!」

「やつを逃がすなー!」

 蜜柑は一瞬、その顔に迷いの色を浮かばせたが、

「いいから逃げろ!」

 その言葉を聴き、逃げていった。

 やつらは、彼女を追いかけるためにこちらに向かってくる。

 その数、およそ10。

 勝てる気がしない。

 だが、

 男にはやらなきゃいけないときがある。

 それが今だ!


 男と女が喧嘩する場合は女性のほうが有利である。

 それは男性は、玉を蹴られる痛さを知っているため、喧嘩するとき、無意識にそこを避けてしまうからであるからである。

 だが、女性は躊躇無く、蹴ることができる。

 今回はそれを利用してやるだけだ。

 ……まぁ、流石に全員は倒せないだろうが、な。

-5分後-

 その後、俺は追い詰められていた。

 9人を潰したが、残る1人、ボスは倒せなかった。

 俺は今ナイフを突きつけられている。

「やるじゃねぇか。男の急所を狙ってくるとは。

まぁ、そんな浅はかな策じゃ俺は倒せないがな。

さて、女に逃げられた代償、どう取ってもらおうか……。

まぁいい。そんなのは殺してから考えよう。

生かしていると、反撃されるかもしれないからな」

 ボスは、ナイフを俺の首にあてがった。

「あばよ」

 もう、終わった。そう思いゆっくりと俺は目を閉じ、その時を待った。

 ……

 …………

 ………………?

 いつまでたっても、衝撃がこない。

 疑問に思い俺は目を開ける。

 すると、そこには、

 黒光りするスタンガンを持った蜜柑さんと、倒れているボスの姿があった。

 彼女は泣きながらこう言った。

「助けに来たよ」

-ホテル-

 その後、俺と蜜柑さんはホテルに来ていた。

 超高級そうなホテルである。

 彼女のお嬢様パワーだろうか?

 ちなみに、ホテルに来たのは俺の手当てのためだ。

 決してやましい目的ではない。

「終わったよ」

 どうやら、俺の手当ては終わったようだ。

 幸い、傷は擦り傷とナイフが突きつけられていたところの血だけだった。

「改めて、ありがとうね林檎ちゃん」

「まさか、本当にスタンガンが必要になるとはな」

「ごめんね、私だけ逃げて」

 彼女がまた涙ぐみながらそういいそうになるので俺はそれを必死で抑える。

「だから、良いんだって。俺がそう指示したんだし、そうしなければ、俺も助かってなかったわけだし」

 彼女の号泣しながらの懺悔は、このホテルに着く前に一度やっている。

 また、泣かれたんじゃあなだめるのが大変すぎる。

「林檎ちゃん」

「どうした?」

「私は、今の林檎ちゃんの方が好きだよ」

「今の林檎ちゃん?」

「そう、猫を被らずに普通に話してる林檎ちゃんだよ」

「あ」

 そういえば、猫を被るのを忘れていた。

「林檎ちゃんが何を思って、猫を被ったり、目立たないようにしてるかは分からないけどさ、素の林檎ちゃんの方が面白いよ」

 ……それは、俺の高校生活での”生き方”に関わる問題だ。

 軽く変えることはできない。

 でも……

「私は、普通の林檎ちゃんで居て欲しいです!」

 俺はもう……

 こいつの笑顔の虜になってっしまった。

 こいつの笑顔を見たい、そう思う俺が居た。

 そして俺は……

「ああ、分かったよ蜜柑」


 その日から俺は猫を被るのをやめ、目立たなくすることをやめ、素の俺に戻った。

 もう、俺は猫を被ることは無いだろう。

 この、愛らしき、

「ん?私を見つめてどうしたの?」

 俺の彼女がそばに居る限りは……

-終わり-

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