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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ファイバー・ワーク①

 アギタがピロウと出会ってから二時間。アギタの作業場から南へ三十キロの地点。

 そこにはアランドルという地域が広がっている。

 その地域は、あらゆる技術が集中する『中央』には遠く及ばないものの、地方の中では高い文明を持ち、特に電波系統の発展には目を見張るものがある。治安も高い水準で保たれており、広大な砂漠と中央への不満がつのる地方のオアシスであり、また中央に対抗する為の牙でもあった。

 その地域の一番外側のモルク町で、アギタは困り果てていた。


「金が、金がない!」


 舗装などない、剥き出しの道路の中心で、アギタは己の無力に――ではなく計画性のなさに嘆いた。周囲はアギタに一瞬だけ視線を向けるが、すぐにまた各々歩き始める。それは地方では珍しい先進地域ゆえの無干渉だったが、追われる身のピロウにとってはありがたい事だった。


 しかし自分を含めピロウの世話をしなくてはならないアギタに、この状況はあまりにも酷すぎた。


 アギタが上着のポケットを漁ると、マッチの箱と銅貨が数枚、道路に落ちた。続けて他のポケットも全て調べるが、出てくるのは紙屑ばかりで、価値のあるものは初めに落とした銅貨のみだった。

 作業場を出る際に、財布の確保を忘れた過去の自分を殴り付けたくなる。

「こんなんじゃ、砂漠地帯だから水は貴重だし、パン買うだけで精一杯だぜ。賭博場で増やすか?」

 一旦自分の作業場に戻って財布を探す、という選択肢も浮かぶが、財布の無事の確率と追っ手とはちあう可能性が全くもって釣り合わない。残念だが、ここは諦めるのが一番の得策であった。


「……おはよ」

 困窮極まったアギタに目覚めの挨拶をするピロウ。彼女は、馬鹿なりに悩むアギタと道路の銅貨を交互に見、やがて青空に視線を移し、ゆっくりと目を閉じた。



「……マザー…………トーン……」


 澄んだ声が乾いた空間に静かに響く。


 数秒の沈黙。

 ピロウは緩慢な動きで目を開き、アギタを見た。


「ガソリンを買った方が……いい」

「お前今、何した?」

 アギタの問いに、しかしピロウは答えなかった。最初は寝たのかと思われたが、そういった眠気よりも虚無が目立っていた。言及されることを無意識に拒否するような眼。その強さにアギタは気圧され、問い直す事はできなかった。


「そ、それじゃあ行くか」

「うん……」

 アギタは道路に落ちた銅貨をポケットに入れ、頭の中で町の地図を描く。

 ピン、と人差し指を立てる。


「ガススタは――こっちか」

 目指すべき方向に、腕を伸ばした。









 モルク町付近。


「チープトリック様、次はこのモルク町を探索しましょうか」


 三十人の部隊の長が、先頭に立つ男に声をかけた。男はかけていた大きなゴーグルを額に上げる。


「いや、探すまでもねえな」

 チープトリックと呼ばれたゴーグルの男は右手にプラスチックで出来た球体を、左手にガラスの球体をそれぞれ持つ。


「『孤細工ファイバーワーク』」


 唱えると、右手のプラスチックが変形し、双眼鏡の形になった。更に二秒後、左手のガラスがレンズの形になって双眼鏡のレンズ部分に嵌る。そうして出来た急造の双眼鏡を、ゴーグルの男は目を細めて見た。

 そしてその先に、バイクを押す男と、そのバイクの上に乗るパジャマの少女を捉えた。


「……ビンゴだ。よし行くぞお前ら!」

 ゴーグルの男は双眼鏡を砂漠の大地に投げ捨て、急いでバイクに乗りこむ。


「オレの『孤細工ファイバーワーク』から逃れられると思うなよ、手前ら」





  次回:ファイバー・ワーク②


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