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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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パンオプティコン④

「探せ。ヤツはまだそう遠くへは行っていない。見つけ次第捕らえるなり射殺するなりしてピロウを保護しろ」

 近くから白衣の男の声が聞こえる。ピロウというのは少女の名前だろうか。保護というからには、最悪の場合でもこの少女を殺害するような指揮は、決して執られないはずだ。


「その判断が命取りなんだぜ」

 瓦礫の下で装備を整え終えたアギタは、瓦礫から頭だけ出し辺りを満たす土埃の中で敵の位置を把握する。先の爆発で火薬は大体燃焼した筈なので、撃った瞬間に自爆するようなことはない。


 そして、撃つ覚悟は既にできていた。


 アギタは立ち上がり土臭い霧の向こうに人影を捉える。そしてアサルトライフルを脇で固定し、照準が曖昧なまま引き金を引いた。

 連続した発砲音は熱を携えアギタの耳を刺激する。

 音も立てずに、おぼろ気な人影が二つ崩れる。どうやら乱射の甲斐はあったようだ。

「いたぞ! ヤツは瓦礫の下だ!」

 近くにいた軍服の男がアギタを見つける。アギタが声のする方向にアサルトライフルの銃口を向けると、その方向にいた軍服の男は既に視界から姿を消していた。

 普通なら、この状況ならアギタは撃ち殺されてしまうところだろう。


 だが、いつまで経っても透明な空間から銃弾が出現することは無い。

 それは当たり前の事であった。


 アギタは今、体の前で少女を盾にしているのだから。


 まるで人質を取るかのように、首に手を回し、自分の盾としてアギタは少女を使っている。

「そ、その子を離せ!」

 姿のない軍服の男はもどかしそうに唸る。その声によって男の正確な方向を察知したアギタは、その方向に向かって銃弾を放った。

 何もない空間から血が飛び出し、ほどなくして上半身から血を噴き出した状態で軍服の男は姿を現し、そのままその場に崩れ落ちた。

 どうやら、少女を盾にされると迂闊に手出しできないようだ。

 予想通りと言えば予想通りの結果であったが、思ったよりも相手の硬直時間は長かった。


 これなら、行ける。


 後ろを取られない様にぐるぐると回りながら三百六十度全方位にアサルトライフルを放つ。すると、既に近づいて来ていた軍服の男が何人か視界に現れ、直ぐに倒れる。そうして出来た死体に近づき、アサルトライフル一丁と大量の弾倉を手に入れる。


 アギタの少女の回転乱射ダンスは止まらない。アギタは両手に一丁ずつアサルトライフルを握り、回転しながら弾丸をばらまく。発砲の反動で腕に激痛が走り関節が曲がるが、遠心力によって銃口は依然として外側に向いていた。

 少女は目を瞑りながら、アギタはの首に腕を回している。足が浮き、風に髪がなびく。


 回転する視界で、度々軍服の男が現れ、血を散らしながら倒れる。が、それよりもアギタは、頭や腹から花のように噴き出る血の花火にばかり目がいっていた。


「さぁ、花火を見せやがれ! 脳漿ぶちまけて血をはっちゃけさせて吹き飛びやがれ!」


 爆発ボンバー爆発ボンバー爆発ボンバー爆発ボンバー爆発ボンバー爆発ボンバー爆発ボンバー


 血が派手に跳ね、命が華々しく散る。

 回転する視界を何度も何度も横切っていく。


「ははは、最高だ! このまま全員花火にしてやるよ!」


 途端、後頭部を誰かに掴まれる。

「は?」

 そして、考える間もなく頭部を地面に叩きつけられた。

「がはぁッ!」

 頭部の皮が切れる。更にその誰かはアギタの頭を踏みつけ、立ち上がれないように抑えつけている。


「ぐっ……誰だ、誰だお前…………」

「私だよ。『監視領域パンオプティコン』だ。さあ、ピロウを返してもらおう」

 アギタを踏んでいたのは白衣の男だった。突然の回転の停止により俺の身体から振り放された少女は、見えない軍服の男に捉えられている。


「私には銃弾ぐらい見切れない事も無い。妄神としての精神の肥大化の恩恵だ」

「くそっ……離せ! 離せってんだよ! 俺はその子に『助けて』って言われたんだよ! さっきも言っただろ! アンタらはあの子に嫌われてんだよ! アンタから逃げたいって思ってんだよ!何でそれがわかんねえんだよ!」

「嫌われていてもいい。私はこの子の為になる事をするだけだ。さあ、行くぞお前ら」


 白衣の男は頭から足をどけ、アギタに背を向けて姿を現す。そして軍服の男から少女を受け取ると、背中に手を回し、誰かと電話をしながら歩き始めた。きっと迎えの車か飛行機でもチャーターしているのだろう。

 今この瞬間、懐に入っているマシンピストルを使えば白衣の男を殺せるのだろうが、アギタに向かって銃を構えているであろう、透明の軍服の男がアギタの脳天に向かって弾丸を叩き込むだろう。


 抵抗すれば殺される状況。

 しかしこの絶望にのみ有効な作戦を、アギタは既に思いついていた。


 心の内で覚悟を決め、大きく息を吸う。

 そして、

「『爆撃機人ボミングランチャー』アアァアァアアア!!!」

 最大声量で叫んだ。


 途端、今まで透明になっていた軍服の男達が空を見上げ、その姿を現した。白衣の男も振り返って空を見上げている。恐らく背後で銃を構えている人間も同じ様にしている事だろう。

 だが、残念ながらそれはフェイクだった。


「言ってみただけだよクソがッ!」


 アギタはすかさず懐に仕込んであるハンドマシンガン二丁を取り出し、白衣の男とその周りの軍服の男達に大量の弾丸を叩き込んだ。一瞬の隙をつかれた男達が至近距離での銃撃に次々と倒れる。

 その中で白衣の男は少女を庇うように、銃弾と少女の間に壁として入る。純なる白衣に点々と紅が滲む。大量の銃弾が肉体にえぐり、白衣の男に苦悶の表情が浮かぶ。そして数秒立った姿勢を保った後に、その場に屈した。


「どうだ。やってやったぜ。ざまあみやが――」

 得意げに思った瞬間。

 背中に肉を抉られるような衝撃が、背後からの発砲音とが同時に訪れた。


 背後の軍服の男が、アギタの背中を撃ったのだ。



  次回:パンオプティコン⑤

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