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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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パンオプティコン②

「『監視領域パンオプティコン』からは誰も逃れられない。監視は君たちに向いているのだからな」


 白衣の男の声のみが聞こえる。相変わらずアギタには白衣の男はどこにも見えない。声はしっかり聞こえることから、白衣の男は逃げてはいないはずだ。アギタの足元でうずくまる少女を捕まえるつもりなら、姿を現して近づくはずだ。そこを狙えばなんとかなる。

 そうだ。慌てる必要なんてない。アギタはそう推測した。


 その瞬間、幾つもの引き金が引かれる音が鳴った。それを皮切りに、中空に突然何十発もの弾丸が現れ、アギタに向かって飛んできた。しかし運が良かったのか、そのうちアギタに当たったのは腹に喰らった一発のみだった。


「なんだ、今のは」

 アギタは撃たれた腹をさする。そこには確かに一発の銃弾が、腹の肉を削り取って奥まで進んだ状態で存在していた。血がどくどくと溢れ出る。痛みはほとんど感じない。少女の云うところの感覚の進化――この場合は突然の痛みによる痛覚のシャットダウン機能が進化しているのだろう。アギタはそう理解することにした。

 しかし、先の事態はアギタにとって完全に予想外だった。


 (まさか、俺には見えないだけで、そこには銃があるのか)


 それならば銃を扱う人間も何処かにいるはずで、その姿がアギタに見えないという事は、それらの存在がアギタには見えなくなっている。つまり『透明人間』になっている、という事だ。

 もしかすると白衣の男も姿を消したわけじゃなく、透明人間になってその場に突っ立っているだけなのかもしれない。それならさっき除けられた瓦礫の下から何も出てこなかったのは彼自身には見えていなかった、ということになる。


 手探りの推測の中、彼はある事に思い当たってしまった。


 今しがた崩れ去った作業場には大量の火薬が保管してあり、天井の落下によってそれらはホコリのように宙を舞っているのだ。中身が剥き出しになった火薬の袋もある。そこに銃弾が突っ込んで何もないわけはない。

 アギタの予想通り、アギタに当たらなかった残りの銃弾が、背後の瓦礫にぶつかり、摩擦によって火花を起こす。


 そして、爆発が巻き起こった。


 爆発が起こった地点はアギタからはほど遠かったので、彼が熱に巻き込まれることは無かったが、巻き起こされた爆風は確実に首元を撫で、その存在を否応なく認識させた。

もし爆発に巻き込まれれば、一瞬で死ぬことはないにしても重傷で動けなくなり中に抵抗することは出来なくなるだろう。戦慄せざるを得ない。

 その時、足元の少女がアギタのズボンをちょんちょん、と突っついた。


「もう一度『爆撃機人ボミングランチャー』を使って」

「そ、それって作業場壊したヤツでいいんだよな!?」

 語調を強くして問うと、少女はゆっくりと頷いた。それを受け、アギタは超能力を再度使う決心をした。能力の規模もよくわからない、効力もわからない。そんな状況ではあるが、この状況を切り抜けるには少女の言う事を聞くしかないと思われた。

 そう思って再度誰もいない正面を向くと、視界の端で白衣の男が一瞬だけ現れたような気がした。

 しかしそんな錯覚かもしれない現象に構っている暇はない。今はさっさとこの状況を打破しなくてはならない。


「喰らえ『爆撃機人ボミングランチャー』!」

 アギタは叫んだ。が、先程と同じく何の変化も起こらない。


脳内にクエスチョンマークが湧いた瞬間だった。空を見上げる、銃を持った軍服の男が視界に突然現れた。更に続いて、周りには今の今まで存在していなかった軍服の男が、空を見上げた状態で次々と現れる。突然の事態の中、アギタは軍服の男達視線の先を追った。


 全ての視線は、俺の頭上高くに注がれていた。




 その先には――爆弾が。



 巨大な爆弾が存在していた。





  次回:パンオプティコン③

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