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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ストリーキング②

 アギタが服屋に入るのとほぼ同刻。

 ハーバー町にて。

 『七騎ボディーズ』であり機械人間サイボーグのビットレイは、今日もアギタと、彼とテテイ村で出会ったハーウェイという青年を追っていた。


 確かに受けた任務は『ピロウの確保』であるが、彼女を動かす理念としては、それ以上に私怨によるところが大きい。

 ストゥープもバンダニ区では途中から地方政府の治安部隊から売られた喧嘩を買っての行動へと変わっていたが、それは中央の組織であるライマインとして、中央へ反抗した地方の人間への報復とみればまだ本来の任務からは逸れていない。


 それに対してビットレイは行動こそ本来の目的とほぼ一致しているものの、理念そのものは全く違う方向を向いている。本来なら任を降ろされても仕方がない。



 それが許されているのは『七騎ボディーズ』内でそれらの事情が収まっていて、上層であるライマインに報告していないからであるが、もしライマインにビットレイの行動理念を報告していたとしても、恐らく見逃されていたであろう。

 そのように考えられるのにはいくつか理由が、大きなところでは二つだ。



 一つ目は『七騎ボディーズ』の強さ。不死の暗殺者である妄神派遣の機能を持つライマインにとって、機械人間サイボーグという第二の不死性を持つ部隊『七騎ボディーズ』は、ライマインにとって優秀な商品である。


 そんな存在たちにはある程度の自由が約束されている。トーチカのような弱者ならともかく、例えばしゃがませただけで一定範囲内の人を殺せる通称『屈服のストゥープ』などは組織からかなり優遇されている。

 それはビットレイも同様であり、本来の存在意義から大きく逸れるようなことがなければ、思想の違いなど些細な問題である。



 二つ目は『謎の失踪事件』と『ピロウ・ブランケット』の関係。数日前にトーチカとレリアンのコンビからの通信が途絶した。何か緊急事態が発生したことは確実だが、それ以外は何もわからない。それから似たような事件が何件も発生している。普通の組織ならば一旦兵を引き戻し、それから対策を立てるのだが、今回は事情が少し違う。

 ライマインが総力をあげて探さなくてはならないほどの少女『ピロウ・ブランケット』が失踪事件の犯人に行方不明にされる、もしくは殺される可能性というのも少なからず存在するのだ。

 ピロウを早急に回収しなくてはならないこの状況で、謎の失踪事件に巻き込まれることを意に介さないほどの意思――ビットレイのもつ復讐の意思を潰すわけにはいかない。その意思は己を顧みず、貪欲にピロウを持つアギタを追い続けるだろう。


 それらの事情をビットレイは完全に理解した上で、それでも復讐することを止めない。


「だからここにいるのですが……」


 ストゥープとジェンツの視覚情報から推測した結果、アギタ達は港に向かうはずで、そのルート上にあるこのニーバー町も通るはずだ。


 そう考えてビットレイはここにいるのだが、それらしい人は見当たらない。砂漠の中央とはまた違う、湿気を帯びた空気を感じながらビットレイは溜息をついた。


 彼女は町についてからまず金髪の少女を探すことにしたのだが、それでもなかなか見当たらない。目立つ髪色を隠すためにローブ等をかぶっているのだろうとビットレイは考えた。

 次にビットレイはバイクらしきものを探した。いくらなんでもバイクそのものを隠すことは出来ず、頑張って布をかぶせる程度であろうと推測された。

 しかし、バイクなどいくらでも置いてあるため全くあてにならない。数秒考えて意味のない行為であることを悟った。


 もしどこかの店の中にいたならば、店を一軒一軒調べねばならない。もし既にこの町を去っていたとしたら、この場での探索行為は全くの意味を成さずただ復讐への道のりを遠のかせるだけだ。

 幾らかの疑念が心の内に産まれる。

 この町は早々に去って港に先回りしておいた方が良いのかもしれない。


 そう思った時。

服屋の前で二人の男が喧嘩しているのが見えた。


 そしてそこにジェンツを殺したハーウェイという男が介入してきたのも――もちろん見えた。

「…………見つけました」

 ビットレイは早足で店の前に向かった。


 機械人間サイボーグの仲間の為。

 ジェンツとストゥープの敵討ちの為。

 ライマインに所属する、ピロウを追う妄神達の為。


「……『双盾王ストリーキング』、発動」














 ハーウェイには政治が分からぬ、というわけではないが、少なくとも激怒はしていた。

 その原因は、町中で、好意を寄せる女性の一致による喧嘩をする男性二人にあった。


 喧嘩の理由は大した問題ではない。ハーウェイは恋愛を経験したことがないので二人に同情は出来なかったが、テテイ村にある資料で知識はあるので完璧に理解不能と言うわけでもない。


 それらの理論と、しかしハーウェイの行動には一切の関連がない。


 ただ『町中で喧嘩をして周りの人間に恐怖をふり撒いているはず』という推測のみで、ハーウェイは店内から喧嘩を見るやいなや店を飛び出して二人の間に割って入ったのだ。そしてその目的を果たすだけの強さは、彼の屈強な肉体に充分宿っており、その力を『三重破拳フィストフィート』の存在が更に高めていた。


 いわば彼は一般人相手なら『無敵』。男の十人や二十人は数の内に入らないのだ。


 そういった実力は見た目からも充分読み取れ、喧嘩をしていた二人の男も自然と殴り合いを中断した。

 抵抗する気がないことは火を見るより明らかだった。

 しかし。


「双方とも、歯をくいしばるがいい」


 言うとハーウェイは男の一人を頭突いた。強いショックで男はその場で頭をフラフラと揺らして始める。更に逃げようとするもう片方の男の頭を残っている左腕で掴み、頭突かれた男にぶつけた。

 二人の男はその場に倒れる。それを見下ろし、


「これで解決だ」

 自己満足した。


 周りの反応はとても冷やかだったが、それを引き起こした本人であるハーウェイはそれに全く気付いていない。彼としては村で行ってきた正義をそのまま行っただけなのだが、場所が変わればルールも変わる。特に強い慣習に倣ってきたテテイ村しか知らないハーウェイには、知識でしか知らない『外の規則』はとてもではないが慣れないものだった。ましてや周りに迷惑をかける男がいるこの状況だ。周りを守るための行動に迷いはなく、またそれを行うのに周りは全く見えていなかった。


 数秒経ってから、やっと周りの反応に気付いたハーウェイは、少しばつが悪そうにしながら店内に眼をやった。騒ぎを聞きつけたアギタが紙袋を手に店内から出てきた。


「おい、どうしたハーウェイ」

「ああ。少し揉め事がな」

 そう言ってこめかみを掻いたその時だった。


 一人の女性が二人に近づいてきた。質のいいローブを纏っていて、突き刺すような眼力と短い短髪が特徴的だ。


 無言のまま、一歩ずつ一歩ずつ。

 そして互いの距離が十メートルに迫った瞬間。


 女性は瞬間的に加速し、一瞬でアギタの目の前に移動した。


「なッ――!?」

「仇、取らせていただきます」


 女性は手のひらから刃を召喚し、アギタの首元を突き刺そうとする。

「させるものか!」

 ハーウェイが女性を襟首を掴み、背負い投げをする。勢いよく地面に叩きつけられた女性は、しかし痛みを感じている様子はなくすぐにハーウェイの足を切らんとする。しかしハーウェイはそのまま女性の腹を殴り、『三重フィスト破拳フィート』を発動させて刃を止める。

「ふん。急襲失敗だな」

「そうでしょうか」


 瞬間、女性の身体が宙に浮いた。


 ふわりと、倒れた姿勢から半円を描いてハーウェイらから離れるように移動した女性は、ローブを掃ってその下を露わにする。


 厚めのグローブやパーカーで、肌がほとんど見えていない。それは砂漠では当然で、むしろパーカーは不適とさえ言える。

が、そのようなことはハーウェイにとっては至極どうでもよかった。


 半円を描くような女性の動きも気になったが、それ以上に自分の拳をくらって平然としていることが不思議に思えた。


 (この女、まさか)


 ハーウェイは拳に残る感覚を思い出す。


 ローブの先にある、衣服の先にある、素肌の先にある――――鋼鉄の感触。

 ジェンツと拳を交えた時に似た感覚だった。


「まさか貴様……機械人間サイボーグか?」


 女性はハーウェイの問いに答えず、両手から刃を出してハーウェイを睨みつけた。


「貴方がジェンツと互角に渡り合った男ですね。映像で見ました」


 伸ばされた刃の先端が地面に接触する。


「私はライマイン直属機械部隊『七騎ボディーズ』が一人、絶壁のビットレイ。使命ではなく復讐の為に、貴方がたを惨殺します」




  次回:ストリーキング③

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