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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ビフォアバーナーとフィストフィート④

「お前らァ! 特にそこの少年! 『七騎ボディーズ』が一人、逆噴のジェンツがストゥープの仇を取らせてもらう!」

 名乗ったジェット人間――ジェンツはジェットエンジンをしまい、落下して地面に足をつける。


「『七騎ボディーズ』ってことは、ストゥープと同じ機械人間サイボーグか?」

 背後のアギタが訊くと、ジェンツは頭に血管を浮かせた。


 明らかに激怒している。


「ああそうだァ! 同じ機械人間サイボーグ、同じ『七騎ボディーズ』としててめえを殺す!」

 ハーウェイらとの距離、五メートル。通常ならこの間合いは『相手の動きを見てから対応できる』長さだ。銃器を用いない直接戦闘なら尚更だ。

 しかし『七騎ボディーズ』の場合は違う。ストゥープのような瞬間推進装置が標準装備されている可能性が高い。その上、彼女とは違い銃器を仕込んでいる可能性は否定できない。


 しかしハーウェイは怯まない。

「――お前は、アギタを殺すつもりなのか。もしそうなら、守らねばならない」

「誰だァてめえ。邪魔するんじゃねえぞォ!」


 ジェンツは足の推進装置でハーウェイに接近する。対するハーウェイも相手に向かって走り出す。


 瞬きするまもなく互いの距離は一メートルを切り。



「死に晒せェ!」

「『三重破拳フィストフィート』ッ!」



 二人ともが同時に拳をふるった。


 拳と拳が真正面からぶつかり合う。

 空間が弾けるような音と全てを圧しのける風が同時に発生した。


 金属と生身がぶつかり合ったのだ。馬力がどうとかの話ではなく、反作用によって生身の方は無事では済まされない。


 だが、壊れたのはジェンツの腕の方だった。


 人工皮膚が破れて機械の腕が露出する。

 ジェンツはもちろん、後ろで見ているアギタも驚きを隠せない。今この場で起きた現象を、ハーウェイのみが本能で理解していた。アギタが『爆撃機人ボミングランチャー』の使用法を直感したように、自身の内に目覚めた力を使役したのだ。


「なにを……しやがったァ」

「アギタ、バイクで逃げろ。こいつは俺が止める」

 ハーウェイは不敵に笑い、殴った手でジェンツの手首を掴む。


「さあ、守らせろ。俺の欲を満たさせろ」

「――――邪魔なんだよ、デカブツがァ!」


 自身の手首を掴む腕の手首を握り返し、ジェンツは怒りに満ちた笑みを見せる。


「お前ェ、もしかして妄神かァ?」

「妄神とは何か」

「知らねえなら……『火炎枢ビフォアバーナー』ァ!」

 言うと、ジェンツの腹からジェットエンジンがとび出した。

「死ねよォ、オイ」

 ジェットエンジンは甲高い音をあげ始め、何かが回転する音も鳴らし始めた。ハーウェイはそれが先程まで飛行用として使われていた事を思い出し、咄嗟に身を引こうとする。が、ジェンツの怪力から逃れられず、ただ自身の腕を伸ばすだけだった。


「ならばこうだ」

 ハーウェイは再度ジェンツと正面から向き合い、掴まれていない方の腕を前に伸ばす。


「それがなんだってんだァ! 死ねェ!」

 轟音と共にジェットエンジンが火を噴き、膨大な熱が彼の全身をおおった。。

「ハ、ハーウェイ!」


 ジェットエンジンの爆音の中で、アギタの声が微かに聞こえる。自分の耳に異常がなければ、アギタは自分を心配している。

(安心しろ、俺は生きている)

(それが『三重破拳フィストフィート』だからな)


 ハーウェイは灼熱の中で笑みを浮かべた。

 髪の一本も燃えない肉体で。


「なんでだよ、なんでなんだよおおおおォ!」


 強い焦燥を持った声でジェンツが叫ぶ。

 だがそれも無理はない。

 灼熱暴熱を生身に浴びせているというのに、肉体どころか服さえも焼く事が出来ていないのだ。文字通り異常事態だ。


「なんで、なんで、なんで死なねえんだよォ、なんで焼けねえんだよおおおおおォ!」

「俺は死にに来たのではない。守りに来たのだ」


 気力が切れたのか、ジェンツは『火炎枢ビフォアバーナー』を一旦解除した。今の今までハーウェイを襲っていた火炎が消える。


「どうした、殺すのではなかったか」

「やっぱり妄神かァ、てめえ」

 お互い腕を掴みながら睨み合う。その状況に納得しないのか、ジェンツは手首を掴む拳に力を込める。万力で締め付けられるような痛みに、ハーウェイは歯を食いしばって耐える。その様を見て、ジェンツは意外そうな顔をした。てっきり今の攻撃は効かないと思っていたようだ。


 十秒近い沈黙。


ジェンツは何かを思いついたのか、先ほどのハーウェイと同じ不敵な笑みを浮かべる。


「キィハハハ。『三重破拳フィストフィート』だっけかァ? 何となくだがよォ……わかってきたぞ、オイィ」

 手首のしめつけが強くなる。鋼鉄の拳と互角以上に渡りあい、火炎を圧しのけた腕に痛みが走る。


 ジェンツは肺の空気をすべて吐き出すと、空いている掌から刃を出した。そしてハーウェイの腹を突こうとするが、当然のごとくハーウェイは空いた掌からで刃を受け止める。


いや、当然だろうか。

例のごとく掌には傷ひとつついていない。

が、ジェンツが突き立てた刃を下に下ろすように切ると、今度はハーウェイの掌に縦に切り傷が走った。


 ハーウェイに汗が伝う。

「やっぱりよォ、こうされると困るんだよなァ? てめえの能力だとよォ」


 キィハハハ、とジェンツは笑う。


「細かいことは知らねぇが、拳の真っ正面からの攻撃を受けている間はダメージをくらわないんだよなァ? 攻撃方向の概念か、それともベクトルなのか。そこら辺は分からねぇが、手首を『しめつけ』たり拳から腕にかけての方向以外への攻撃は効くみたいだなァ」

「………………」


 ハーウェイは答えなかったが、それは相手に余計な情報を与えないための対応で、ジェンツの推測には充分動揺していた。


 『三重破拳フィストフィート』。

 敵の攻撃ベクトル方向一メートル以内に自分の腕が三十センチ以上入っていた場合、肉体にかかる外部からの負荷をゼロにする能力であると、ハーウェイは自覚している。

 簡単に言ってしまえば、敵の攻撃に対し、腕をまっすぐ伸ばして真っ正面からぶつかれば、攻撃のダメージをなくせるのだ。

 ジェンツの拳の攻撃方向にも、火炎の攻撃方向にもハーウェイの腕はあった。ゆえに傷を負わなかった。そして手首のしめつけやナイフの振り下ろしは防げなかった。真っ正面からではなく縦方向の攻撃なので、攻撃方向に腕が数センチしかなかったからである。

 相手の攻撃に、いかに自分の腕を真っ正面からぶつけるか。それがハーウェイの勝敗を喫する。

 そして打開策を見つけられてしまった。

 だがジェンツの攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 ジェンツはモモを上げると、脛から銃口を出した。

「てめえは腕で防御できなければ、ただのちょっと丈夫な人間だ。銃器で充分殺せる」

 ジェンツが言い終わると、何かがセットされるような機械音が、銃口のあたりから鳴る。


 そして大量の弾丸が撃ち放たれた。


 (――速い!)

「『三重破拳フィストフィート』!」


 銃弾を避けることをあきらめたハーウェイは、自分の拳で、捕まれた自身の腕を殴った。


 銃弾がハーウェイの腹に直撃し、鈍い音を出す。しかし血は流れない。


「なるほどなァ、そういう使い方もあるのかァ」

 銃口から煙を吐かせながらジェンツは感心している。


 『三重破拳フィストフィート』は、発動条件が揃ったとき『肉体にかかる負荷』を打ち消す能力。それはつまり発動の引き金となった攻撃以外の負荷も消せると言うことだ。ハーウェイはそれを利用して、わざと自分の腕で自分を殴り、『反作用』という負荷を与え『三重破拳フィストフィート』を発動させることによって、その瞬間にかかっていた他の負荷=銃弾のダメージを消したのだ。

 それを反射レベルで判断できたのは、正に奇跡と言えるだろう。


「それじゃあどれだけ攻撃しても無意味だなァ。反応速度も常人の比じゃねえ。なら、これはどうするよォ!」

 ジェンツは再度『火炎枢ビフォアバーナー』を使い腹からジェットエンジンを出す。と同時に掴んだ腕を引き、ハーウェイを引き寄せる。


 ジェットエンジンとハーウェイが密着する。


(超至近か)

(だが『三重破拳フィストフィート』で対応できる)


 ジェットエンジンが高音を発し始めるのを聞き、ハーウェイはジェットエンジンを殴ろうとする。どうやら『三重破拳フィストフィート』は刺激一回でコンマ五秒ほど発動するらしい。先ほどの銃弾でそれを知れた。一度攻撃を耐えてしまえば、あとはジェットの火炎に腕を乗せればいい。


 しかしすぐさまジェットエンジンはひっこみ、ハーウェイは空ぶってしまった。


「ざまァ見やがれ。そして死ね」

 ジェンツは手から出したナイフを伸ばし、三十センチの等身を顕わにさせる。そして隙の出来たハーウェイの正中線を、下から上に斬り付ける。


 動物並みの反射神経でハーウェイは刃から逃げようとするが、それでも避けきれず――――




 空いている左腕を肩から切り落とされた。




「くっ……!」

 悲鳴こそ挙げなかったものの、断面から溢れ出る血には流石のハーウェイも動揺を隠せない。それと対照的にジェンツは歯を見せて笑った。

「キィッハハハハハァ! 血まみれだな、生身だなァ! さあこのまま死ね死ね死ね死――」

「ちょっと待ったぁ!」

 どこからともなくアギタの声がした。



 と同時にバイクが高笑うジェンツを真横から轢いた。



 機械人間サイボーグの横顔に高速回転するタイヤが直撃する。突然の衝撃にジェンツの身体が吹き飛ぶ。が、それでも機械の腕はハーウェイの腕を放さず、逆に腕を思いっきり捻ったのでハーウェイの腕は肘から千切れ、ジェンツに持っていかれてしまった。

「ぐぅ……う……」

「大丈夫……なわけないよな。とにかく逃げるぞハーウェイ!」

 汗だくのハーウェイにアギタが手を差し伸べる。だがそれを無視してハーウェイは立ち上がり、吹き飛んだジェンツの方を向く。

「逃げる? ふざけているのか。俺は逃げるためにここにいるわけじゃない。守る為にいるんだ。ここで倒せなきゃあ守りきれない」

「もう俺の事はいいんだよ! 何の事情も知らないのに、どうしてそんなに守る気になれるんだよ!」

「――――なんでだろうな。俺とお前は、よく似ている気がする」

「似ている?」

 ハーウェイは汗だくで顔色も悪い。歯を食いしばって痛みに耐える表情は見ている側が耐えられない。病院行きどころの話ではない。今すぐ死んでもおかしくない程だ。しかしそれでも、彼の目には闘志が疼いていた。

「なんとなくだが、俺はお前らを守りたくなった。それが俺の本能で、使命なのだからな」

「使命……」

「さぁ退け。俺は敵を倒す。ただそれだけだ」

 一歩一歩足を引き摺って前進する。勝算ゼロの戦いに、少しずつ近づいていく。

「……なぁ、ハーウェイ」

「なんだ? 逃げるなら今だろう」

「アイツの撃退、俺にも協力させてくれ」



 アギタは柱の根元で待機するピロウを呼んで、切られた左腕を修復させた。

「あのジェンツとかいう奴は機械人間サイボーグだ。銃弾ぐらいはものともしない。だが、俺は頭上に爆弾を召還する能力を持っている。それを直撃させられれば、なんとかな」


 だが、とアギタは一旦言葉を区切る。


「俺は何度もアイツの所属組織と闘ってきたからな。情報が知られているとも限らない。もしそうなら、俺単体では爆弾を当てることはほぼ不可能だ。それに村に被害を出すわけにはいかない。奴を倒すのは空中という事になる。もしくはお前の能力だけで倒すかだ」」

「ならどうする? 俺一人では奴は倒せん」

「協力プレイだ。お前が合図をしたら腕を前に伸ばすんだ。あとは脅威に対して拳をふるい続けてほしい」

「……何か思いついているようだな」

「細かい説明が出来ればいいんだけどな。残念ながら、もう時間がない」


 アギタの言うとおり、吹き飛ばされたジェンツは立ち上がろうとしていた。

 ぼやぼやしている時間はない。

 行動は迅速に。



「それでは行ってくる」



 一言残してハーウェイはジェンツの下へと走り出した。





  次回:ビフォアバーナーとフィストフィート⑤

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