3日目:午前
2012/04/05 08:21 大槻 笑美
お母さんが気の毒そうな顔で、玄関から出てきた。
「昨日は何だか大変な目に遭ったそうね。 でも、元気そうで良かったわ」
早紀さんが学校に連絡してくれたおかげで、今日だけ私服で登校だ。
それよりシロ! 今日はちゃんと着けてるでしょうね!
犬山くん、ちゃんと話したか不安だなあ。
餌は綺麗に無くなってたけど、朝からどこかに行っちゃっていないし。
あ、わたし(女)が出てきた。
「お早うございますわ、犬山さん」
「お、お早う…ございます」
え、何で普通に話してるの?
わたし、いやシロってば天才?
うーん、制服は着てるけど下着は良く分からないなあ。
『シロ、あんた下に着けてるでしょうね? 』
シロが頷いた。
「勿論ですわ、今日は薄緑色の水玉模様ですことよ」
「それは言わんで良いの! 」
あ、お母さんが怪しんでる。
それに何なのよ、この言葉遣いは?
どこで覚えたんだろう?
2012/04/05 08:32 大槻 笑美
「ねえ、誰に言葉を習ったの? 犬山くん? 」
わたし(女)が否定する。
だとすると、一体誰が?
シロが鞄からDVDを取り出した。
何これ? …愛と欲望のミシュランガイド?
あああ、ハムちゃんか! そういえば面白いからって貸してくれたんだっけ。
昨日の勉強って、これを見てたのね。
ちょっと見たけど料理ばっかり出るドラマ…それか。
うーん、シロは食べるの好きだからなあ。
気をつけないと太るんだからね!
2012/04/05 08:41 大槻 笑美
教室に入った途端、みんなが急に静かになる。
何だろう? この雰囲気。
「公子さん、このDVD返すよ…大槻さんから」
あれっ? ハムちゃんまで黙ったまま受け取ってる。
「…ちょっといいかい? 」
ハムちゃんが廊下へわたし(男)を引っ張って連れ出す。
「あんた、家爆破されたって本当? その組ってヤバ過ぎじゃん」
それが、わたしにも良く分からないんだよね。
そういえば昨日、佐久間先生もわたしを襲って来たし理由が全然分かんない。
「警察に全部話して、保護して貰ったほうがいいんじゃないかな。
勿論、あたしに話してからだけど」
「実は昨日、警察に話したけど信じて貰えなかったの…さ」
「それって、どう… 」
突然、頭を思いっきり何かで叩かれた!
味噌カツこと小野勝子先生が、鉄製定規を竹刀みたいに振ってる。
どんだけ全力なのよ!
「犬山、良かったな。 痛いってのは生きてる証拠だ。 HR始めるから席に着け」
2012/04/05 11:44 大槻 笑美
あああ、もう高校生活は終わったわ。
まさか味噌カツが担任になるなんて!
全校集会の後に即テストの続きとか、正に悪魔ね。
そうだ! 珠輝ちゃんに昨日のこと聞かないと!
テスト用紙を揃えてた味噌カツがこっちを向く。 こっち見るな!
「犬山と大槻、ちょっと職員室に来い」
え? えええ! まだお昼も食べてないのに!
2012/04/05 11:53 大槻 笑美
味噌カツが引き出しから紙を取り出した。
あ、わたしの世界史のテストだ。
「お前はバカだが、これだけはやらない奴だと思ってたのに残念だ。
何か言いたい事はあるか」
「さっぱり何の事やら…? 」
「ほう、ではこれは? 」
数学と古文だ。
「それが何か? 」
やばい、味噌カツが揚がってきた。
「お前、どうやって大槻と答案を交換した? 」
「それは、どういう意味ですか? 」
バーン!
机の上から書類が落ちる。
「しらばっくれんじゃ無いよ! この字、お前んじゃねえだろ!
大槻のは意味わかんねえし! 」
あっ! そうか、筆跡が違うんだ!
チラっとシロの書いた解答が見えた。
裏に変な落書きがしてある…。
うわぁ、どうしよう。
「簡単です、小野先生」
へ? うわっ、いつから居たのよ珠輝ちゃん!
「大槻さんと犬山くんは、お互いの名前を入れ替えて記入したんです」
「四方印、何故そんな事を知ってる? 」
「だって犬山くん、そうでもしないと留年しそうですから。
許される事では無いですけどね」
答案を睨んでいた味噌カツが顔を上げた。
「何にしても不正は不正だ。 二人とも追試だからな! 」
珠輝ちゃんが極上の愛想笑いを見せる。
目が笑ってないって、この表情なのね。
「犬山くん、行きましょう」
2012/04/05 12:17 大槻 笑美
「助かったああ…ありがと珠輝ちゃん」
シロとわたしは、また屋上でお弁当を食べてる。
スプーンが付けてあったから、シロも一人で出来るみたい。
「大した事ないわ。 それより、ご家族は大丈夫だったの? 」
「ええ、早紀さんは朝から元気一杯よ」
「良かった…本当に飛猿くんは過激過ぎるから… 」
「え? 犯人知ってるの! 」
珠輝ちゃんが口を押さえる。
「天使って何なの! 何で小学生が爆弾… 」
バーン!
「探したぜえ、犬山くぅーん? おやおやおや、二股とは許せんですなあ」
うげっ、こんな時に和田先輩…は今日いないのか。
子分四人が急に笑い始める。
「お前ん家、さら地になっちまったらしいじゃん! 天罰だ天罰ゥ! 」
「神様っているんだなあ、ホント! サイコーの気分だぜ! 」
何なの、こいつら。 そんなに人の不幸が楽しいのかしら。
「そんでさ、不幸なとこ悪いんだけど治療費くれよ」
「は? 何の話ですか? 」
「とぼけんな、お前の女がつけた傷だよ。 もう一生残っちまうとさ。
まあ、その女にも一生消えな…痛ってエ! 」
え? ギャーッ! シロって何で噛み付くの!
「シロ! 止めなさい! 」
わたし(女)が離れざま呟いた。
「…ちょっと変わった味ですね」
噛まれた男子が真っ青になる。
彼には少しだけ同情するかも。
「おま、お前、女の教育がなってねえぞ! もう金だけじゃ済まねえからな! 」
げげげっ、どうしよう。
先生を呼ぼうか?
「天罰なんて軽々しく言わない方がいいわよ」
それまで黙っていた珠輝ちゃんが重々しく宣告した…ように見えた。
「んだと、四方印? 少しばっか頭と顔が良いからって偉ぶってんじゃねえよ! 」
「昨日の犯人、捕まってないでしょう? まだこの辺りにいるかもね」
怖っ! 真相を知ってるだけに余計怖い!
四人の表情を見るだけで十分、振り返れない!
「お、おい。 もう行こうぜ… 」
わ、わたしも連れてって!
立ち去ろうとした彼らに、更に追い討ちをかける。
「そうそう。 和田先輩に今日は行かない方が良いって伝えてね」
それを聞いた彼らは、我先に逃げ出した。
その呪文は何でしょうか!
妖怪じゃなくて魔女?
** 続きます **




