2日目:午前
2012/04/04 07:11 大槻 笑美
「オラッ! ケーン、起きろっ! 」
早紀さんの声で体が飛び起きる。
犬山くんの習慣だろうか、肘打ちが飛んでくる前に
迎撃体制を取っていた。
「おお、今朝は良い反応だな。 なかなかやるじゃねえか」
うう、犬山くんって虐待されてたのね。
後で慰めてあげよう。
あの二人、上手くやってるかな。
2012/04/04 08:15 大槻 笑美&犬山 剣豪
『やれやれ、酷い目に遭ったぜ』
家の前でシロ(犬山くん)が愚痴ってる。
『お前が風呂風呂うるさいから、あれから一緒に入ったんだ。
そしたら俺を抱えたまま、湯船に飛び込みやがった!
危うく溺れるとこだったぜ、ったく』
「ありがとう、お風呂には入れたのね。 ああ、良かった」
『いちいち脱ぎ方まで教えるとか、大変だったんだぜ』
「そうなのよね。 シロってば服が何だか分かってないし…あれ?
一緒に入った? 見たの! 」
シロが首をぶんぶんと横に振る。
『見えるわけねェだろ! 抱えられてたし、お前の貧相な体なんか
見てもしゃあねェだろうが! 』
『…見たのね… 』
『何で頭ん中から伝えてんだよ! 』
『…見たんだ… 』
キャン、キャン!
『だ、誰か鎖を外してくれェ! 』
2012/04/04 08:43 大槻 笑美
ふん、だ。
犬山くんなんか、一日繋がれて反省すれば良いんだわ。
でも、お母さんが妙に乗り気になったのは助かったかも。
お父さんも説得してくれたみたいだしね。
さてと、どうやって四方印さんと話そうかなあ。
テストは今日までだし、何とか手がかりが掴めないと困るんだよね。
でも、昨日の様子じゃ多分嫌われてるだろうし、どうしよう。
わたし(女)が突然、後ろを振り向いた。
「おお、何で分かったん? エスパー? 」
大田公子ちゃんが振り上げた右手を下ろした。
「おっはよん、おツキ。 今日も仲睦まじくて羨ましい限りですなあ」
「違うよ、ハムちゃん! その、ちょっと頼まれてるんだ」
「頼まれた? 何かあったん? 」
「ええっと、彼女は足を怪我してるんだ。 その付き添いだよ」
ハムちゃんが首を傾げる。
「犬山って本町だよね? おツキの常盤町と反対じゃん」
「そ、それは、僕が怪我させたんだ。 だから、そのお詫びに… 」
「あんた、また何かやったの? 狂犬とか言われて調子に乗ってるからさ。
そろそろヤンチャは卒業しなよ」
昨日も言われたなあ、それ。
もしかして、犬山くんって不良なの?
「あんたも二年なんだから、そろそろ進路考えないと。
ま、あんたの頭じゃ留年か就職しか無いけどね」
ええ! そんなに悪いの?
でも、それほど頭悪そうには思えなかったけどなあ。
これはテスト頑張って評価上げとかないと!
2012/04/04 08:32 犬山 剣豪
あんにゃろ、鎖外さずに行っちまいやがった。
まな板見られたくらいで怒るなっつーの。
しゃあねェ、自分で外すか。
犬の前足じゃ不便だが、何とかするしかねェ。
右の爪先で引っ掛けて、左で押し上げれば…。
2012/04/04 08:57 犬山 剣豪
…疲れた。
留め具が見えないんじゃ、どうしようもねェ。
いや、見えても激ムズだぞこりゃ。
つくづく不便に出来てるな、犬の体って奴は。
親指が無いってのが特に厳しいぜ。
まてよ? 何で犬とか猫と話せるのに人間とは
笑美しか話せないんだ?
もしかして出来るんじゃないか?
マンガだとガキとなら話せるとかあるよな。
奴らに外してもらおう。
2012/04/04 09:41 犬山 剣豪
全っ然来ねェ。
誰でも良いから早く来い!
2012/04/04 10:05 犬山 剣豪
『来た! そこの坊主、こっち来い! 』
ワン! ワンワン!
『おい! 逃げるな! 何で逃げるんだよ! 』
あーあ、泣いてやがる。
男のくせに弱っちい奴だ。
2012/04/04 10:22 犬山 剣豪
お、女の子が来た。
今度は失敗しねえぞ。
「あー、わんわんだあ。 しろいわんわん」
『よしよし、良い子だからこっちこい』
ギューッ。
『痛ってェえ! 耳引っ張んじゃねェよ! 』
ガルルッ! ワン!
「うわーん! わんわんおこったあ! 」
また行っちまった…ダメだこりゃ。
2012/04/04 11:44 大槻 笑美
よし、世界史の出来は完璧ね。
でもまあ、授業で答えも聞いてるし当たり前だけど。
そういえば、シロはどうしてるのかな。
やっぱり寝てるし!
あああ、もう追試確定だわ。
そもそも字とか書けるのかな。
『シロ、ご飯行くよ』
わたし(女)が飛び起きる。
嬉しそうな顔しちゃって、お気楽でいいね君は。
「おツキ、一緒に食べよ。 犬山はあっち行け! 」
ハムちゃんが弁当箱を持ってない手で、追い払う手振りをしてる。
うう、そんな嫌わなくても…。
あれ? そういえば、ハムちゃんしかクラスの誰もわたし(男)に話しかけないよね。
もしかして、犬山くんって嫌われ者?
2012/04/04 11:45 犬山 剣豪
腹減ったって吠えてんのにババアめ、ドッグフードなんか置いてきやがって。
こんなもん食えるか!
だけど、昨日の弁当はやたら塩辛かったな。
舌まで敏感になってんだろうか?
どうせ犬の体だし、試しに食ってみるか。
ポリポリ…ガツガツ。
うめえ! ドッグフードって、こんなに美味えのか!
絶妙な塩加減と、ほのかに香る牛肉と何かの肉のハーモニー。
こりゃ、まっしぐらになるわけだぜ。
…あー、食った食った。
けど、何もする事が無いってな辛いもんだな。
全国の犬に同情するわ。
元に戻ったら、ぜってェ犬は放し飼いだ。
しっかし、春のせいか何だか眠くなってきたな。
…もう、このまま犬でもいいんじゃねえか?
面倒くせえ学校やらバイトに行かなくてもいいし
毎日食って寝て散歩するだけの気楽な生活だからな。
俺の体の笑美に働かせて、俺は寝て過ごすか。
ドスッ。
「おい」
「痛ってェ! 誰だ! 」
俺の腹の上に、昨日の三毛猫が乗っていた。
「お前、考えがダダ漏れだぞ。 オスのくせにタダ飯食わせて貰おうとは了見が狭すぎるわ」
「お、俺はメスだろ! 」
三毛猫が身軽に飛び降りる。
「ふむ、確かにな。 いずれ心も犬になるだろうし、それも選択のひとつか」
「はあ? 俺が犬になる? 何だそれ」
「お前、なぜ混じりが珍しいか知らんのか。
混じりは数少ないが、かといって存在しないわけではない」
三毛猫が水入れの水を何回か舐めた。
「混じりはいずれ混じりでは無くなるのだ。
お前はオスに尻尾を振るようになるわけだな」
「…何だそれ、冗談じゃねェ! 俺がカマ掘られるってのか! 」
「言ってる意味が分からんが、そのままで良いなら寝て過ごすんだな。
まあ礼には及ばん。 また馳走してくれ」
そう言って歩き去った。
やべェ、これ貞操の危機じゃねェか!
** 続きます **




