1日目:夜中
2012/04/03 20:10 大槻 笑美
家に戻ったあと、わたし(男女)をお母さんが睨んでいる。
「貴方の親御さんに連絡しました。
もうすぐ、こちらへ来るそうです」
「何で? 目の前にお母…何でも無いです」
携帯の履歴にあった連絡先、今朝の女の人かな。
若かったから、年の離れたお姉さんかも。
「貴方、笑美に一体何をしたの?
お医者様も体に異常は無いけど、精神的に不安定だとか仰るし。
こうなったら、洗いざらい白状して貰いますよ! 」
お母さん、刑事ドラマの見過ぎよ。
でも、困ったなあ。
正直に話しても、犬と話せるなんて絶対に信じて貰えないよね。
シロのわたし(女)は、隣で座ったまま静かにしてる。
でも、検査や採血で騒がなくて良かったわ。
犬の予防接種でも大人しいもんね。
もう少し、上手く話せると良いんだけど贅沢な注文だよね。
ピンポーン。
「あら、早かったわね。 ちょっと待ってなさい」
あっ! 犬山くんから犬山くんの事、何も聞いてない!
どうしよう、絶対に誤魔化せない!
2012/04/03 20:17 犬山 剣豪
「間違いなく、この交差点だ。 何かあるか? 」
黒猫と三毛猫が何かを探すように見回している。
「つまり{狭間}ってのは、何かの穴なんだよな」
片目の黒猫が空気を嗅いで、鼻と髭をヒクヒクさせた。
「そうじゃ。 赤まだらの長老から聞いたのじゃが
奴は一度、毒を食らって死んだそうな。
じゃが、気がつくと若返っていたそうじゃ」
そういえば猫たちは鳴いてないのに、どうして俺はこいつらの会話が分かるんだ?
「奴は苦しんで無我夢中で転げるうちに、穴に落ちたと言うておった。
おそらくそこが狭間であったのだろう」
三毛猫が振り返る。
「だけど爺さん、赤まだらは随分前に死んだじゃないか。
それにオレたちメスの間では、乱暴者で評判悪かったぜ」
黒猫が俺を見つめる。
「この混じりも乱暴者でどうしようもない奴なんじゃろう」
「見て来たみたいに言うな! 」
やっぱり俺は死んだのか?
だが、犬にされるほど悪いことしたか?
「結局、狭間ってなんだ? 異次元にでも通じてるのか? 」
「さてな。 人間が言うところの地獄じゃろうて。
生きる苦労を繰り返すのじゃからな」
へえ、猫は生き返れて嬉しいとは思わねェんだな。
「それで、狭間を見つけたらどうすんだ? 」
「そうさな。 お前さん死んでみるか」
「何で俺が! 死ぬなら爺さんからだろ! 」
黒猫が身軽に手摺りから飛び降りた。
「地獄にゆくなんざ真っ平ごめんじゃ。
そもそも、お前が混じりなのじゃからな」
言ってる事はもっともだが、何だかムカつく。
しかし、交差点のど真ん中だ。
穴なんてあるはずが無い。
全く、どうなってんだ?
2012/04/03 20:20 大槻 笑美
玄関から声がする。
「まあ~宅の剣豪がお世話になりまして。
これ、つまらない物ですがどうぞ~ 」
…誰? この声、朝の人だよね?
お母さんと、スーツ姿の綺麗な女の人が入ってきた。
って、えええ! 変わり過ぎでしょ!
朝はTシャツにジーンズだったのに!
そのまま、わたしの横を通る。
グサッ! グハッ!
な…手、抜き手…鳩尾…。
「あらあら、泣くほど反省しているみたいですし、後日改めて
お伺いさせていただいても宜しいでしょうか?
今晩たっぷり教育しておきますから」
お、お母ああああさああああん!
死ぬ! 絶対、この人に殺される!
痛みで声が出ない!
あ、お母さんが何かを察した。
「その、お宅様の息子さんも反省されているようですし
あまり厳しくされなくても、学生の分別を持っていただければ、ねえ」
今、この人舌打ちしたでしょ!
どういう意味なの? ねえ?
「…そう仰っていただけるなら、今回はこれで許していただけますか。
今後は近づかないよう、きつく言って聞かせますから」
あ、なんかお母さんのスイッチが入った。
「何ですの? まるで私どもの娘では、お宅様と釣り合いが取れないとでも? 」
また舌打ちした!
「そのようなつもりではありませんことよ。
お宅様のご迷惑にならないよう、金輪際関らないだけの事ですわ」
あああ、視線の火花が見えるって今がそうなのね…。
ん? 何かが圧し掛かってきた。
シロったら、寝てる場合じゃないわよ!
緊張感が無いのよ、あんたは! わたしか!
まだ、お風呂にも入ってないのに…お風呂?
「あーっ! 」
お母さんたちが、突然声を上げたわたし(男)に驚く。
でもでも、それどころじゃ無いのよ!
シロってば、お風呂が大嫌いじゃないの!
誰が洗うのよ誰が!
嫌よ、汚ギャルなんて言われるの!
だからって、わたし(男)と入れるわけがないし
お母さんに頼むしか…いやいや、そんなのダメ。
絶対暴れるに決まってるもの。
残るは、お父さん…終わったわ…。
2012/04/03 21:02 大槻 笑美
犬山くんのお母さん、早紀さんがブツブツ呟いてる。
お母さんの悪口を言ってるんだけど、疲れて怒る気になれない。
シロってば、お風呂入ったのかなあ。
あれもこれも全部、犬山くんが勝手だから悪いのよ!
犬山くんからシロに人間の常識を伝えれば良いだけだもん。
ああ、お腹空いたなあ。
そういえば、犬山くんもシロも昼から何も食べてないよね。
大丈夫なのかな。
と、噂をすれば白い犬が歩道に座ってる。
今度こそお説教しないと!
ん? んん?
ああ~ん、可愛い!
隣に三毛猫と黒猫がちょこんと座ってる!
さ、触っていいのかな?
でも、あの隊列な座り方は不自然だよね。
ワンワン!
ニャーミャー。
ウーニャー。
やっぱり! しかもウルサイ!
『食わせろ! 何か食わせろ! 』
「あー、もう! 分かったわよ! 」
早紀さんが振り向いた。
「わよ? ケン、お前やっぱり変だぞ。 明日、病院行くか? 」
「だ、大丈夫だよ。 母さん、先行ってて」
「母さん…? 」
早紀さんが首を傾げながら歩き去る。
わたしは軽くため息をついた。
「コンビニで何か買ってあげるから、ね?
それで、その猫ちゃんたちは何なの? 」
2012/04/03 21:44 大槻 笑美&犬山 剣豪
凄い勢いで犬山くんと猫ちゃんたちが食べている。
今はコンビニでもキャットフードあるんだね。
さすがにシロ(犬山くん)は、お弁当にしたけど
犬に人間の食べ物って、塩分が強すぎるはずだよね?
「それで、何か分かったの? 」
食べ終わった頃を見計らって、犬山くんに聞いてみた。
『どうやら俺たちは死んでるらしい』
「へえ…えええええ! 何で! じゃあ、わたし幽霊なの! 」
『落ち着けよ。 正しくは一度死んでる、だな』
「えとえと、じゃあ死んで魂が入れ替わったの? 」
『そんなとこだ。 問題はもう一度死ねば元に戻るかどうかが
分かんねェとこだな』
「どうして? 」
『普通に考えれば死にっぱなしで終了、だろうな。
原因を突き止めないと、単に自殺することになっちまう』
「うーん、そうだね。 やっぱり四方印さんかな」
『きっとそうだ。 明日こそ尻尾を掴んでやる!
…何でお前が掴むんだよ』
わたしはシロ(犬山くん)の白い尻尾を握り締めた。
「ダメ! シロに人間の常識を教えなきゃ!
わたしが(色々と)戻れなくなっちゃうじゃない! 」
気のせいか、猫ちゃんたちは呆れ顔をしていた。
** 続きます **




