1日目:夕方
2012/04/03 16:20 大槻 笑美&犬山 剣豪
「…つまり、四方印さんとは幼馴染なのね」
河川敷で子供たちがサッカーをしている。
犬山くん(シロ)は、その風景をぼんやりと眺めていた。
『ああ、だが今のあいつは俺の知ってる奴じゃねえ。
人を見下したような、あの目は何様だっつーんだよ』
「ハムちゃんもそうなの? 」
あ、やっとこっち向いた。
『ハム? ああ、公子か。
あいつは中学ん時に越して来たからな。
そんなに覚えちゃいねえけど』
それなら四方印さんの事件も詳しいのかな。
でも聞いて良いのかな…。
「あのね、自殺の原因って知ってる? 」
『そんなの知らねーよ。 俺も、それを調べに
あそこに行ったら、お前と轢かれたんだからな』
そう、わたしたちが轢かれた場所は四方印さんが
陸橋から飛び降りた交差点なんだよね。
心霊スポットになっちゃうんだろうな。
『お前ら女子の方が何か知らねーか?
何か噂になってんだろ、あいつ』
「そうそう、彼女の占いが凄かったのよ。
何でも言い当てちゃうって」
『占いか。 あいつも俺たちと同じで中は別人かもな』
「どうして? 」
シロが器用な仕草で、げんなりした顔をする。
『あのなあ、今の状況考えりゃ分かんだろ。
あいつも誰かと摩り替わってんだよ』
「あ、そうか。 過去に戻ってるから予言も出来るんだ」
シロ(犬山くん)が前足で顎をかいた。
『やっぱり、あいつが怪しいな。 俺が調べるから夜にまた会おう』
「えっ、まさか帰らないつもり? 」
『当たり前だろ、何でお前ん家に戻るんだよ』
「シロはどうするの? 」
名前を呼ばれて、隣で寝ていたわたし(シロ)がこっちを見た。
昨日までこの子が自分だったのに、何だか変な感じ。
『何とか上手くやれよ。 じゃあな』
そのままシロは走り去った。
もう! 勝手なんだから!
2012/04/03 17:11 大槻 笑美
『シロ、また来るから大人しくしてるのよ。 分かった? 』
シロがこっちを見つめている。
大丈夫かなあ、ほんと。
ピンポーン。
お母さんが意外そうな顔で出てきた。
「あら、ちゃんと送ってくれたのね。 有難う。
笑美、こっちにいらっしゃい」
うわあ、この笑顔は説教モードだ。
あれ? シロはどこに? …ぎゃーっ!
『そっちじゃないの! 小屋には行かなくて良いから! 』
シロが不思議そうに犬小屋から戻ってくる。
あああ、もう駄目かも知れない。
あ、そうだ!
『お腹が痛いから病院に行きたい、って言って』
わたし(シロ)が首を傾げる。
わたしは口を開けて必死で伝えた。
『お・な・か・が・い・た・い』
シロが口を開けた。
「おなか」
そうそう! 上手よシロ!
『い・た・い』
「いあい」
惜しい! けど、仕方ないか。
『それをもう一回、お母さんに言うの』
わたしがお母さんを指差すと、シロがお母さんを見る。
「おなかいあい」
よく出来ました!
それを聞いたお母さんが真っ青になって、わたし(男)を睨む。
「車のキー取ってくるから、待ってなさい!
あなたもいらっしゃい! 」
2012/04/03 19:03 大槻 笑美
…すいません、わたしが愚かでした。
そうよね、わたしが男の子でシロが女の子なら疑われちゃうよね。
でも、お母さん。
産婦人科は早とちり過ぎるでしょ!
わたし、キスもしたこと無いんだよ!
何かあったら責任はどうするとか怒られるし散々だわ。
でもまあ、時間は稼いだから良いことにしよう。
どうせ検査したって何も出ないしね。
犬山くん、無事かなあ。
2012/04/03 19:08 犬山 剣豪
占い、占いねえ。
珠輝の奴、頭にファンタジー持ってるとは思ったが
そんな事して、何を始めるつもりなんだ?
挙句に自殺とかわけ分かんねェ。
今んとこ部屋から音がするし、まだ家にいるらしいな。
ケータイが使えりゃ呼び出すだけなのに、ったく面倒臭えな。
吠えて騒ぐか? いやいや、うるさいって追っ払われるのがオチだ。
さっきだって、歩いてるだけで知らねえジジイに捕まるとこだったしな。
ったく、人間ってな吠えてもねえのに臆病なもんだ。
仕方ねえ、近所の犬にでも聞くか。
「おい、そこの」
塀の上に一匹の三毛猫がいた。
「へえ、猫まで話せるのか」
猫が目を細める。
「お前、人間が混じってるな。 どうしてだ」
「な…分かるのか! 」
「気がつかないのは人間くらいだ、猿のくせに。
それよりも何故そうなってる」
「俺にも分かんねえよ。 気がついたらこうなってたんだ」
「ふむ、ならば付いて来い」
何だ、こいつ偉そうに。
しかし、このままじゃ何も分からねえしな。
行ってみるか。
2012/04/03 19:41 犬山 剣豪
ここは…近所の神社じゃねえか。
神様でもいるのか?
先導していた三毛猫が裏の池の前で止まった。
ニャーミャー。
「おおい、爺さん。 教えてくれーい」
静まり返ったままだ。
「おや、まだ寝てるか」
「誰だよ、爺さんって? 」
三毛猫は鳴き続けてる。 シカトかよ。
「なんじゃ、うるさいのう」
物陰から薄汚い黒猫が現れた。
何だか傷だらけな体とは対照的に、妙な威圧感がある。
「おや、おかしな客を連れてきたのう。 混じりか」
俺はある事に気がついた。
「…お前、妖怪か? 」
片目の黒猫が馬鹿にしたように目を細めた。
「はっ、何じゃそれは。 ちと長生きしとるだけじゃ」
三毛猫が自慢げに尻尾を立てている。
「聞いて驚くなよ、若造。 爺さんは… 」
に、二百年位か?
「十歳だぞ」
「俺より下じゃねえか! 」
黒猫が哀れむように俺を見る。
「馬鹿にするなよ、混じり。
お前よりは余程、物事を知っておるぞ」
「その混じりって何だよ」
「お前のような半端者じゃ。 どうしてそうなった」
「分かんねえよ。 車に轢かれて気がついたら
こうだったんだ」
黒猫が尻尾を左右に揺らしている。
おお、こんな暗がりなのに俺の目が良くなってるぞ。
そういや昼間は、あんまり見えてなかった気がするな。
「ふむ、どこかに狭間があるな」
「ハザマ? 何だそりゃあ」
「話は後じゃ。 その場所に案内せい」
** 続きます **




