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第二章 『堅津海峡奪還作戦』 2

 堅津海峡上空に典藤達磨の駆る雲竜が飛翔していた。

 それは雲竜、と呼ぶにはいささか名状しがたい形状をしている。

 元来、廃棄予定だった辰貴らが乗ってきた雲竜と別の廃棄予定だった黄炎の竜肺を無理矢理積載し、貨物室に魔導兵装を積載したものだからだ。

 竜翼の下に竜肺を二つ抱え、真下にさらにもう一本の竜肺を持つ。

 竜翼の付け根には練金装甲に覆われた長方形の機材が取り付けられ、背中に亀の甲羅のような円盤を持つ。

 「典藤竜士、どうだ?」

 「真っ直ぐ飛ばすのにも苦労します」

 どこか憮然とした声で典藤は返した。

 同期の死を経験し、次は自らが囮とされ、寄せ集めの練装資材でもって造った雲竜に乗る。

 飛竜竜士として一矢を報いたいと思っていた矢先のことである。

 「典藤竜士の働き次第でこの作戦の成否が決まります。よろしく願います」

 ――銀砂利が。

 新兵としての自分の力量を鑑みての抜擢であることは自ずと理解していた。

 その抜擢が卑しい飯炊き竜霊により行われたことを思えば達磨も苛立ちを抑えることはできなかった。

 がしかし、典藤達磨は飛竜戦闘の歴史を変える初の飛行をしていることをこのときはまだ知らない。

 堅津海峡の上空に出た段階で、雲竜は竜首を傾ぎ雲に沈む。

 降下に合わせ加速し、竜翼の端が大気中の水精を切り、雲を引く。

 達磨は間もなく雲海を抜け、眼下に広がる堅津海峡を捕らえた。

 「雲竜、現在堅津海峡に到達しました」

 その様子をはるか後方から見ていた辰貴は操獣桿を手繰り、僅かに息をついた。

 「……大丈夫か?」

 「雲竜の方は問題ありません。典藤竜士が恐慌に陥らない限り想定通りの成果を発揮してくれると思います」

 「そうじゃなくてだな」

 「……銀戒ですか?元々横滑りに対して不安定な機体なのに地上攻撃兵器を積載するのは確かに設計上厳しいですけど……」

 辰貴は前座に座る由路葉の頭に手を置いた。

 由路葉は一瞬だけ辰貴を見上げた。

 ――由路葉はこの作戦の為に相応の無理をした。

 雲竜用の資材を調達し、練装式を構築した挙げ句そのまま眠らずにその練装を施した。

 基地内の練装士の助力を得てはいるものの敗残し集まった北領守護隊に一体どれだけの人手があったものか。

 由路葉は辰貴の手を取ると頬に当て、その温もりを確かめると瞳を閉じた。

 「……共に、あります」

 「……わかった」


 リヴァイアサル級潜水竜『ディラガニール』は堅津海峡に補給線封鎖の為に潜水していた訳ではない。

 アルメリア軍情報部が察知した龍元の潜水龍の航行計画の情報を受けて、同海峡において潜伏する龍元の潜水龍を追撃していたものであった。

 龍元の同盟国であるジャルマが練装した潜水竜『ウィンディニー』を回収し、それを基礎として練装し直した水竜であることまでは掴んでいた。

 『ユーゲン』と呼ばれるその潜水竜は突如としてその姿を水の中で消す。

 察知できなくなる、という意味ではない。

 完全に消えてなくなるのだ。

 どういう魔導理論が働いている魔導具を積載しているかはわからない。

 アルメリア軍情報部はこの『ユーゲン』が密命を帯びて大茫洋に向けて出向している情報を察知し、これの追撃を付近を航行していた『ディラガニール』に指示した。

 『ディラガニール』は龍元に運び込まれる前の『ウィンディニー』の随伴艦『レーライル』との持久戦を終え、兵の疲労は一つの限界に達していた。

 がしかし、戦争という命のやり取りを行う非日常においては時としてそのような要素は考慮されなくなる。

 また、『ディラガニール』自身が『ウィンディニー』を追い続け、後一歩のところで逃げられてきた現状もある。

 潜水竜乗りとして『フゲン』や『コーライ』、ジャルマの『レーライル』を撃沈させてきた生粋の潜水竜乗りであるディラガニール水竜長ジョハン・バルクレッガはこの困難な任務を遂行することに誇りを賭けていた。

 「蛇眼確、上空を敵の輸送機が飛行しております」

 「蛇眼まわせ」

 蛇眼とは潜水竜の首から伸びる水蛇で浅海潜行中に水面上を視認するための器具である。

 ジョハン・バルクレッガは観測手が渡す蛇眼を覗き、レバーでもって望遠倍率を調整する。

 「『ウンリュウ』か?」

 「形状は似ております」

 先日、逃げられた輸送竜と似てはいるものの、その姿は大きく変わっていた。

 「『ゴーストドラゴン』の方はどうなっている?」

 『ゴーストドラゴン』とは『ユーゲン』の俗称である。

 神出鬼没で正体の無い幽霊竜とは良く言ったものだ。

 「未だ反応ありません。がしかし、我々がここで動けば動きを見せるやもしれません」

 「……秘密裏に交信を計った可能性は?」

 「不可能です……動きがあれば竜耳が捕らえます」

 『ユーゲン』の消失には未解明の部分が多い。

 だがしかし、交戦を重ねるごとにその消失の特性として消失した地点からそう遠く離れた場所には現れることができないということを知っていた。

 ジョハン・バルクレッガはここで二つの可能性を考えた。

 一つはウンリュウをこのまま通過させ、目前の任務に従事すること。

 そして、もう一つはウンリュウを撃破してしまうこと。

 先日は持久戦を終えて竜肺が毒を放ちはじめていたことから水上航行による換気を行っている最中の遭遇戦であったが今回は違う。

 「……あのウンリュウを落とす。おそらく付近にこちらを攻撃するための飛竜か水竜が居るはずだ。『ハーリケイン』を起動しながら浮上する。セントの銀盤竜騎士団に念のため打電しろ。『ユーゲン』が動く。槍に羽をつけろ」

 ジョハン・バルクレッガ水竜長は交戦することを決定した。

 ウンリュウに逃げられたことは、ディラガニールが堅津海峡で活動していることが敵に知られている可能性が強い。

 秘密作戦従事中の『ユーゲン』を逃がす為に龍元が増援を差し向けたと見るべきと判断したのだ。

 それを決定づけたのがこのときのウンリュウの形状だった。

 それはジョハン・バルクレッガやディラガニールに乗竜している水竜士達の知る姿ではなかったからだ。


 ――公式の記録には残らないが、この戦闘は様々な勘違いの上にはじまった戦闘となる。


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