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第一章 『北領守護隊』 1

 第二次精霊戦争。

 後の歴史家はこの戦争をそう称する。

 軍事評論家はこの戦争を航空戦力の意義を明らかにし、戦争の在り方を変えた戦争と定義し、歴史家は人の精神が古い神霊から解放されたと解く。

 そして、経済学者は経済活動の多くがより物質的な充足を求め始め、先進者は金銭的価値に重きを置き経済が停滞し逼迫することを解いた。

 世界の歴史がゆるやかではあるが、大きな転機を迎えた。

 一つの戦争が引き起こされるまでに様々な経過を経て、その過程で数多くの原因が生まれるように第二次精霊戦争が発するに至るまでにも様々な理由がある。

 それらは最終的に戦争が経済活動の一環であると言われるように経済の観点から見るのが一番、理解しやすい。

 開戦に至る理由をそれらの理由を交えて国際上の立場の上から見ていくこととしよう。

 確執は古く遡り、今は世界地図から名を消したユーファン帝国の打ち立てた大霊誓約がその発端となる。

 一大勢力を誇ったユーファン帝国は近隣諸国を最も進んだ魔導技術と強力な軍事力を背景に植民地、または自国の領土としてゆく。

 占領した土地の通商を押さえ、また、ゆくゆくはユーファンへと帰化させるために、そして国際的支持を受けんが為に大霊誓約を現界連合の場でユーファン主導で打ち立て各国に批准を求めた。

 精界――この呼称は当時のユーファン帝国のもので霊界や玄界などその土地柄で呼称がことなるが、それぞれ同じものである――と現界に座するあまねく精霊を共敬し、人霊皆が潤恵を授得せん。

 この趣旨と各国協調を建前とし、現界連合でのユーファン主導の現界政治を執り行うべく大霊誓約への批准は着々と進められる。

 それらの施策は様々な障害があったにせよ概ね滞りなくユーファン帝国の思惑通りに進んだ。

理由は大きく二つあり、一つ目はユーファンの強大な軍事力を背景とした恫喝、二つ目は現界各国に大霊誓約の建前に同調できる宗教的下地があったからだ。

 多くの宗教が時の権勢を盤石とするための喧伝であり、一つの価値観を普及させるのに大きく貢献するものとして存在するものである以上、価値観を同じとする大霊誓約について当時の情勢はこれを受け入れる準備ができていた。

 或いは、受け入れられるように作られていた。

 そして、最も切実な話として各国が霊息魔術から精霊魔術を用いた魔導技術を普及させるべく時代が転化していた時期でもあった。

 ユーファンは従属する国には惜しみなく技術供与をするとともにその支配を盤石なものとし、敵対する国には大霊誓約でもってして経済制裁を容赦なく加えた。

 時の帝王ユーファンⅦ世はその時代の趨勢を汲むことのできた希代の外交政治家でもあったのだ。

 東に遠く離れた孤島である龍元はその国の興りが「龍霊、現降り八網を翼に掩いて宇と成さむ」と説く、霊獣である龍が人となりその国是を導くという宗教基盤を持っていたことからして、また、立ち後れた経済戦争に勝つ為、大霊誓約を拒むことなく受け入れた。

 ここで龍元の歴史についても触れねばならないのだが、龍元は大霊誓約直前まで他国との関係を断ち、独自の文化と治世を敷いていた時期がある。

 が、長く続いた平穏は制度自体に腐敗を加え、大きく世界の列強から立ち後れる形となる。

 内部的腐敗と外敵に対しての危機感等の様々な要因が引き金となり、その国政を改める内乱を経て改革が起こった。

 その後、龍元は勤勉な精神性を有したまま、ユーファンや他の列強から貪欲に国家運営の全てを吸収し、力を蓄え始める。

 地理的にユーファンから広く大茫洋を隔てており、地理的にもその支配が強くなかったことが幸いし、通商規制を受けることなく着々と国力を蓄えることができた。

 その際、極東の周辺国からは独自の精神性を捨てた俗国と、列強から竜真似する魚と揶揄されたものであるが、時代の波に取り残された龍元にとってはユーファン等の列強から学ぶことが変遷してゆく国際情勢の中で生き残る術であった。

 そして、起こったのが第一次精霊戦争である。

 事の発端はユーファン帝国の植民地であったアルメリアが独立を表明したことであった。

 全ての原因を列挙するには暇が無いが発するに至る原因は二つある。

 技術革新による供給過多と貨幣選良主義がデフレを生み、混乱した経済により国力を著しく落としたユーファン帝国が植民地に対し過大な関税をかけ、不平不満を蓄積したこと。

 そして、アルメリアがユーファンの技術供与を受け精霊技術を発展させた練装技術の開発実用に至ったことが大きなものである。

 ユーファンの現界での覇権を快く思わない強大国と同じようにユーファンからの独立を望む植民地の蜂起に瞬く間にユーファンの領土は減衰し始める。

 はじめは、アルメリアの独立を認め、ユーファンがその覇権国としての地位を放棄することで決着がつくと思われた。

 がしかし、アルメリアの練装霊獣部隊が強すぎた為に、ユーファンはアルメリアに取って変わられることとなる。

 それだけではなく、アルメリアは周辺諸外国の領土も奪い、ユーファン以上の国土を有するようになりそのまま覇権国と成り代わってしまう。

 その混乱に乗じて、もう一国、練装霊獣を軍備に実装した国があった。

 東の小国、龍元である。

 龍元は『龍霊』と呼ばれる特権階級による意志決定の遅さという政治的欠陥の為に機を失したものの、強大な軍事力を持つに至った軍部の独走により月州やテテ諸島等をその領土とした。

 アルメリアが覇権国となったことで第一次精霊戦争は一応の終結となった。

 こうして、世界情勢を大きく覆したアルメリアはその名を『アルメリア共郷国』とし、覇権国として現界連合を引っ張る形となった。

 ユーファンが大霊誓約を用いて各国を従属させた例に習い、戦勝処理を終えたアルメリアは新たに『霊長憲章』を打ち立てることとなる。

 『あまねく精霊の呪縛から解き放たれ、人は真に精神の自由を得なければならない』

 それは今まで尊いとされてきた精霊を隷属させる魔導技術の変革に伴った思考であり、宗教であった。

 だが、それを拒む国もまたあった。

 龍の霊たる竜霊をその支配階級に置き、その支配を盤石とする宗教の要にした龍元。

 そして、アルメリアの覇権をよしとしない国々。

 それら『精霊同盟』とアルメリアを中心とした『人現連合』。

 龍元のダーザルゲッガ島空襲に端を発した第二次精霊戦争の火蓋は切って落とされた。


 霊歴一八六三年の夏に端を発した第二次精霊戦争は一八六五年の冬を持ってしても終結を見なかった。

 いや、終結の予想はあらかたついてはいた。

 先制攻撃を仕掛けた龍元が大茫洋で優位に戦局を展開していた。

 それに大きく寄与したのが練装飛竜部隊による爆槍投下戦術である。

 これまで大海獣による海上戦と、地上部隊による火力戦が戦闘の趨勢を決していたものであるが、航空戦力という概念が加わったのである。

 正確には第一次精霊戦争の時にも航空戦力というものは存在した。

 練装天馬部隊を使用した索敵、爆撃等の戦術は採られ、それが効果的であることは実証されていた。

 だがしかし、それらはあくまで陸上部隊の進行を支援する範疇での運用であった。

 その常識を覆したのがダーザルゲッガ島空襲であった。

 練装した竜に搭載した魔槍でもってダーザルゲッガ島に集結した第一三アルメリア海竜団が全滅した結果をもってして、アルメリアは戦略の基本方針を航空戦力に比重を置くことを決めた。

 だがしかし、それだけの決定的打撃を与えていながら、龍元は第一次精霊戦争で力を持った陸軍と海軍がその有用性を認めながらも独立した権限を与えなかった。

 熾烈を極めたダダガルザ諸島攻防戦において、ようやくその有効性と時代が戦術の転換を認識し、その開発、生産に龍元が着手したころにはアルメリアはすでに航空戦力を整え終わりつつあった。

 あとは、物量に劣る龍元がアルメリアに押し切られるのにさほど時間はかからなかった。

 そして、霊歴一八六五年九月一一日、アルメリアは北の同盟国フロラッズィを牽制しつつ、龍元本土である北領に上陸した。

 最早、この戦争は龍元、アルメリア、フロラッズィの三国が『どのような形で戦争を終結させるか』が問題であったのだ。


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