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第三章 『椴勝橋頭堡攻略戦』 2

 堅津海峡にてディラガニール撃沈との報せを受け、白寿基地は沸いていた。

 ――ダダガルザの銀翼が復帰した。

 噂の早い者はそう喧伝していた。

 だが、当の浪代辰貴と天穿霧揶は帰投して間もなく、井居武茫久により司令室への出頭を命ぜられた。

 「……月網・揶那多を御頭と頂き、独立飛竜部隊を創設せよ、ですか」

 「非常に、名誉なことではある」

 ディラガニール撃沈による功績を称えると同時に、飛竜部隊の効果を再確認した軍大本営が独立部隊として積極的に運用すべしと通達を下した。

 その、指揮系統の頂上に月網・揶那多を置けという。

 つまりは、今まで北領守護隊陸軍指揮下にあった飛竜隊が、北領守護隊最高権者である月網・揶那多の下に付き、事実上同格としてみなされることになったのだ。

 これは示達した井居武中竜角にも意図が判然としなかった。

 この時、北領守護隊においてこの意図を理解していたものは誰も居なかったと見るのが正しい。

 「……お言葉ですが、飛竜隊の編成についてはどのように?」

 「竜意箴言を持って、飛竜隊にて決を採るしかあるまい。このような状況になれば、我々北領守護隊陸軍には人事権は無い」

 井居武はそれだけ言うと二人を下がらせた。

 ――つまりは、お前達で勝手に決めろという意味である。

 それも当然である。

 北領守護隊に於いて、最高権者である月網・揶那多が独立飛竜隊の総括となっている以上、その運用は相互連携の観点からともかくとして、その運営に陸軍が口を出すことは出来ない。

 誰もが困惑していた。

 だが、ここに龍元の命運を揺るがした『竜誇飛竜部隊』が誕生することになる。


 堅津海峡奪還作戦は北領守護隊にとって、果たして有益だったかどうかという議論がある。

 堅津海峡奪還作戦を実施したその翌日に雲龍により運ばれた飛竜や兵器、弾薬と人員を見れば有益だったと言えるかもしれない。

 がしかし、それと同時にアルメリア進駐軍に椴勝橋頭堡に大型魔導槍の設置を許すだけの時間を与えてしまった事実もある。

 堅津海峡奪還作戦から外され、本隊の対空防護と哨戒を任された第三飛竜隊の小隊長、蒼月甲・芽李は自らの飛竜『黎泉』でもって肉薄し被弾をものともせず椴勝橋頭堡でその事実を確認した。

 この情報が竜頭会幕に上がった時、皆はこぞって由路葉を非難した。

 だが、これに返した銀嶺燐・由路葉の言葉はしたたかなものだった。

 「風雲眺めるは竜にあらず。他に竜はありや?」

 竜は空模様を見て飛ぶかどうかを決めず、自らが飛びたい時に飛ぶ。という意味だ。

 ――要するに、『飛竜隊は勝手にやっている。お前達はなにをやっていたのだ?』と問いかけたのだ。

 これには陸軍所属の竜霊は閉口せざるを得なかった。

 ただ、一人、手を叩いた竜霊が居た。

 紅霊翼・暮羽である。


 堅津海峡奪還作戦の後、補充された兵員や新しく編成された独立飛竜隊への物資の分配など目まぐるしく一日が巡る。

 堅津海峡奪還作戦から三日目、辰貴は納竜巣の中で、練装を剥がされる銀戒を見上げ煙草をくゆらせる。

 一宇の竜紋である四隣の紋様の入った煙草で、貢献のあった者に恩賞として賜るものだ。

 ――堅津海峡奪還作戦の功績を称えられ恩賞として賜ったものだ。

 隣で霧揶が同じように煙をくゆらせていると丘嶋がやってきた。

 「着任早々、大逆鱗を貫いたみたいだな?」

 「あれは……俺じゃあない」

 辰貴は丘嶋に煙草をくれてやると火をつけてやる。

 「リヴァイサル級は確かに撃沈されていただろう?」

 霧揶が尋ねる。

 「下に、潜水竜が居たんだ」

 「潜水竜?もう、龍元には無事な潜水竜は無いはずだろう」

 「『幽玄』と書かれていた。愚雷級の潜水竜だったと思う」

 丘嶋はしばし、考え込む。

 「幽玄……幽玄境計画が実行に移されたのか?」

 「幽玄境計画?」

 「……ダダガルザに居た頃の上官が今、本営監察部に居る。そいつが昔、幽玄境計画の話をしたんだ」

 「昔話のように、玄界を渡るのか?」

 ――龍元には幽玄、つまり精霊界へ龍により招かれ危機を脱した猛者の話がある。

 丘嶋は黙って頷いた。

 辰貴が苦笑する。

 「まさか」

 「式術理論上は可能、らしい。幽玄境を超えてアルメリア本土に兵を直接送り込み本土決戦を行う計画だ。水竜の腹で聞いていたから、半分ヨタだとは思っていたがな」

 丘嶋はそこまで言って、話を切った。

 「幽玄境計画が本当にあるとするならば、アルメリアのパンドラの箱も信じなくてはなるまい」

 「……小指の先ほどの箱が星を落としたような爆発をするというアレか」

 「全ては噂の域を出ないヨタだ。まともに信じる方が馬鹿を見る」

 丘嶋はそう呟いて紫煙をはき出した。

 吸いきった吸い殻を踏みつぶし、それぞれが立ち上がる。

 「椴勝橋頭堡を落とす時には世話になるだろうね」

 「天下の飛竜隊が陸軍の世話になるものかよ」

 それは半分、皮肉を含んでいた。

 「納竜巣の中じゃ、飛竜は飛べないさ。飛竜は騎兵みたいなもんだからね」

 辰貴はそう言って納竜巣の外で搬送されていく地竜を眺める。

 『顎震』――地竜六号砲を備えた大きな竜首とそれを支える大きな足、竜咆哮の反動を抑えるための太く長い竜尾が特徴だ。

 ――地上の広域占拠は陸軍が主体となる。

 元来、陸軍出身である辰貴は飛竜ができることと、できないことの限界を良く知っていた。

 飛竜を騎兵に称したのは言い得て妙な話で、騎兵運用の究極的なところは、機動力を生かした打撃であるということを飛竜を使っているだけにすぎないと言う。

 騎兵と飛竜が違うところといえば空を飛んでいるか、地面を走るかの違いであると辰貴は言っているのだ。

 「そんなものか」

 丘嶋は面白くなさそうに呟くと、とぼとぼと自分の部隊へと帰っていく。

 「いいのか?」

 「いいんだよ」

 霧揶に辰貴は面倒臭そうに返した。


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