プロローグ
性懲りもなくまた連載を増やします。
どうか生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
人は一度地球を捨てることになった。
地球には緑がなくなり飲めない水が氾濫していた。
それらはおおよそ人間の技術進歩が原因によるものだったが、役に立つはずの技術の進歩は奇しくも人類を滅亡させる要因へとなりはてようとしていたのだった。
人間は地球を離れ、空へ、――宇宙へと旅だった。
しかしそこに待ち受けていたのは宇宙人という未知の存在だった。
宇宙人、遥か昔より語られ続けていた存在。
その宇宙人は人類よりも遥かに高い技術と知能で、瞬く間に人類を捕縛した。
人類に残された道は二つだった。
宇宙人の奴隷となるのか、それとも死か。
人類はそうして、宇宙人の奴隷へとなりはてるのだった。
この物語は一人の人間の少年が全人類の救済を成し遂げるまでのお話。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「リョウ! リョウ! どこに行ったの!」
地球から遥かに離れた宇宙の辺境の星にあるお屋敷に甲高い女性の声が響き渡る。
カツカツとハイヒールで豪勢な絨毯の敷かれた廊下を叩き、目だけを左右に振って歩き続ける妙齢の女性。輝く金髪は後ろで一つに結い止め、女性本来の柔らかさを置き去りにした、けれども母性溢れる彼女はこのお屋敷の下っ端を纏めるリーダーだ。皆からはアイナと呼ばれ、本名は誰も知らない。
「アイナさん、リュウならさっき屋根に登る所を見ましたよ」
廊下を掃除していた名も知らない下っ端が教えてくれて、アイナはこのお屋敷で唯一屋根に登れる場所へと行く事にした。
二階あるお屋敷の二階にある端の端、本来下っ端が入ることが許されない領域にある鍵が付いた部屋。それが屋上へと上れる唯一の部屋だ。
アイナはその下っ端にお礼を述べてから、二階へと続く階段へと向かう。その歩みは常に一定で揺らぐ事はなく、単調なリズムが広い屋敷へと響いている。
と、階段についたアイナは降りてくる人物を認めた。いや、人物というのが地球人類だけを指すなら、それは語弊だろう。ただ、現在において、むしろ地球人類を人物ということこそ語弊がある。
彼はルナファリア星人、この宇宙では一二を争う星の大貴族だ。そう、彼は宇宙人だ。
アイナは階段の最下段の手前で綺麗な直立から、腰を曲げて頭を下げる。綺麗なお見送りの態度だった。
「アイナか。今朝はどこか慌てているようだが、どうかしたのか?」
「いえ、何もありません」
アイナは頭を上げないまま返答し、そのままその姿勢で居続ける。これは彼女なりの矜持だ。自分の使える者の前では絶対に取り乱さない。何があっても平静を装い、どこまでも与えられた仕事を全うし続ける。このお屋敷で最も優秀で在り続けるためのアイナなりの決定事項だ。
彼にもそれが分かっているのか追求をすることもなく階段を下り終えて、そのまま入口へと向かう。
既に別の付き人が扉を開けており、彼女は頭を下げたままの姿勢で体を動かして、常に彼が正面にくるようにする。
入口からでようとした彼は、ふと忘れていたとでも言うように、アイナに振り返った。
「今日はもしかしたら来賓があるかもしれない。しっかりしておいてくれ」
「かしこまりました。いつも以上の全力で取り組ませてもらいます」
「頼りにしているぞ。では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
彼は出て、入口が閉じられてから数秒経ってから、アイナは直立に戻った。そしてすぐに近くにいた下っ端に玄関口付近の掃除を命令し、自らは階段を上る。
「来賓ですか。早く仕事を終わらせなければなりませんね」
お屋敷の掃除、玄関口に花も用意したほうがいいかもしれない。それから全員にそれなりに良い衣装を着させなければ。後は食事も、出来るだけ時間の掛かるものにしよう。アイナは歩を緩めることなく、迅速に鍵のついた部屋に向かう。そう、まずは一番手のかかる問題から片付けようと思って。
鍵は勝手に開けられていて、中への侵入のために合い鍵を探す手間が省けた。同時にその奥に探している人物がいるという証拠だ。アイナは身を滑らせるように侵入して、音もなく歩く。
その奥、上へと続く梯子を見つけ、それを使って上へと昇る。
屋根は綺麗だ。数週間に一回アイナが掃除をしているからだが、他にも要因があった。それが、屋根の上でごろんと横になり、真っ赤な空を見上げている少年だ。彼もまた足繁くここに通い、そして掃除をしている。
「リュウ。ここにいたのですか」
「うわッ! アイナさん!? 別にサボってませんよ!?」
「私は何も言っていませんが?」
アイナは感情を表に出す事もなく、リュウと呼んだ少年の頭を鷲掴みにして持ち上げる。リュウの足が地面から離れた。
「ここへの侵入は禁止したはずですよ」
「でもここが一番落ち着くんだって!」
「関係ありません。私達はここで働かせて貰っているのです。働かない者に居場所はありません」
「でもさ……!」
リュウは一回詰まった。そして、何時も通りの言葉を紡ぐ。
「俺達地球人を家畜のように扱う奴らの世話なんてやってられないよ! どうしてアイナさんはこんなところで働いていけるんだよ!」
リュウは地球人だ。ここの主人に買われてここにいる。
掴まれたまま荒ぶるリュウに、アイナは反対の手で傷が残らない程度に手加減をしてビンタをくらわせた。そして、何時も通りの言葉に対して何時も通りの言葉を返す。
「生きていけるから。ただそれだけです」
屋根の上は何もない。そこにただ二人だけ人が立っているだけ。
アイナはリュウを下ろすと仕事に戻るように命令する。
「アイナさんのばーか!」
そんな捨て台詞を吐いたリュウはさっさと梯子を下りてどこかへ行ってしまった。
空が綺麗だ。アイナは見慣れている赤い空を見て目を細め、自分もやるべき仕事をする為に梯子を使って下りていったとさ。
次話の投稿までに数ヶ月かかります。
申し訳ありません。