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ストーカー

急な出張で本社へ来た日、丁度上司、谷中の誕生日だったらしく仕事後居酒屋でお祝いをした帰りに残った数人で久しぶりに真咲妃の店を訪れた。


急なことだったので真咲妃には連絡はしていなかった。


店へ入りテーブルに案内されると、谷中のお気に入りである真咲妃を指名した。

突然の来店に真咲妃はびっくりするかな?一章は少しワクワクしながら待った。

しかし真咲妃は現れなかった。その代わりのキャストが2人とこのクラブのママがやってきた。


「申し訳ありません。本日アンナちゃんはお休みを頂いているんです。代わりにわたくしとこの二人がお相手させて頂きますがよろしいでしょうか?」


「なんだ、残念。風邪でもひいたのかな?お大事にって伝えといて」

谷中は残念そうに言った。

「お気遣いかいありがとうございます。アンナちゃんにもそう伝えておきますわ。時に谷中様、本日お誕生日と記憶していますが…」

「おっママは記憶力がいいんだね。そうなんだ、もうあんまり祝ってもらう年じゃないんだけどね〜」

「恐れ入ります。谷中様お誕生日おめでとうございます。わたくしもお祝いをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ママが祝ってくれるなんてこりゃあ人生で一番嬉しい誕生日だ!」

谷中ははげた頭をペチペチと叩いた。


ママがボーイに目配せさせるとテーブルにはシャンパンが運ばれてきた。

「こちら当店から谷中様へのプレゼントです」


ママの隣でシャンパンを飲み上機嫌の谷中をよそに、一章は真咲妃の事が心配だった。

そう言えば二日前に真咲妃から珍しくメールがあった。他愛もない普通のメールだったが、よほどの事がない限り仕事を休むはずのない真咲妃が休んでいることが気になった。



トイレに立った後、クラブのママ、紫織(しおり)に声をかけられた。

「望月様、明日の午後少しお時間を頂けますか?」

「はあ、何でしょう」

「アンナちゃんの事で」

ママは小さな声で短く言った。

その言葉に一章はハッとし「分かりました」と即答した。

明日の午後2時にビジネス街にある有名なホテルで会う約束をした。



席に戻ると翌日が休みと言うこともあり、谷中は程よく酔い両脇にホステスを置きさらに上機嫌になっていた。





翌日、少し早めにホテルに付いた一章はラウンジに紫織を見つけた。


紫織は一章に気付き立ち上がり頭を下げた。


「お忙しい中お呼びだてして申し訳ありません」

「いえ……」

一章がどう切り出したのかいいのか迷っていると

「上のレストランに席を取ってあります。お話はそこで……」


最上階のレストラン。夜になれば階下に望む夜景が美しくレストランは満席となる。

しかし今の時間人はまばらだ。


仕事でよく使うのだろう。レストランの支配人と思われる人物が紫織に挨拶し、なれた様子で奥にある個室へ案内された。


飲み物を注文し部屋には2人だけになった。

「お話というのは……」

一章が紫織に尋ねた。

「……とその前に、僕と真咲妃さんがお付き合いしているのはご存知だったんですか?真咲妃さんの仕事に支障が出るからと誰にも話していない筈ですが」


「真咲妃?ああ、アンナちゃんの事ね。ええ、お付き合いする前にアンナちゃんから相談されたんです。『お客様を好きになってしまった』って」


そこまで言うとドアをノックしウエイターが飲み物を運んできて話しは中断された。ウエイターは静かにドアを閉め部屋はまた2人だけになった。


「『一定のお客様との個人的な付き合いは仕事上好ましくないけど、あなたの仕事をしっかり理解してくれる人だったら、お互いに良く考えてお付き合いなさい』とアンナちゃんにはアドバイスしましたわ」

「そうだったんですか。真咲妃さんが今のお仕事に対する努力と真剣さに僕は尊敬しています。お付き合いをしている今も、その仕事を辞めてほしいとは思っていません」

「望月様の様なお考えの方とお付き合いしているアンナちゃんがうらやましいわ」紫織は一章を見て微笑んだ。

「ご心配なさらないで。望月様とのお付き合いを知っているのは私だけです。お付き合いが始まってからかしら、益々アンナちゃんは綺麗になってきたわ。望月様の愛を一新に受けている証ね」


運ばれてきた飲み物を飲み終え一息入れた紫織は、本題に入ろうとして少しくらい顔になった。



「……実はアンナちゃん、少し前から休んでもらってるんです」


休んでもらってる?

紫織の言い方に違和感を感じた一章は紫織の次の言葉を待った。


「アンナちゃんが望月様とお付き合いを始める少し前かしら……」


紫織は思い出すように一章に話し始めた。




真咲妃を前から気に入っていた嶋田という男。


気が弱く来店しても真咲妃を遠くから見ているだけ。

ところが一章と付き合い始め、容姿接客共に光り輝いてきた真咲妃から嶋田は益々目が離せなくなった。そんな頃、嶋田は思い切って初めて真咲妃を指名した。

いつもは遠くから見ているだけの真咲妃が自分の隣にいる。近くでみると一層のこと美しい。

この指名が嶋田を暴走させるきっかけとなった。


その後は三回に一度は真咲妃を指名し嶋田はどんどん真咲妃にのめり込んでいった。


そのうち他のテーブルで他の客の相手を真咲妃がしていると睨みつけるようになっていた。


そして他のホステスに『実は内緒なんだけど俺とアンナちゃんはつき合っているんだ』と嘘を言うようになった。




ある日店の中で突然真咲妃を怒鳴りつけた。

最初嶋田についていた真咲妃だが、他テーブルから指名が入ったため席を立とうとした真咲妃の腕を掴んだのだ。

「俺の女なのに何故他の男に笑顔を振りまくんだ!」

ザワザワしていた店内に嶋田の怒号が響き静まり返る店内。


もはや妄想に取り付かれた嶋田を止めることはできなかった。

嶋田は執拗に真咲妃を怒鳴りつけ罵り、更に殴ろうとし腕を振り上げた。慌てたボーイが駆けつけが間に合わなかった。


ガツンという音と共に真咲妃は倒れた。


女性の叫び声が響き皆青ざめている。

真咲妃は振り下ろされた拳をうまくよけたが、高いヒールの靴を履いていたためよろけ拳が肩に当たった。

倒れた真咲妃にまだ殴りかかろうとする嶋田は、駆けつけたボーイと近くの客に取り押さえられた。


店が警察へ通報し、数十分後駆けつけた警察官に嶋田は暴行容疑で連行されていった。


倒れた真咲妃は皆に助けられどうにか起き上がった。肩が腫れドレスが破けた。

大事をみて紫織に連れられて直ぐに病院へ行った。診察の結果、肩に打撲と倒れた際に痛めた足首と腕も捻挫をしていた。

腫れた肩は直ぐに氷で冷やしたが、次の日には青々とした痣が表れた。


診察後警察に事情を説明し、紫織の配慮でその日はそのまま病院から直接家へ帰った。

暴行容疑で逮捕された嶋田だったが、保釈金を払い一週間後には自由の身になった。


店の出入りを禁止された嶋田はストーカー化し、よく店の廻りで目撃されるようになる。



出歩く時は常にどこかからか見られている感じがし、真咲妃は一人で歩く事ができなくなった。

遠回りして家へ帰ったり、時には友達の家に泊めてもらう日が続いた。


怖くなった真咲妃は紫織に相談し、ストーカーの被害届を警察へ提出した。

その結果、嶋田には真咲妃の半径一キロ以内に近づいけない『接近禁止令』が出た。



諦めたのかここ数ヶ月、嶋田の姿は見えなくなった。

しかし、嶋田はそれほど簡単に諦める男ではなかった。そして事件は起きた。




仕事を終え、同僚と店を後にする真咲妃の姿を遠くから2つの目が見ていた。


朝の早い時間だけあっていつもは混雑しているこの通りもさすがに人通りが少ない。

黒い影は気がつかれないよう一定の距離をとりしかし確実に獲物へと近づいていく。行く先が分かっているその影はわき道に先回りして獲物の前へ回り込んだ。


わき道から出てきた嶋田は禁止令を無視し真咲妃の前に立ちはだかると叫んだ。

「アンナちゃん!」


無防備だった真咲妃は自分を呼ぶ声の方に顔を向けると、突如現れた嶋田の姿を目にし「ひっ」と短く悲鳴をあげた。

真咲妃の顔は青ざめ、一緒にいた同僚も真咲妃と一緒に後ずさりした。


嶋田の大きな声により、数少ない通行人も足を止めた。


「この間はゴメンよ。痛かったよね。アンナちゃんを殴るなんて僕どうかしてたよ。これからは君を絶対に傷つけないよ。僕がずっと側にいて守ってあげるから」

不気味な笑顔でそう言うと、後ろ手に隠し持っていた包丁で突然自らの腹を刺した。


「キャー!!」

若い二人の叫び声が朝のビジネス街に響いた。


二人の悲鳴に通りすがりのサラリーマンたちも足を止る。



嶋田は腹の包丁を抜くと二度三度と自らの腹に繰り返し突き刺す。苦痛に顔を歪ませながらも真咲妃に引きつった笑顔を向け

「これで僕はアンナちゃんの側にずっと居られる。ずっと一緒だよ。死んでも離れない……」


と笑うと膝から崩れ落ちた。その異様な光景に足を止めて見ていた人も凍りついた。


あまりの戦慄さに真咲妃は気を失い倒れ、同僚は真咲妃を支えながらその場に座り込み恐怖におびえ泣き出した。


医療関係者と名乗る通行人が血まみれの嶋田を、他の通行人が真咲妃達を介抱していると、誰かが呼んだパトカーと救急車の音が遠くから近づいてきた。

緊急車両が到着し、朝の静かなビジネス街は騒然となった。





病院へ搬送された嶋田は緊急手術が行われ命は助かった。真咲妃と同僚も別の病院へ運ばれ医師の診察を受けた。




その話を聞いて一章は言葉がでなかった。


「あまりにもショックが大きいのでしばらくお店は休んで貰う事にしたの。ごめんなさい」

紫織は申し訳ないように一章に謝った。


「知らなかった。自分は何も……」涙が頬をつたった。

「お付き合いして一年以上経ちますが真咲妃さんはあまり自分の事を話したがらないんです。連絡も必要な時にだけで…だからはなんの連絡もなかったんです、今回も前回の時も。自分がもっと気付いてやってれば!!真咲妃さんはそんな辛い事があったなんて微塵も素振りを見せなかった。一人で耐えていたなんて……」


「アンナちゃんはとても強い子だわ。そして望月様、あなたをとても信頼し心の寄りどころにしているのが私からもわかるの。だからあなたには心配掛けたくなかったんじゃないかしら。

お店で被害にあった後、病アンナちゃんが後で自分で連絡するからって言ってたからそれを信じてしまって。あの時、直ぐにあたしから望月様へ連絡を入れるべきだったわ。本当に申し訳ありません」


深々と頭を下げ紫織はもう一度謝った。

真咲妃の両親はすでに他界しており、一人いるらしい姉とも連絡が取れないらしい。


「今アンナちゃんが頼れるのは望月様あなたしかいないと思います。どうかアンナちゃんを救ってあげて下さい」


そう言うと、紫織は真咲妃が今いる場所を書いた紙を一章に手渡した。



一章は紫織とわかれたあと手渡された紙に書かれている住所を頼りに、ホテルから数駅ほど先の駅に降り立った。


嶋田からストーカー被害を受け自宅を知られた真咲妃は、半月前にこのマンションに引っ越したらしい。




ドアをノックすると中から「誰?」と用心深い返事があった。

「真咲妃さん俺です、一章です」


ガチャガチャと鍵を開ける音がし真咲妃が顔を出した。化粧気のないその顔は少し青ざめているように見えた。


「一章……なんで?」


驚いた真咲妃は躊躇いながら「入って……」と一章を部屋に招き入れた。


リビングに通されたが真咲妃は背中を向けたまま。一章はその背中に向かって話しかけた。


「紫織さんに聞きました……なんで何も教えてくれなかったんですか?そんなに俺が頼りないですか?なんで……」

真咲妃は背中を向けたまま、寒いかのように両腕をさすりながら


「……だって一章、来ちゃうんだもん。連絡したら絶対に来ちゃうんだもん、遠いのに……」と言い振り返った真咲妃の目からポロッと涙が落ちた。


「怖かった。思い出したくないの……。だけど目をつむるとあの光景が浮かんでくるの……。怖い、怖いよ一章」

真咲妃はそれまでの緊張の糸が切れたように嗚咽しながら一章にキツく抱きつき泣き出した。その体は震えていた。


一章はなにも言わず黙って強く抱きしめた。



この数日、真咲妃は寝ていなかった。いや、ねむれなかったのだ。目をつむるとあの光景……

精神的にも肉体的にも真咲妃はボロボロだった。


泣いたことで少し落ち着きを取り戻した真咲妃を一章は寝室に連れて行き、ベッド横に寝かせ布団を掛けてやる。


「少し眠って……」


「そばにいて!お願い、ずっとそばにいて」

一章の手を痛いほどの握りしめ真咲妃は懇願した。


あんなに気が強い真咲妃の弱さに触れ一章は胸が締め付けられた。

「そばにいますよ、安心して。さあ少し眠って」


真咲妃は一章の手を握りしめたまま目を閉じるとすぐに眠ってしまった。


規則正しい寝息をたて静かに眠る真咲妃の寝顔は少しやつれて見える。

一章は悲しそうな顔で涙の跡が残っているその頬を指で撫でた。


「真咲妃さん……ごめん。頼りなくて」


知らなかったとはいえ真咲妃を助けれなかった自分の不甲斐なさに一章は哀しんだ。



真咲妃が目を覚ますと部屋には料理のいい匂いが漂っていた。

キッチンからシャツ袖をまくった一章が顔を出した。


「あっ起きましたか?すみませんが冷蔵庫勝手に開けさせてもらいました」


一章はベッドの横にあるテーブルに料理ののった皿を運んできた。正直真咲妃はあまりお腹が空いていなかった。しかしテーブルに並べられた美味しそうな料理にお腹が鳴った。


「一人暮らしが長いので、こう見えても多少料理は出来るんですよ。真咲妃さんの手料理にはかないませんけど。このままじゃ、真咲妃さんが倒れてしまう。お口にあうかわかりませんが少しでも食べて下さい」


そう言われスプーンを手にとりスープを口に運んだ。

「美味しい」

真咲妃は笑って一章をみた。頬を涙がこぼれ落ちた。

「あっ、口にあいませんでしたか?」


一章は真咲妃の涙に慌てた。


「ううん違う、嬉しいの。一章が来てくれて、一章が居てくれて」

真咲妃は泣きながら笑った。


お腹が空いてないはずだったが気がつくと出された料理全てを食べ終わっていた。



その夜、真咲妃は一章の隣で久しぶりにぐっすりと眠った。



翌朝遅めの朝食を食べていると「これから10日間真咲妃さんと一緒にいます」と一章が突然言い出した。


「会社は!?」


「今までたまっていた有給があるんですよ」


「大事な有給をなんでこんな時に使ってるのよ」



「こんな時だからです。真咲妃さんのそばについていたいからです」



「バカじゃない?」



「ははっ。いつもの真咲妃さんに戻ってきましたね」

一章が笑うと真咲妃もつられて笑った。





その後二人は近場の温泉にいったり買い物をしたり。

真咲妃が一度行ってみたいと言ったテーマパークにも足を延ばした。

そして時には一歩も部屋から出ずに一日中パジャマのままゆっくりとした日もあった。


真咲妃は久しぶりに笑った気がした。大好きな一章に腕を絡ませて大きな口で笑ったり、時には口げんかをしたり。


いっぱいキスもした。

夜は数回一章に愛され、それ以外の日も必ず一章に抱きついて寝た。


この10日間、真咲妃は片時も一章から離れず、少ない二人だけの時間を大切に使い心の傷を癒していった。




一章と過ごしてから1週間後、真咲妃は仕事を再開した。


紫織には「もう少し休んだら?」と言われたが、あまり休むとお店に迷惑が掛かると言って店にでた。


あの時一緒だった同僚も店のボーイも他のキャスト達も心配してくれた。

「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。あたしはこの通り元気になりました。またよろしくお願いします」

真咲妃は笑顔で頭を下げると皆から拍手を貰い、早速その日から仕事を始めた。



「アンナちゃん」


客に呼ばれた時ドキッとした。あの男の声が頭をよぎる。

青ざめている真咲妃を心配して紫織は「アンナちゃん本当に大丈夫?」と声をかけた。


「すみません。ちょっとめまいがしただけです」

真咲妃は閉店するまで頑張った。



本当は怖かった。

あの男じゃない。

ここにあの男はいないと自分に言い聞かせた。


しかし客に『アンナちゃん』と呼ばれる度に背筋が凍りつくようだった。



一章の声が聞きたい。


一章の『真咲妃さん』と言う声が聞きたい。

でも、電話なんかしたら一章が心配する。一章のことだ。心配して絶対にこっちに来てしまう。



真咲妃は携帯を握りしめて泣いた。






夜9時過ぎ、仕事を終えた一章が部屋に帰るとドアの前に誰かがいた。

そこにいるはずのない真咲妃の姿が目に入った。


「真咲妃さん?」


「来ちゃった」


「手が冷たい。いつからそこに……。とりあえず中に入って」


真咲妃を部屋に招き入れ暖房をつけると、温かい飲み物を手渡した。

「あったかい……」


飲み物に口をつけ真咲妃はホッと息を付いた。


「ごめんね、突然。……仕事辞めてきた」

真咲妃は正直に言った。



「やっぱりダメだった。あの名前を呼ばれる度に怖く怖くて……。紫織ママには悪いけどあの名前は捨ててきた」


その温かさを冷たい手に移動させるように手の中のコーヒーカップを両手で包み込みながら一章の顔を見た。


「一章に名前呼ばれるとすごい安心するの。ねえ、名前呼んで」


一章は微笑むと真咲妃を抱き寄せた。


「真咲妃さん、頑張ったんですね。真咲妃さん、真咲妃さん、真咲妃さん……」

暖かい胸に抱かれ真咲妃の潤んだ瞳から涙が落ちた。


「ねえ……忘れさせて。あの事を忘れさせて一章」


「真咲妃さん……」


「お願い」



一章はまだ冷たい真咲妃の頬に触れ大きな手で頬を包み込んだ。真咲妃は持っていたカップを置き、その手に自分の手を重ね頬ずりをしキスをした。


二人の唇が二度三度と触れそして長いキスをし二人は身体を重ねた。


二人は時を忘れ何度も身体を重ね愛し合った。あの事件を忘れるように、忘れさせるように……


真咲妃の身体には一章の愛の印がいくつも付けられた。




「ごめんね」


ベッドの中で一章に抱きしめてもらいながら真咲妃は謝った。


一章は何も言わずただ抱き締めていてくれた。



「……明日の朝、一章と一緒に出てそのまま帰るから」


「しばらくこっちに居れば?」


一章がキスをしながら言ってくれた。



「ううん、帰ってちゃんと仕事見つける。一章に甘えてばかりいられないもん……」



次の日の朝、一章は会社へ真咲妃は帰るために最寄りの駅まで歩いた。


電車内では他愛のない話をしそろそろ一章が降りる駅が近づいてきた。


「仕事決まったら連絡するね」


「はい。頑張ってくださいね」


ドアが開き一章は電車から降りた。

真咲妃は動き出すまで手を振り一章も軽く手を振ってくれた。


その先の乗り換え駅へと向かった真咲妃は新幹線へ乗り換えて自分の街へ帰って行った。






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