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番外 一章の秘密2

二人が結婚して五年が過ぎた。


真咲妃の言ったとおりまだ子宝には恵まれなかったが、それでも二人は充分幸せな時間を過ごしていた。



今日は一章の仕事が珍しく定時に終わり、真咲妃の店も半年に一度の棚だしで午前中に店を閉め定時には仕事が終わっていた。

一章からメールがありその日は帰りに外で待ち合わせをしてデートをする事になっていた。


真咲妃はこうやって突然やってくる平日デートが好きだった。


待ち合わせ場所にはどちらかが少し遅れてくる。それに気づきなぜか照れながら小さく手を振る。そして手を繋ぎながらのデートが始まるのだ。


いつも一緒に家をでるデートよりもなぜか新鮮な感じがして、しかも外で見る一章のスーツ姿がまたかっこいい。

その姿を見て真咲妃はまた一章を惚れ直してしまうのだ。




「あたしの方が早く着きそうだから待ってるね」


メールを送信し携帯を鞄にしまい、にんまりとして歩いていると「ヒュー」と口笛が聞こえた。



振り返ると見るからに柄の悪そうな数人が真咲妃を見てニヤニヤしいる。


真咲妃がそれを無視して歩いていくと突然後ろから腕を掴まれた。


「なんだよねーちゃん、無視かよ」


「離して」



真咲妃は掴まれた手を振り払おうと腕を振ったが男は手を離さなかった。



「顔もだけど声も可愛いな」

真咲妃の姿を頭の先からつま先まで舐めるように見て男はごくっと唾を飲んだ。


真咲妃は小柄で見た目が若いせいか、結婚後も1人で街を歩いているとよく声を掛けられる。


全ての声掛けには無視しているが、時にはしつこくこうやって絡んでくる人もいてうんざりしていた。



「これからデート?」

「なーなー、俺らと仲良くしよーぜ」

真咲妃は馴れ馴れしく腕を掴んでくる俺を睨んだ。


「離して!」

語尾を上げキツメに言うと思いっきり腕を振り払う。すると男の手は真咲妃の腕に指の痕を残して離れた。


「おい、お前いい気になりやがって。調子乗ってんじゃねーよ」


男たちは立ち上がり今度は振り払っても簡単には離れないような強い力で手首を掴むと、嫌がる真咲妃を無理やり路地に引っ張っていった。




仕事帰りスーツ姿の一章が待ち合わせの場所にいくと、先に着いているはずの真咲妃の姿が見あたらなかった。



さっきメールで

「もう着きそうだから待ってる」

と言っていたのに。


トイレにでも行っているのかと思いながらも、真咲妃を探しながら携帯に掛けてみた。


一本裏の路地にさしかかった時、そこから真咲妃の着信音が聞こえてきた。

その路地裏はあまり友好的な雰囲気ではない。



なんでここから?



その暗い路地を覗き込んだ一章の目に数人の人影が映った。


「おい、何見てんだよ!見てんじゃねーよ!」


佇む人影に気がついた路地の男が一章に向かって怒鳴った時、

「離してよ!」

という声が聞こえた。


その声に振り向いた一章の瞳に、男の奥に隠れた真咲妃の姿が目に入った。




「てめぇら何してんだ!」


一章は瞬時に冷静さをなくし走ってくると真咲妃に手をかけている男に殴りかかった。普段の姿からは想像できない一章がそこにいた。


一章は男の上に馬乗りになり何度も何度も男を殴った。真咲妃が呆然としている前で一章は男を殴り続け、男が鼻から血を出していても一章の手は止まらなかった。その目は鋭く冷たい目をしていた。


周りにいた男が、仲間を殴り続ける一章に後ろから襲いかかる。1人の手には光るものが握られている。


「一章!」

一章は振り向きざまに長い足を襲ってきた男の腹にめり込ませた。


「うっ!」

男の手から離れたナイフが飛び一章の顔をかすめた。

蹴られた男は後ろに倒れ込んで腹を押さえ呻き声をあげ、更にもう一人の男も一章の回し蹴りが入りゴキッいう音と共に腕を押さえながら膝をついた。


最初に殴られた男は完全に伸びてしまっている。



その様子を見て、残りのひとりは恐れをなして逃げていった。



「真咲妃!」


いつもとは違う少し危険な雰囲気の一章は冷静さを失ったまま愛する妻の名を呼び、駆け寄ってくると真咲妃を強く抱きしめた。


「大丈夫か?」



顔にはかすめたナイフによってついた傷から血が滲んでいたが、その他に傷一つ負わず三人をあっという間に片付けた。真咲妃はいつもと全く違う一章を見て言葉が出なかった。


見ると真咲妃の膝からは少しすりむいたのか血がにじんでいた。

「血が出てる」

「これくらい大丈夫」


真咲妃が立ちあがった時、足首に痛みが走った。

「つっ……」


「足、痛めたんですか?」


「さっきちょっとひねったみたい」


肩を借りて立ち上がろうとしたその時、さっき逃げていった男が数人の男達を引き連れて戻ってきた。



「ヤスさん、あいつです!」

男は一章を指差し、連れてきた兄貴分らしき男に声を荒げて言った。


ヤスと呼ばれた男は指差した下っ端の男を脇にどけると、数人の男達を引き連れて一章達に近寄ってきた。


ちょうどビルの影にいる二人の顔は向こうからは見えない。



どうしよう……

こんな大人数、さすがにあんなに強い一章でもひとりでは無理だよ。

あたしが相手にしなければこんな事にはならなかったのに。



恐怖で震えてる真咲妃の肩にスーツの上着を掛けると一章は優しく微笑んで声をかけた。その顔はいつもの優しい一章だった。

「ちょっと待ってて下さい」


一章はスッと立ち上がると真咲妃に背を向けて男達に向かって歩き出した。

その時表情がスッと変わりさっきの鋭く冷たい表情になっていた。



(一章!)

口を開くが恐怖で声が出なかった。

(お願い!誰か助けて!)




「お前か?俺の仲間に手を出したのは?あ?」

先頭を歩く男が言いながら近づいてくる。ドスの聞いた低い声が真咲妃の耳にも届いた。

ヤスの後ろに従って歩いている男達はヤスの一言で今にも一章に飛びかかりそうな目をしている。


一章は何も言わず男達を睨みながら歩いていき二人の距離は縮まっていく。


ビルの間から射す月の光が一章に当たりその容姿が男達の目にもうつしだされた。


すると近づいてきていた先頭のヤスと呼ばれていた男の足がピタッと止まった。

突然歩みを止めたヤスを後ろの男達は怪訝な目でみて声を掛けた。

「ヤスさん?どうしたんすか?早くやっちまいましょうよ」


「おい!」

自分を呼びにきた下っ端の男がヤスの元へやってきた。

「本当にこの人か?」

「間違いないです。コイツです」

一歩前に出て一章を指差した男の顔にヤスの拳が当たり、男は鼻血をだしながら後ろに転がった。


「!」



「一章さん、いつこちらに」

ヤスは足を止めたまま目の前にいる一章に声を掛けた。後ろにいる男達もヤスの言葉に驚き、お互いの顔を見ながら目の前の男を見つめた。



え?どういうこと?

真咲妃は訳が分からずその会話を聞いていた。



「ヤスか……。通りかかっただけの女性にコイツらが手荒なことしててよ。体で教えといたよ。お前の仲間だろ、教育がなってねーんだよ。お前の責任だぞ?分かってるか?」

ヤスは青ざめた顔で深く頭を下げた。


「申し訳ありませんでした!自分の指導が行き届いていませんで……」


「しかも俺の女に手ぇつけやがって……ただですむと思うなよ」


「一章さんの……彼女……ですか!?」

「ああ、そうだよ。彼女は俺の嫁だ」


一章の握りしめた左薬指には真咲妃とお揃いの指輪が血で汚れていた。


「……奥さ……ん?」


怒りのオーラが出ている一章をヤスとその後ろにいる男達は黙って青ざめ震えているしかなかった。


一章は体の力を抜いた。

「……俺はもうこんなことに巻き込まれるのはごめんだ。ヤス、こんなことが二度とないようにしっかり教育しとけ!!」

一章は怒りに震える体をどうにか落ち着かせ低いがはっきりと聞こえる声で目の前の俺たちを一蹴した。


「ももも申し訳ありませんでしたぁぁ!今後このような事が二度とないようにしっかりと指導します」



「謝れ」

「え?」

「彼女に謝れ」


ヤスは鼻血を出して転がっている男と地面に転がっている男達を真咲妃の前まで連れて来ると深々と頭を下げさせた。

「すみませんでした!」


その勢いに真咲妃は「い、いいえ」としか言えなかった。




一章は振り返り、座っている真咲妃の前までやってくるとひょいと真咲妃をお姫様抱っこをして持ち上げた。



「きゃっ、何?」


「足痛めてるでしょう」


「歩けるよ。下ろしてっ」


「ダメ、車まで運びます」


そう言う一章の顔はいつもの優しい顔だった。

一章は男達が開けた道の真ん中を真咲妃を抱きかかえながら歩いていった。






「ただいま」


仕事から帰ってきた一章はリビングへ行き、カウンターキッチンで夕食の支度をしている真咲妃に声をかけた。


「病院行った?」


「うん、軽い捻挫だって」


手に皿を持ちキッチンから出てきた真咲妃の足首には白い包帯が巻かれ膝には絆創膏が張られていた。



「ねえ、昨日の一章といつもの一章でどっちが本当の一章?」


二人は夕食を食べながら昨日のことを話していた。


「俺は1人ですよ。真咲妃さんには見せたくない姿だったけど仕方なかった。昨日の俺も俺」


「一章強いんだね……でも昨日の一章、ちょっと怖かった……」


「悪い時期があって……ごめん」


「悪い時期ってこの間、健人さんに見せてもらった写真の頃?」



「ええ、恥ずかしながら……。ここは俺の地元だから昔の俺を知ってる奴は少なからずいるんです。俺のせいであんな怖い思いをさせてごめんなさい。でも真咲妃さんに危害を与える全てのものから俺が身を挺して守りたいんです」


真咲妃は頬に残る昨日の傷に触れて「ん、ありがとう。でもあんな無茶もう止めて」

と一章の目を見ていった。

一章は黙って頷き約束してくれた。




その後は二度と、ちょっと悪目の男達に声を掛けられることはなかった。


それどころか、あの時一章にボコボコにされた数人が真咲妃を見かけると「姐さん」と呼んでくるようになってしまった。



「ねえ…一章……」

流石に「姐さん」には困ってしまった真咲妃は一章に相談した。


一章は真咲妃から話を聞くとため息をついてうなだれた。

「はあ……バカかあいつらは。今度言っておきます」


「ごめんね。もう関わりたくないのに」



一章は申し訳ないようにしている真咲妃を抱きしめながら首を振った。

真咲妃は胸に顔をうずめてうっとりと目を閉じた。


「暖かい……一章の匂いがする。頼りになる一章が大好きだよ」

背中に手を回してつぶやいた。


「愛してないの?」

抱きしめられたたまま一章にそう聞かれた。

「ふふっ、愛してるよ一章。好き大好き愛してる」


「俺も真咲妃さんを愛してる。笑った真咲妃さんも泣いてる真咲妃さんも、凄い顔で怒ってる真咲妃さんも口を開けて寝てる真咲妃さんも全部愛してる」


「ちょっと、口開けてってそんな……」

顔を赤らめた真咲妃はぷーっと頬を膨らました。

「一緒にいるから見られる真咲妃さんのいろんな表情が見れて俺は幸せ者ですね」


「あ、あたしだって一章が知らない一章知ってるんだから!」


「ほう、それはどんな俺ですか?」


唇が付きそうなくらいぐっと顔を近づけ一章は言った。


「うっ……教えてあげない!」

「じゃあ、教えてくれるまで離さない」

「いいよ」

お互いにぎゅっと抱きしめあいながら二人は微笑んだ。



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