いつでも本気
「どうだった結婚式?」
「うん。よかったですよ」
あの新田が結婚した。
出会って3ヶ月のスピード婚だったらしい。
「俺は本当の女神を見つけた!彼女ほどの女性は他にいない」
相変わらずの発想でみんなにこう宣言し、外国人がやるようにひざまずいて彼女の手にキスしたらしい。
周りはちょっと引いていたらしいが当人たち(特に新田)はいたって大真面目。
「あの二人似た者同士でお似合いだな」
「あの新田についていける嫁さんは最強だな……」
藤井と一章は口を揃えて言った。
その話を聞いて「相変わらずロマンチストなんだね」と真咲妃は笑った。
「花嫁さん綺麗だったでしょう?ガラじゃないけどあたしも結婚式って憧れてるんだよね。一応女だから」
「真咲妃さんはやっぱり白ドレスですか?カラフルなカクテルドレスも似合いそうですね」
「えっ?何言ってんのよ〜」
顔を赤くして一章をつついた。
お互いに少し照れながら頭の中に『結婚』の二文字が回っていた。
一章が熱っぽい目で真咲妃を見た。
「真咲妃さん……」
真咲妃は一章の言葉を遮るように口を開きこう告白した。
「あたし結婚できない……」
突然の言葉に一章は顔を曇らせた。
「えっ?何で?」
「ごめん」
真咲妃はそれしか言わなかった。
「結婚出来ないって?」
「あのね……あたし、子供ができにくい体なんだ。一章に赤ちゃん抱かせられないかもしれない。だから、結婚はちゃんとした体の人としなよ」
伏せ目がちに言う真咲妃は寂しそうな顔で微笑んだ。
「なんですかそれ?」
一章は机の上の真咲妃の手をぐっと握ると少しきつめな声で少し怒ったような顔をした。
「だってしょうがないじゃない。子どもが満足に産めないこんな体の女と一緒になったら一章がかわいそうだもん」
「子どもが欲しくて俺は真咲妃さんと一緒にいるわけじゃない。俺には真咲妃さんが必要だから一緒にいるんです」
「あたしだって一章がいないと何も出来なくなっちゃったよ。でも……」
少し気まずいままその日は別れた。
少し会う間があき、10日振りに一章は真咲妃の部屋を訪れた。
なんとなくぎこちない2人は無言でいた。
目を合わせられず、少し離れた場所からちらちらと一章の表情を見てしまう。
すると目が合ってしまった。
一章はふーっと息を吐くと「これじゃあ話が出来ませんよ真咲妃さん」
部屋を横切り真咲妃の正面に座って手を握った。
「これからは俺が真咲妃さんを守ります、いや、守らせて下さい。……真咲妃さん好きです愛してます。結婚してください」
「あたしだって一章と結婚したいよ。だけど……」
そこまで言うと真咲妃はうつむいてしまった。
一章はその顔を両手で挟んで目を合わせた。
「ねえ真咲妃さん、俺は今でも充分幸せです。でももっと一緒にいたい、朝も昼も夜も。夜は真咲妃さんの寝顔を見ながら寝て朝は真咲妃さんに送り出してほしい。子供がいなくてもいい。真咲妃さんがいてくれればそれでいいんです」
真咲妃は目を離さずじっと一章を見据えて言った。
「今はそれでいいかもしれない。でも周りも結婚して子供が増えてくると一章も子供が欲しくなるかも。
例え子供が出来たとしてもずっと先になるかもしれない。もしかしたら一生子供は無理かもしれない。本当にそれでいいの?」
目に涙を溜めてこの間言えなかったことを全て一章に言った。
「真咲妃さんがいてくれればそれでいいんです。
真咲妃さん愛してます。結婚してください」
一章はさっきと同じことを真咲妃の目を見ながらもう一度繰り返し微笑んだ。
「あたし……あたしも……」
「『あたしも』なんです?」
「あたしも一章と同じ」
「同じじゃわかりませんよ。ちゃんと言って下さい」
「言わなくても分かるでしょ」
「いえ分かりません。さあなんですか?」
「あ、あたしも……一章が…………す……す、好き」
「声が小さくて聞こえませんね」
一章は悪戯っぽく笑い真咲妃の顔を覗き込んだ。
「……あたしも一章が好き。これからもずっと一緒にいたい。一章のお嫁さんにして下さい」
真咲妃は真っ赤になってそう言うと顔を伏せた。
「よく言えました。俺は真咲妃さんを愛してますけどね」
満足げににっこりすると泣き笑いの真咲妃を抱きしめキスをした。
ベッドの中で抱き合いながら顔を突き合わせてる二人は、誰かに聞かれてはいけないかのように小声で話していた。
「ねえ…いつから?」
「え?」
「いつからあたしの事好きだったの?」
「言ったじゃないですか、一目惚れだって」
「あれって嘘じゃなかったの?」
「俺はいつでも本気ですよ」
結婚して8年目。
「ただいま」
「おかえりー」
「なに?」
「えっ?」
「何か言いたげな顔してる」
一章は真咲妃の顔を覗き込んで手のひらで頬に触れた。
「一章には隠し事できないね。えっとね……赤ちゃん……ができま…した」
真咲妃はお腹に手を当て照れながら微笑んだ。
一章は顔をほころばせると笑って報告する真咲妃をだきしめた。