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オッカムの剃刀(が、成立しない場合) ~例えば、ロケット婆ちゃんとか

 あなたは夜道を車で走っている(としよう)。その道は山道で、蛇行している。辺りは闇で、見通しは良くない。車のライトに照らされて見える灰色の道路が、急速に背後に流れていく。木々。夜の景色もそれに引きずられるようにして背後へ。

 あなたはその流れていく夜の景色の中に、突如奇妙な存在を見つける。初め、それが何なのか分からないが、よく見るとそれが老婆である事が分かる。腰の曲がった老婆だ。あなたは一瞬、冷たいものを感じるが、直ぐに自分を落ち着けると、運転に意識を集中した。

 夜の山道であったとしても、老婆が通るくらいあるだろう。別に恐がるようなことじゃない。

 しかしあなたは運転を続けるうちに、また戦慄する。また老婆を見かけたからだ。しかも、見間違いでなければ、さっきと同じ老婆に見える。

 あなたの頭はそれで軽く混乱する。一体、どうしてこんな事が起こったのかと、理性的な回答を求める。あなたはまずこう結論付ける。

 あれはただの目の錯覚だ。きっと、俺は看板か何かを見間違えたんだ。だが、

 三度、老婆の姿があなたの視界に入る。見間違えではない。今度ははっきりとその姿を認めた。

 それで、あなたの心臓は激しく鳴る。ハンドルを握る手はじんわりと汗ばむ。あなたは自分を落ち着ける為に、いくつかの仮説を考える。


 一、

 あの老婆には、ワープ能力があり、歩いてはワープを繰り返している。歩いている時に、俺の車とすれ違っている。

 二、

 あの老婆は、改造手術を受けた強化人間で、高速で走る車よりも速く走れる。夜の闇にまぎれて俺の車を追い越して先にいる。

 三、

 老婆は実は三つ子で、お互いが喧嘩した後で距離を取って道を歩いている。


 もちろん、あなたはそれらの考えを否定する。もっと単純かつ、有り得る仮説があるはずだ。

 オッカムの剃刀。

 同じ情報から、複数の仮説が導ける時、もっとも単純な仮説を採用すべきという決まり事のようなもの。

 そして、あなたは次にこんな仮説を考える。

 実はあの老婆は、近道を知っているのではないか? この道は蛇行している。車は通れないが実は直線に近い感じで人だけが通れる道があるのかもしれない。近道を知っている老婆は、蛇行している道を走っている俺と何度もすれ違うのだ。

 そう結論付けると、あなたはようやく自分を落ち着ける事ができた。そして、視界の向こうにライトに照らされて、また老婆の姿があるのを見つける。

 あなたはこう思う。

 もう大丈夫だ。謎は解けた。しかし、

 あなたはバックミラーで見てしまったのだ。通り過ぎた老婆が、おもむろにクラウチングスタートの構えを取るのを。そして、それから老婆はスタートダッシュを……。

 しかし、それから先をあなたは見る事ができない。再び汗をかく。そして、

 まさか、二なのか? 答えは二なのか?

 そう頭の中で連呼する。

 夜の闇に紛れて、車の横を何かが物凄いスピードで通り過ぎたような気がした。


 オッカムの剃刀は、飽くまで情報が集められない状況下でのみ有用なもので、新たな隠れた情報を見つけてやれるのならば、わざわざ使う必要はありません。

二人称小説を本人は書いてみたつもりでいます。

実験的に、ですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] おばあちゃん何やってんの(笑) と思わず突っ込んでしまう作品でした。
[一言] 二人称小節ってこういうのを言うんですか! いやしかし笑いました。 クラウチングスタートをする老婆が出てきた瞬間全てが崩れました。 拍手!
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