第40話 武具迷宮の入口――結晶獣と最初の試練
翌朝。
エルセリアの町を出発した黒瀬恒一たち六人は、北東の山地へと続く街道を進んでいた。
空はよく晴れている。町を離れるにつれて人通りは減り、やがて街道の両側には背の高い針葉樹が立ち並ぶようになった。
先頭を歩くコハクが、鼻をひくつかせた。
「この先、ちょっと変な匂いがする」
「魔物の匂いか?」
「ううん。魔物もいると思うけど、それより……石と金属が混ざったような匂い。古い遺跡の近くで嗅いだことがあるよ」
コハクの獣人としての感覚は、これまで何度も仲間たちを危険から救ってきた。
恒一は足を止め、周囲を見渡した。
「エレナ、何か見えるか?」
「はい。前方の斜面に、人工物らしきものが見えます。木々に隠れていますが、石造りの壁のようです」
エレナが弓を構えたまま、目を細める。
「それと……鳥の姿が少ないですね。森の奥から、ほとんど鳴き声が聞こえません」
「魔物の生息域が変わっているという話と関係があるのかもしれませんね」
セレスが杖を握り直した。
「断定はできない。まずは入口を確認しよう」
恒一の言葉に、全員がうなずいた。
さらに進むこと三十分。
木々が途切れた先に、それは姿を現した。
山の斜面に埋め込まれるように造られた、巨大な石造りの建造物。
入口は高さ五メートルほどもあり、左右には鎧をまとった騎士を象った石像が立っていた。壁面には、剣や槍、弓、杖を思わせる古代文字の彫刻が刻まれている。
入口の中央には、円環の中に六つの星を配置した紋章があった。
恒一は、思わず息を止めた。
見覚えのある意匠だった。
北東の石橋の地下施設。
森の中で見つけた石柱。
そして、以前から調査している古代施設に刻まれていた紋章。
どれも、円環と六つの星という特徴が共通している。
「恒一?」
リゼリアが、彼の表情の変化に気づいた。
「この紋章、以前の遺跡で見たものと同じだ」
「やはりそうなのね」
リゼリアの赤い瞳が、紋章を捉える。
「ここも、空間に関係する施設なのかしら」
「可能性はある。でも、今は決めつけない方がいい」
恒一はそう答えながら、胸の内で警戒を強めた。
この迷宮が空間に関係しているなら、恒一の能力にも何らかの影響が及ぶかもしれない。過去の施設でも、異常な魔力反応が空間操作を乱すことがあった。
「ここで確認しておこう。俺の空間操作は、どんな状況でも使えるわけじゃない。異常を感じたら、能力に頼らず撤退することも考える。無理に奥へ進まないこと」
「わかってるよ、恒一」
コハクがうなずく。
「危なくなったら、まず安全な場所を探す。いきなり飛び込まない」
「そうだ。それと、俺の異空間について聞かれたら、必要なことだけ答える。余計な情報を自分から話す必要はない」
五人は、その意図を理解していた。
ギルドも恒一が特殊な空間能力を持つことは知っている。だが、その能力の詳しい仕組みや、恒一が出入りできる小さな固有異空間については、広く知られるべきではない。
まだ不安定な能力を安全に使える保証はないし、詳しいことが知れ渡れば、利用しようとする者が現れる可能性もある。
「秘密は守るわ、恒一」
リゼリアが静かに言った。
「あなたの力を、他人に好き勝手に利用させるつもりはないもの」
「うん。恒一が困るようなことはしないよ」
コハクも真剣な顔で続けた。
「それじゃ、行こう」
恒一は石造りの扉へと近づいた。
扉の中央に手を触れる。
すると、六つの星の紋章が、青白く輝いた。
低い振動音が響き、巨大な扉が左右に開いていく。
その奥には、地下へと続く幅広い階段が伸びていた。
◇
迷宮内部は、外見から想像した以上に整然としていた。
壁には一定間隔で青い魔力結晶が埋め込まれ、床には金属製の線が複雑な模様を描いている。
天井は高く、馬車が二台並んでも通れそうなほど広い通路だった。
「自然にできた洞窟ではありませんね」
セレスが壁面の刻印を確認する。
「建築技術も、魔法の組み込み方も、現在の一般的な遺跡とは異なっています。相当高度な文明が関わっていたようです」
「この床の線は、魔力の伝達路でしょうか」
フィリアはしゃがみ込み、測定器を近づけた。
「微弱ですが、今も魔力が流れています。完全に停止した施設ではないようですね」
「不用意に触るなよ」
「もちろんです。観察だけにします」
そう答えながらも、フィリアの目は好奇心で輝いていた。
恒一たちは慎重に進んだ。
最初の分岐点では、コハクが床に残された細かな傷を見つけた。
「ここ、何かが通った跡がある。しかも、かなり重いもの」
「車輪の跡か?」
「ううん。足跡だよ。でも、普通の生き物の足跡とは違う。爪の跡がないのに、床が深くへこんでる」
恒一は腰を落とし、傷を観察した。
床は石材と金属を組み合わせた構造だ。それがへこむほどの重量なら、相当な力を持つ存在が通ったことになる。
エレナが弓を構え直した。
「前方、何かいます」
通路の先に、青白い光が浮かんでいた。
最初は大きな結晶の塊に見えた。
だが、光が近づくにつれ、その形が変化していく。
四本の脚。
獣のような胴体。
頭部には、角の代わりに鋭い結晶が幾重にも伸びている。
全身を覆う透明な外殻の奥で、青紫色の魔力が脈打っていた。
フィリアが息を呑んだ。
「結晶獣……! 事前の報告にあった個体かもしれません」
その瞬間、結晶獣の頭部がこちらを向いた。
赤い光が二つ、暗闇の中に灯る。
次の瞬間、獣の身体が低く沈んだ。
「来るぞ!」
恒一が叫ぶと同時に、結晶獣が突進した。
巨体からは想像できない速度だった。
「リゼリア、正面を頼む! コハクは側面へ。エレナ、脚を狙え!」
「任せて!」
リゼリアが前へ出た。
剣を抜き、結晶獣の突進を斜めに受け流す。
激しい金属音が響き、彼女の足元の床に亀裂が走った。
「重いわね……!」
結晶獣は体勢を崩しかけたが、すぐに脚を踏み直した。
リゼリアの剣が、その前脚を斬りつける。
しかし、刀身が触れた瞬間、奇妙なことが起きた。
剣に宿っていた赤い魔力が、結晶獣の外殻へ吸い込まれていく。
「何っ……?」
リゼリアが剣を引く。
結晶獣の身体が青白く輝いた。
「魔力を吸収しています!」
フィリアが叫んだ。
「武器に流した魔力まで奪っている可能性があります! これ以上、魔力を込めた攻撃を続けるのは危険です!」
「リゼリア、いったん距離を取れ!」
恒一の声に、彼女は即座に後退した。
結晶獣は追撃しようとしたが、コハクが横から飛び込む。
「こっちだよ!」
短剣が、後脚の関節を狙う。
刃が外殻の隙間に入り、わずかな傷を刻んだ。
しかし、コハクが短剣を引いた瞬間、彼女の腕にまとわりつくように青い光が走った。
「うわっ、何これ!」
「コハク、離れろ!」
恒一は反射的に空間操作を使い、彼女が逃げるための一瞬の隙を作った。
コハクは自分の足で後方へ跳ぶ。
彼女のいた場所を、結晶獣の尾が叩き潰した。
石片が飛び散り、通路の壁に激突した。
「助かった、恒一!」
「無理に斬り続けるな! あいつは攻撃を受けながら、こっちの魔力を吸収している!」
恒一は敵の動きを観察した。
結晶獣の外殻には、傷がついている。
しかし、吸収した魔力が流れ込むたび、傷の周囲が青白く光り、わずかに修復されていた。
攻撃すればするほど、相手を回復させてしまう。
単純な力押しでは不利だった。
「エレナ、魔力を込めずに矢を放てるか?」
「通常の矢なら可能です。ただ、硬い外殻を貫けるかどうか……」
「まずは脚の動きを止めてくれ。フィリア、吸収能力の仕組みを見てほしい。セレスは全員の防御を優先してくれ!」
「了解!」
エレナの矢が放たれた。
風の魔法をほとんど使わず、弓の反発力だけで飛ばした矢が、結晶獣の前脚の関節へ向かう。
矢は外殻に弾かれた。
だが、結晶の薄い隙間に先端が食い込み、脚の動きが一瞬だけ鈍る。
「今です!」
セレスが杖を掲げた。
淡い光の障壁が、結晶獣の突進方向に展開される。
獣の巨体が障壁にぶつかり、軌道がわずかに逸れた。
そこへ、リゼリアが再び踏み込む。
今度は剣に魔力を流さない。
刃そのものを使い、結晶の継ぎ目を狙う。
硬い音とともに、外殻の一部が欠けた。
「魔力を込めなくても、傷はつけられるわね!」
「ただし、刃の耐久性には気をつけてくれ!」
「わかっているわ!」
結晶獣が咆哮した。
全身の結晶が明るく輝き、床の金属線から青い光が流れ込んでいく。
フィリアが顔色を変えた。
「まずい! 床からも魔力を吸い上げています! この場所そのものを利用して、力を増幅しているようです!」
「なら、ここで戦い続けるのは危険だな」
恒一は周囲を見渡した。
通路の奥には広い空間がある。だが、そこまで誘い込めば、敵がさらに魔力を吸収する可能性もある。
逆に、入口側へ戻れば、通路の幅を利用して動きを制限できる。
「全員、入口側へ後退! 敵を奥へ追い込むな!」
六人は連携しながら後退を始めた。
コハクが牽制し、エレナが通常の矢で足元を狙う。セレスは障壁を必要な瞬間だけ展開し、フィリアは魔力の流れを記録していた。
リゼリアは敵の正面を保ち、恒一は仲間たちに声をかけながら、空間固定を使うべき瞬間を見極めていた。
だが、結晶獣は簡単には追ってこなかった。
突然、四本の脚を止める。
頭部の結晶が一斉に輝いた。
「何をするつもり……?」
エレナがつぶやいた直後、結晶獣の周囲に青紫色の光球がいくつも現れた。
「全員、防御!」
光球が弾ける。
魔力の衝撃波が通路を駆け抜け、床の金属線が一斉に光った。
恒一は反射的に空間固定を発動した。
しかし、衝撃波そのものを完全に止めることはできなかった。
空間が軋むような感覚。
視界が歪み、恒一の頭に鋭い痛みが走った。
「くっ……!」
「恒一!」
リゼリアが駆け寄ろうとしたが、彼は片手を上げて制した。
「大丈夫だ……空間固定を続けると、逆に負荷が増える。全員、障壁の後ろへ!」
セレスが障壁を展開する。
衝撃波の大半は逸らされたものの、破片が飛び、エレナの腕に浅い傷がついた。
「エレナさん!」
「大丈夫です。かすっただけです」
セレスはすぐに傷を確認した。
幸い、深くはない。
だが、結晶獣の攻撃が単なる物理的な衝撃ではなく、空間操作にも影響を及ぼす性質を持つことは明らかだった。
恒一は呼吸を整えながら、空間収納や固有異空間への出入りも、この場所では慎重に判断する必要があると考えた。
無理に能力を使えば、戦闘を続ける余力まで失いかねない。
「異空間への退避は、今は考えない。ここで無理に使わず、まず敵を退けて、安全な場所まで戻る」
リゼリアは一瞬だけ不安そうに彼を見たが、すぐにうなずいた。
「わかったわ。あなたの判断に従う」
「私たちも同じです」
セレスが続いた。
コハクは短剣を握り直す。
「じゃあ、ここで何とかするしかないんだね」
「そうだ。ただし、倒すことだけにこだわるな。退路を確保しながら、敵の弱点を探す」
恒一は敵の外殻を観察した。
結晶獣は魔力を吸収し、傷を修復する。
床の魔力線を使って増幅する。
さらに、空間操作に影響を及ぼす反応まで示した。
だが、攻撃を受けるたびに、頭部の中央にある大きな結晶が強く輝いていた。
あれが吸収した魔力を集める核なのかもしれない。
「フィリア、頭部の結晶を調べてくれ。あれが魔力の集積点じゃないか?」
「可能性は高いです。ただ、魔力を吸収している最中に破壊しようとすると、反動が発生するかもしれません」
「なら、吸収を止める方法を探そう」
フィリアは測定器を確認し、床の金属線へ視線を向けた。
「……待ってください。魔力は床から結晶獣へ一方的に流れているわけではありません。吸収する直前、ほんの一瞬だけ流れが逆転しているように見えます」
「逆転?」
「はい。結晶獣が魔力を取り込む瞬間、外殻の結晶が一時的に閉じるような反応を示しています。もし、その瞬間に吸収経路を乱せれば……」
「攻撃が通るかもしれない、ということか」
「断言はできません。でも、試す価値はあります」
恒一はうなずいた。
「よし。次の吸収動作を待つ。リゼリア、合図があるまで正面で引きつけてくれ。エレナは頭部を狙える位置を確保。コハクは床の魔力線から離れて待機。セレスは防御を維持し、フィリアは吸収経路を乱す方法を考えてくれ」
「了解!」
六人が動く。
結晶獣の頭部が、再び青紫色に輝き始めた。
リゼリアが剣を構え、敵の注意を引く。
「さあ、こちらよ。私を追ってきなさい!」
結晶獣が突進した。
その瞬間、フィリアが叫ぶ。
「今です! 魔力の流れが逆転します!」
恒一は床の金属線を避け、結晶獣の頭部へ空間固定を仕掛けた。
ほんの一瞬。
頭部の結晶の動きが止まったように見えた。
同時に、リゼリアが魔力を込めずに剣を振るった。
刃が外殻の隙間を切り裂く。
エレナの矢が、その傷口へ飛び込んだ。
そして、コハクが低い姿勢で滑り込み、後脚の関節を双短剣で打ち据える。
結晶獣の身体が傾いた。
だが、倒れない。
頭部の結晶が異様な光を放ち、空間固定に抵抗するように震えた。
「恒一さん、長くは持ちません!」
「わかっている!」
恒一の集中力が急速に削られていく。
ここで無理をすれば、空間操作どころか戦闘そのものが続けられなくなる。
それでも、あと一手。
彼は試作型の籠手を握り締めた。
二重衝撃は、まだ完成していない。
今使えば、自分の腕を傷める可能性がある。
だが、籠手に頼らず、空間操作で生じたわずかな乱れを利用できれば――。
「リゼリア、離れろ!」
彼女が即座に跳び退く。
恒一は意識を集中し、頭部の結晶のすぐ手前で、ごく短時間だけ空間固定を重ねた。
空気が震えた。
結晶獣の頭部を包む魔力の流れが、一瞬だけ乱れる。
吸収が止まった。
「エレナ!」
「はい!」
放たれた矢は、今度こそ結晶の亀裂へ深く食い込んだ。
結晶獣が大きくよろめく。
リゼリアの剣が横から振り抜かれ、外殻の一部を砕いた。
青紫色の光が、激しく明滅する。
しかし、完全に倒すには至らなかった。
結晶獣は短く咆哮すると、床を蹴り、奥の通路へと後退した。
追撃するべきか。
恒一は一瞬考え、すぐに首を横に振った。
「追うな! 今は撤退する!」
コハクが不満そうに唇を尖らせたが、反論はしなかった。
「……わかった。あいつ、まだ奥にいるんだよね」
「ああ。だが、今の状態で追えば、こちらが先に限界を迎える」
恒一は籠手を確認した。
表面に細かな亀裂が走っている。
二重衝撃を実戦で使える段階には、まだほど遠い。
リゼリアの剣も、魔力を吸われた影響で血晶石の光が弱まっていた。
エレナの矢は数本を失い、セレスの魔力も消耗している。
全員が無傷というわけでもない。
ここで欲張るべきではなかった。
◇
六人は、迷宮入口から少し離れた岩場まで戻った。
周囲を確認し、魔物の気配がないことを確かめてから、恒一はようやく息を吐いた。
「全員、怪我の確認をしよう」
セレスが仲間たちを順番に診ていく。
エレナの腕の傷は浅く、応急処置で血は止まっていた。コハクは軽い打撲を負っていたが、動作に大きな支障はない。リゼリアの剣も、血晶石の状態を確認すれば使用できそうだった。
ただし、恒一の精神的な負担は大きかった。
「恒一さん、顔色がよくありません」
セレスが心配そうに告げる。
「空間固定を何度も使ったからな……少し休めば落ち着くはずだ」
「少し、で済むとは限りません。無理は禁物です」
彼女の声は穏やかだったが、譲るつもりはないらしい。
恒一は苦笑した。
「わかった。ここで一度、休憩しよう」
六人は周囲を警戒しながら、携帯食料と水を取り出した。
休憩の間、フィリアは測定器の記録を確認し、エレナは残った矢を数え、コハクは通路側を警戒していた。
恒一も、呼吸を整えながら自分の状態を確かめた。
頭痛はまだ残っている。今すぐ空間操作を繰り返すのは避けるべきだろう。
「まずは町へ戻るべきかもしれませんね」
セレスが提案した。
「この先に何がいるのか、まだわかりません。今の状態で探索を続けるのは危険です」
「そうだな。今回の目的は入口付近の確認だった。結晶獣の性質も少しわかったし、今日はここまでにしよう」
恒一は迷宮の入口を振り返った。
敵を倒せなかった悔しさはある。
だが、全員で戻ることの方が大切だ。
「異空間への接続も、無理に試す必要はない。まずは自分たちの足で安全な場所まで戻ろう」
リゼリアが静かにうなずいた。
「賛成よ。あなたの顔色が戻ってから、次のことを考えましょう」
「うん。あたしもその方がいいと思う」
コハクも同意する。
「次に来るときは、もっと準備してこよう。あいつの魔力吸収に対抗する方法も考えないとな」
「はい。今日の記録を整理すれば、対策の手掛かりが見つかるかもしれません」
フィリアは測定器をケースにしまった。
六人はもう一度周囲を確認し、街道へ戻る準備を始めた。
◇
エルセリアへ戻る道中、恒一たちは必要以上に会話を交わさなかった。
疲れていたこともあるが、それ以上に、迷宮で得た情報をそれぞれが整理していたからだ。
結晶獣は魔力を吸収する。
迷宮の床に流れる魔力を利用している可能性がある。
空間操作にも影響を及ぼす反応を示した。
そして、頭部の結晶が魔力の流れに関わっているように見えた。
どれも重要な手掛かりだが、まだ一度の遭遇で得られた仮説にすぎない。
ギルドに報告し、専門家の意見も聞く必要がある。
町の門が見えてきたころ、コハクがようやく口を開いた。
「ねえ、恒一。次は、ちゃんと勝てるかな」
恒一はすぐには答えなかった。
「勝てるかどうかは、準備次第だと思う。少なくとも、今日と同じ戦い方を繰り返すつもりはない」
「そっか。じゃあ、あたしももっと練習する!」
コハクは尻尾を揺らし、いつもの明るさを少し取り戻した。
エレナも小さくうなずいた。
「私も、矢の種類や狙う場所を見直します。硬い外殻に対して、どこまで有効なのか確認しておきたいです」
「私も防御の方法を再検討します。守ることだけでなく、皆さんが安全に離脱できる時間を作れるように」
セレスが続けた。
「私は今日の魔力反応を整理します。結晶獣と床の魔力線に、どのような関係があるのか。次に遭遇する前に、もう少し確かな情報を得たいですね」
フィリアはそう言って、測定器を抱え直した。
リゼリアは恒一の横に並び、そっと彼の手に触れた。
「あなたも、次までに空間操作を使う場面を見直しておきなさい。必要な時に使うのは構わないけれど、無理をして倒れられたら困るわ」
「わかっているよ」
「本当に?」
「……努力する」
「もう。そこは約束してほしいところね」
リゼリアは小さく笑った。
恒一も苦笑し、彼女の手を握り返した。
迷宮の奥には、まだ多くの謎が残されている。
古代の武具が眠っているのか。
それとも、別の目的で造られた施設なのか。
あの紋章が、これまで調べてきた古代施設とどのようにつながっているのか。
答えは、何ひとつ出ていない。
それでも、今日の敗北は無駄ではなかった。
自分たちに足りないものがわかった。
そして、次に何を調べ、何を準備すべきかも見えてきた。
「次は、必ず攻略の糸口を見つけよう」
恒一の言葉に、五人がうなずいた。
六人の挑戦は、まだ始まったばかりだった。




