踊る悪役令嬢手の平で
◆ シャルロッテとお嬢様 ◆
「おーほっほっほっほっほっほっ」
「くっ!高笑いとは良い身分だな」
「おーほっほっほっほっほっほっ」
「なんとか言ったらどうなんだ!」
「おーほっほっほっほっほっほっ」
「このっ、バカにしてんのか! その嫌味な扇子を降ろして俺を見ろ!」
「シャルロッテ」
「はい、お嬢様」
「なんと返したものでしょう」
「はい。相手はお嬢様に牙を向けています。令嬢としては引くわけにはまいりません」
「ではなんと言ったものかしら。あまりあの方を待たせては悪いでしょうし」
「横目で見下しやがって、侍女と何コソコソ話してやがる!」
「シャルロッテ、早く」
「はい、お嬢様。では相手の自尊心を砕きましょう」
「過激ね」
「それが令嬢というものです」
「そうですか。ではどのように?」
「いい加減ご自身で考えるべきではありませんか? その崩れたプディングのような脳みそを使ってせいぜいよく考えていただきたいものです、おほほ、とここで高笑い」
「な、なるほど、自尊心を深くえぐられる威力ね……それ本音?」
「まさかまさか。ささ、あの方がお待ちですよ」
「そうね」
「あなた」
「な、なんだよ」
「そのプディングのように崩れた味噌をつかっていい加減に考えることですね」
「い、意味のわからんことを、おれは第12王子だぞ! とことんバカにしやがって! 自分じゃろくに何にも出来んくせに! ……だ、だが今日のところはここまでにしてやる、今にみていろよ! じゃあな!」
「シャルロッテ」
「はい、お嬢様」
「彼、王子でしたのね」
「そのようですね、お嬢様」
「ですが、理由はどうあれ向上心を抱く姿はとても素敵ですね」
「はい。いえお嬢様。あれは負け犬の遠吠えです」
「負け犬? いえ、称賛に価する心をお持ちです。この気持ちをどうにかお伝えしたいものですね」
「ではこう、目尻に力を入れて細め、口元は笑顔を作りますが、歯を見せては品にかけますので薄く笑みを、そうそう、そしてあとは顎を上げて彼をみる」
「こうかしら」
「パーフェクトにございますお嬢様、逃げられる前に一言どうぞ」
「ええ」
「お待ちなさい」
「ふん、なんだ。まだなにかあるのか」
「お嬢様、扇子をおろしてここで」
「ええ、わかっているわ」
「いったいなんだってんだ」
「ふっ、どうぞ精進なさることですね」
「ここで高笑い」
「おーほっほっほっほっほっほっ」
「き、きさまぁっ! ちっくしょぉー! う、うぅ、うわぁぁぁ」
「泣いてしまいましたね。なぜ?」
「くっ、くくくっ」
「シャルロッテ?」
「あ、はい。お嬢様。男は打ちのめされて強くなるものなのです」
「そういうものかしら」
「そういうものですよ、お嬢様。ふふふ」
「では成長を見守りましょう」
「それがよいかと」
「さて、シャルロッテ」
「はい、お嬢様」
「少し出ます。すぐ戻りますが、その間にこの課題を提出しておいて下さい」
「承知いたしました、お嬢様」
◆◆ ブレない心 ◆◆
「あーら、こんなところに平民よ」
「迷い込んだにしては随分場違いね」
「それとも何か勘違いでもされているのかしら」
「ふん、平民のいじめか。くだらんことを。ん? おい、シャルロッテだったか」
「はい、第3王子殿下」
「ご令嬢はいないのか?」
「今は外出中にございます」
「そうか。お前から見てあれはどう映るのだ?」
「失礼ながら王子殿下、質問の意図が図りかねます」
「普段のお前と変わらないだろう、ということだ」
「いえ違います」
「そうか?」
「はい、王子殿下。わたしは彼女らのようにいたぶる事を良しとしていません。ゲスのすることです」
「違いがわからん」
「彼女たちはいたぶる相手を嘲笑っているのです。つまり弱者を。ですが私は違います。私はいたぶっている相手を弄ぶのが楽しいのです」
「おまえ、俺の前でよく言えたものだな。やれやれ、お前らしいよ」
「お褒めに預かりまして光栄にございます」
「そう返すところが特にな。強者を弄ぶ、か」
「ええ、ふふふ。こんな風に、ですね」
「皆様」
「あら、誰かしら? 侍女如きが何の用かしら」
「はい、皆様。あちらにおわす方をどなたかお気づきでございましょうか」
「あちら? ……あ、あれは第3王子殿下」
「い、いらっしゃったのですね」
「ですが……ですが、特に問題など起こしておりませんわ。なのに何か処罰でもお与えになられると?」
「まさかまさか。ただこう申されておりました。実にくだらんことを、と」
「おい侍女」
「はい、王子殿下」
「勝手なことを言うな」
「申し訳ございません。従者は主の代弁者でもございますゆえ」
「おまえの主人は違うだろ。まったく。はぁ、その貴族の娘たちを弄ぶのはその辺にしておけ」
「ですが、彼女らのもたらした痛みはこの程度ではありませんよ」
「おまえ、それで……あっ、後ろ」
「シャルロッテ」
「……はい、お嬢様」
「何をしているの?」
「……あちらの方を、いえ、何でもございません」
「そうですか。あなた達、顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「あ、貴方様は……は、はい。なんともございません」
「その、その、何卒ご容赦を」
「何があったのかはわかりませんが、そうかしこまる必要はありません」
「滅相もございません」
「さ、何か事情があるのかもしれませんが、もうお行きなさい」
「ご令嬢の御恩、忘れません」
「いえ、そんな大げさなこと。というか何のこと?」
「で、では!」
「え、ええ、どうぞお気をつけて」
「ふぅ、丸く収まったな。ん? なんだ、邪魔された割に随分嬉しそうじゃないか」
「はい、王子殿下。それはもう」
「はぁ、どうせろくなことじゃないんだろ?」
「まさかまさか。お嬢様に素敵な子分が出来たのです。友情を育むのにふさわしい……ふふふ」
「そういうことか。まったくブレん奴だな、お前は」
◆◆◆ シャルロッテの愛 ◆◆◆
「シャルロッテ」
「はい、お嬢様」
「課題の提出は済みましたか?」
「もちろんにございます」
「よろしい。あら、どうかしたの? 顔色が悪いわよ」
「いえ、そのようなことは」
「そうですか。今日は歩き疲れました。あちらの庭園で少し休みましょうか」
「はい、お嬢様」
「綺麗なものね。あら? あちらの彼女は何をなさっているのでしょう」
「庭園の手入れでしょう。確か騎士の出だそうで、花を愛でる趣味をお持ちのようです」
「花を愛でる騎士、素敵ね。しかしあれでは手が汚れてしまいますわ」
「でしたら、お嬢様」
「何かしら」
「その手袋を貸して差し上げてはいかがでしょう」
「わたくしの手袋を?」
「はい」
「それは名案ね。でも困ったわ」
「垣根があって通れませんね」
「どうしましょうか」
「ここから足元に投げて渡せばよいのです」
「それは失礼でしょう」
「お嬢様のような高貴なお方が枝をかき分けて行くわけにはまいりません。ふふふ」
「あまり気乗りしませんが、使ってくださるかしら」
「ささ、どうぞ」
「えいっ」
「あら? 手袋が当たってしまいましたわ」
「さ、最高です、お嬢様。くくくっ」
「ご令嬢、これはどういうおつもりですか?」
「おーほっほっほっほっほっほっ」
「ちっ、答えていただきたい」
「見るに耐えかねてのことです」
「言ってくれますね。ふん、お付の侍女も泣かせているようで、噂通りのお方のようだ」
「泣いている? この子は笑っているだけですよ」
「貴方の足元で顔を隠し肩を震わせているではありませんか。その姿が目に入らぬとでも? 冷酷にも程がある」
「なんのことかしら」
「とぼけるか。いいでしょう。この決闘、受けてたつ!」
「シャルロッテ」
「はい、お嬢様」
「狙いがそれたことをあなたが笑うから勘違いされてしまいました」
「その勘違いが素晴らしい」
「何を言っているのだか。ですが、ぶつけてしまったわたくしにも非はあります」
「決闘ですね」
「ええ。仕方がありません。準備を」
「はい、お嬢様。ご武運お祈り申し上げます」
「さすがお嬢様。決闘の開始に合わせて切り込む騎士様を軽くいなし、返す刃で剣を弾き突きつける。真っ向から負けたとあっては気位の高い騎士様は言い訳もできませんね、ふふふ。後は事前にお伝えした通りに高笑いして……くくくっ」
「くっ、ま、参りました。まさか、ご令嬢の剣がこれほど冴えたものとは。ですが、この剣には優しさがある。貴方は一体……」
「おーほっほっほっほっほっほっ、いつかその切っ先がわたくしに届くのを楽しみにお待ちしておりますわ。貴方の才がこのわたくしを超えることが出来るものならですが。おーほっほっほっほっほっほっ」
「い、言わせておけば、貴方という人はやはりっ……い、今に見ていなさい!」
「おーほっほっほっほっほっほっ」
「……く、くくくっ、ひぃー、この展開、最高ですよお嬢様」
「シャルロッテ」
「はい、お嬢様」
「手強い相手でした。彼女はきっと強い騎士となるのでしょうね」
「はい。次代を担う騎士になられるかと」
「わたくしは思うのです。多くの物事をこなせてしまうわたくしには周囲の考えがどうにも理解できません」
「はい。私はそのためにお使えしております」
「ええ。わたくしは嫌われているのでしょう。きっとこの才故に」
「えっ、それは……あー、はい、お嬢様の才故にでございます」
「辛辣な言葉は胸を刺します。ですが彼女のように挑みくる者がわたくしを通して成長する。その姿を見られることが、わたくしはそれが嬉しいのです」
「お嬢様……」
「お辛くありませんか?」
「大丈夫です。わたくしにはあなたがいますから。辛くともね」
「はい、お嬢様。このシャルロッテ、許される限りいつまでもお側におります」
「ではずっと一緒ですね」
「はい。ふふっ、私はお嬢様が大好きです。お嬢様の悩まれるお姿を見て、私は手を出さずにはいられなくなってしまうのです」
「ありがとう、シャルロッテ。その手を頼りにしているわ」
「はい、お嬢様」
「何よりも大切なお嬢様。私が心から大好きなお嬢様。そんなお嬢様が苦しむ姿が、私はとても愛おしいのです。ふふふ……どうかずっとお側に置いてくださいまし。愛しい愛しいお嬢様」




