第8話 『ネコ耳魔道士』
「最高の気分だ」
シャアアとシャワーから出て来るのは温水だ、冷たい水じゃなくて良かった。
温かい、この温かさをもう随分と忘れていた気がする。まっ流石に気のせいだ、俺の記憶は怪しい所が多々あるがまさかそれ程長い間の記憶があやふやな訳がないしな。
「て言うか、本当に汚れすぎだろう俺。一体何日間お風呂キャンセル界隈してたんだよ……」
温水により大分汚れだ取れるとやはり浅黒い汚れが取れて元の日本人らしい肌色が見えてきた。シャワールームにはボディーソープもシャンプーもそれぞれ小瓶に入れられていたのでそれも使って全身を綺麗にしていく。
気持ちいい、本当に気持ちいいな。
全身が綺麗になるとそれだけで心も晴れやかになる気がする。昨今のお風呂キャンセル界隈とかその思考そのものが俺には理解出来んね。
それにしても……ちょっとお腹が空いたな。
て言うか俺、この島に来てたら何も食べてなくね?
髪の毛が少し伸びていた、ヒゲも生えてたので剃った。やはりそれなりに時間が経過していたのは否定出来ないって事だ。
幾らレベルアップで空腹や、喉の渇きが癒えてたとしても身体の中が大丈夫なのか疑問だ。変に固形物とか食ったら嘔吐するとかないよな?
そもそもレベルアップでお腹が膨れた理由が謎過ぎる。ゲームとかでさ、レベルアップするとHPやMPがその度に満タンになる便利な仕様なのがたまにあったがそれと似たようなもんだと勝手に解釈していた俺だ。
けどやっぱり得たいが知れないのは怖いんだよ。
「まさかずっと何も腹にいれてないとかないよな?」
野人だなんだと言われてたし、この島に適応した食生活をしていたと思いたい。いやっ野人になってる訳がないとは思うんだけどな。
「……まあ気にしても仕方ないか。取りあえず何か腹に入れたいし、またあの露出女に聞くか」
シャワールームから出て着替え室で着替える。
恐らくは研究者が使う為に用意されたであろう衣服が棚にあったのでボロボロの衣服はその棚にある籠に入れてサヨナラ。
新しい衣服は白を基調としたシャツとパンツ、その上に着るのは博士とかが着てそうな白衣、下は白のズボンがあったので履かせてもらう。
そして廊下に出る、そこには簀巻きが壁に立て掛けてあった、立て掛けたのは俺だけどな。
簀巻きが喋る。
「たく、人を縄でグルグル巻きにしといてよく平気でシャワーなんて浴びれるわよね! 私もスッキリしたいんですけど!?」
「……お前みたいな変人奇人の類を自由になんか出来るかよ」
ボソッと呟く、こう言う変なのは相手にすると余計に煩さそうなので基本的には話しない。
「なんか言った~?」
「…………」
取りあえず簀巻きを縦にする。
簀巻きは俺をジロジロと見てきた。
「ようやく終わったみたいね、流石にさっきまでよりは人間に見えてきたわよ? それじゃあさっきも言ったけど私も」
「アンタのシャワーはエリンダに意見を聞かないと無理だよ、文句があるなら彼女に言ってくれ」
「何よそれ、納得いかないわー!」
悪いね、俺としてもシャワーくらいと思うが、シャワールームに行く前にエリンダにコイツを下手に自由にするなと念を押されてしまってるんでな。
やはり犯罪組織の人間ということもあるし、今回はエリンダの意見を聞くことにした。
「行くぞ」
「うがー! 何が黒の怪物よ、完全に女の命令がなきゃ何も出来ないダメ男じゃないの!」
「知らんがな、てかっその黒の怪物とかいうダサい呼び名を辞めてくれ。俺は不知火アサヒって名前なんだよ露出女」
「私はオービエよ! あのエリンダって裏切りスパイ女もそう呼んでたでしょう!」
「そうだったな、じゃあオービエ。悪いがおたくの処遇はエリンダに丸投げしてるから何を言っても俺は相手にしない。おたくがいた組織を含めおたく自身も相当に好き勝手な事をしてたみたいだし、どんな扱いを受けても俺はそれに関与しないつもりだ……そこは理解しとけよ」
「…………っ!」
ノリが良い感じを出されても、悪いが碌でもない人間に無限に寛容になれるような人間じゃないんだ俺。差別だ差別だと叫んで厚かましい要求ばかりしてくる手合いは外国人でも日本人でもぶっ飛ばしたくなるんだよ。
「さてっエリンダは確かこの基地の広間に行くって…」
その時、何やら大きな音が着替え室にまで聞こえた。
爆発音だ、まさかこの秘密基地の中で攻撃魔法でも使った輩が現れたのか?
「まさか、外に放置してた戦闘員か?」
「それならラッキーね~」
ニヤニヤする簀巻きを引っ掴みダッシュで移動する。
簀巻きが何やらうるさかったが無視した。
広間に行くと直ぐにエリンダを発見、どうやら彼女は何者かと対峙してる最中だった。
見ると床の一部が焦げてるな、ここに攻撃魔法が直撃した音がさっき聞こえたヤツか?
「エリンダ! 何があったんだ!」
「アサヒ気をつけて! この女、魔道士よ!」
「…ようやく姿を見せましたか」
女魔道士か、あのクソを思い出す、碌な記憶がないんだよな。
そこにいたのは尻くらいまでに伸ばした銀髪のロングヘアと赤い瞳が特徴的な美少女だ。
年齢は十代中頃くらいだとおもう、服装はゴスロリドレスを思わせる黒と白を基調としたフリフリな感じのヤツだ。黒でオシャレなヒールを履いている。
何より目立つ特徴として、なんとネコ耳を生やしていた。そして手には黒い木製の杖を持っていた、ネコ耳魔道士、顕現。
「誰だアンタは、まさかこの露出女の仲間か?」
「そんな変態は知りません」
「……私も知らないわよ? 誰よソイツ、て言うかあの耳まさか獣人なの? けどこの魔力は一体…連中に高度な魔法を扱える能力なんてあるわけが」
「何やら不快な視線を感じます、その変態は今ここで滅ぼしてもよろしいですか?」
「よろしくないわ、その変態には色々と喋ってもらう必要があるのよ!」
「どいつもこいつも変態って失礼じゃないかしら!?」
女性が三人もよれば姦しい、と言うかうるさいな。
「……で、結局おたくは何者なんだ?」
「私はミルコリ・シャルルアンルーと言います。この島において。大いなる試練を受けるべき存在を案内する為にここに来ました」
「大いなる試練? 案内? ……まさかとは思うけどその面倒くさそうなのに巻き込まれる不幸なヤツは」
「はい、貴方ですね。しかし不幸ではありません、大変名誉な事であります。そしてとても重大な事です」
なんか……また相手にすると面倒くさそうなのが現れたな。




