第5話 『闇の中で見た光は……おにぎり? なんで?』
俺はっ漆黒の闇の中にいた。
いやなんで? 記憶がない、あれっ俺ってだれだっけ。
天も地も全てが闇の中、ぼんやりとした映像のような物が俺の目の前に現れた。
黒髪黒目の冴えない男がいた、年齢は二十代前半くらいの如何にも冴えない人生を送ってきましたって感じの青年だ、胴長短足で肌は薄い橙色、とにかく覇気がなさそうなタイプの今どきの若者ってな感じの輩だ。
「うへ~あんな化け物もいるのか? レベルアップがあるからって勝てるかよ、退散退散っと」
日本に出る熊を二倍くらいデカくした化け物みたいな熊を見ながら青年は呟いていた。
日本? 熊? なんだそれ、よく分からんが青年は自分でも倒せる敵を探しているようだ。
「おっおお! 銀色のスライムが……まさかとは思うがアレって経験値爆盛りなタイプのモンスターだったりするのか? ……やってみるか」
青年は銀色のなんかキモいプルプルに攻撃を仕掛けた、手にした木の枝で果敢に攻撃をしている。
しばらくすると勝った。
「うっうぉおおっ!? マジか! 本当に、なんか凄いレベルアップしてる感じがするぞ!? これは、本当に異世界で俺は強くなって成り上がりまくり的な未来があるのか!?」
青年は訳の分からない事を言いながら興奮していた。
それからはその銀色のキモいスライムとやらを主に狙う事にしたらしい。
しかしその結果、彼の様子は目に見えて変わっていった。
「もっと……もっとだ、俺はもっと強くなれる」
レベルアップすると空腹も喉の渇きも何故か癒えた、何故そんな事を俺は知っている?
「スゲぇ、何だよこの力は……無敵か?」
身体から薄い橙色の光を纏えるようになると更に超人じみた力を振るえるようになった、更にそれを塊にして飛ばすと遠くの獲物も始末出来るようになる。
木の枝など捨てて青年は更なる力を求めた。
「チカラ、チカラチカラチカラ……ううっオォオオオーーーーーーーーーーーーーッ!」
なんか完全に壊れた。
青年は力に飲まれた感じになりその映像のような物は闇に飲まれて消えてしまった。
まさか……アレは、俺なのか?
ふとした疑問、しかしその問いに答えてくれる者はこの闇の中ではいない。
「………!」
すると少し離れた所に一つの小さな光が現れた。
それが何かも分からずとも、自然とそちらに向かって俺は歩き出す。
その光を浴びると徐々に俺は…記憶を取り戻していった。
不知火アサヒ、俺の名だ。
異世界召喚され、直ぐになんか変な樹海に追放された男だ。
俺は徐々に俺を取り戻した。
やがてその光に辿り着く、そしてその光の正体を見て。
……俺は少し困惑した。
「………なんで、おにぎりが光ってんだ?」
そこで俺の意識は途切れた。
◇◇◇
「…………ん? ここは、どこだ?」
「は? アンタ何をいきなり」
気がつくと俺はモクモクと土煙が上がる平たい大地に立っていた。
そして目の前には若い女性がいる。濃いめの紫色のロングヘアと同じ色の瞳を持つ美人だ、スタイルも良く足も長い。肌も白く健康的だ。
しかしその表情はかなり困惑してる。
俺も意味の分からん状態なのだから説明プリーズ。
土煙が晴れてきた、うへっ何だよここ。
「誰だアンタはこっちのセリフだよ、それとなんだこの爆心地みたいな場所は? 俺は変な樹海に居たはずだぞ」
「い、いきなり流暢に喋りだしたわね」
「そりゃあ言葉くらいは……いや、確かにそうか。なんでおたくと言いあのカス王やクソ女魔道士といい普通に話してんだろうな…まっ異世界あるあるか、そう言う仕様なんだろ、気にしてもしゃーないかもな」
「はい?」
彼女にそんな話をしても仕方がないな、いつまでも何も言わないのも無駄に時間が過ぎていくだけなのでこっちの状況を端的に説明する。
「まあいいか、おたくは少しは話が出来る手合いか? それなら助かるんだがな、何しろこっちは変な連中に問答無用とばかりに魔法でここに飛ばされた被害者なもので」
「被害者? え、黒の怪物が…?」
「黒の怪物? なんか話が見えてこないな…」
そしてこの女性から説明された内容はと言うと、なんかのバトルマンガに出て来そうな悪役然とした俺が暴れまくっていたそうだ。
土煙が完全に晴れた爆心地には確かにそこら辺に多くの人々がぼろ切れのようになって転がっていた。
一応は生きてるらしく少し動いてはいる、けどこれを俺がやったと?
ちなみにこの島を支配してる犯罪組織とかあるらしい、この転がっているのはその組織の人間らしいので特に気に病む必要はないと言われた。
いやならここに居るお前さんはその組織の人間じゃないのかと思うが、俺が謎にテンション高く暴れてたって話の方が気になってそれどころではなかった。
「貴方はまさに黒の怪物だったわ……まあ見た目は野人か何かにしか見えなかったわね」
野人って……う~んそんな話をされてもな~。
全く覚えがない。ならば返答は一つだ。
「さっきから何言ってんだアンタ? 人間様が野人になんかなるわけがないだろうが」
「………はぁあーーーっ!?」
俺も変な夢を見た気がするが、実はあんまり覚えていない。覚えていないって事は忘れていいこと、つまり大した事ではないのだ。そんな事はどうでもいい。
俺が意識を集中させると薄い橙色のオーラのような物が現れる。
「確かにこれについては何となく夢で見た記憶はあるがその野人となって暴れ回ったみたいな記憶は全くない! つまりはそんな話はデタラメな捏造である可能性が極めて高いって訳だ!」
「いやっあんだけ大暴れしておいてそんな…」
「俺にそんな記憶は……なぁあいっ!」
きっぱり言う、異世界人相手だとこっちが遠慮して黙ると好き勝手に話を進められた苦い経験があるからな。絶対にヤツらのペースで話はさせない。
確かに以前の記憶よりも身体はムキッとしてるし肌は異常に汚れてなんか浅黒くなってるし服も直ぐに脱ぎ捨てたいレベルで汚れまくっているがこんなのは全て些細な変化でしかないと俺は思い込む事にした。
「それと俺は黒の怪物なんかじゃない、不知火アサヒが俺の名だ。覚えとけ」
「わっ私はエリンダ、エリンダ・ビーステリアよ」
「よしっそしたら行くか」
「え、行くって何処へ……?」
「決まってるだろう? おたくの話が本当ならこの島には人間が普通に暮らせる施設があるんだ。なら………」
俺はニンマリとした笑顔で話を続ける。
「そこをいただく、おたくの話だと碌でもない犯罪組織が勝手に住み着いて好き放題に悪用してるんだろう? なら俺が奪っても構わないよな」
「………………」
なんかドン引きしてる気がする。
俺はその反応を無視する事にした。
自分を見失っていた主人公が自分を取り戻す、王道展開です。




