第16話 『リベンジタイム』
突撃しながらタリシアが何をしてるのかを観察する。
どうやら王城の手前に陣取り、攻めてくる魔族相手に魔法で応戦してるようだった。
数的にはまだタリシア達が優勢、しかし王都を蹂躙してる魔族が雪崩れ込んでくれば直ぐに逆転する程度の戦力差だろう。
まあビルラウンに話をしてるので魔王軍はそこまでする手前で止まってくれると思う…が。
その話はまだまだ前線に届くのに時間がかかるみたいだな、魔族はガンガン攻めている。
タリシアが仕切ってる一団も元気に魔法で反撃していた。
「我れら勇敢なるワーゲスト王国が誇る魔導師団である! 国に現れた穢らわしい魔族共を一匹残らず焼き払えーー!」
「「「ファイアーボール!」」」
「「「ファイアーランス!」」」
「「「ファイアーアロー!」」」
魔導師団とやらはタリシアの号令で炎を飛ばす系の攻撃魔法を一斉に放っている。端から見ると大した攻勢だ、しかし魔族の方も攻撃魔法は想定済みらしく同じ魔法で火球やら炎の槍や矢を打ち落としたりバリア的な魔法で防いだりして被害はゼロっぽい。
……あ、タリシアのヤツ。魔族の魔法が優れていると直ぐに理解したのか部下にはそのまま戦闘を命じながら自分は少しずつ後ろに下がり始めた。
俺はヤツのクソさ加減を知っている。ヤツは必ずここで逃げる為に何か魔法を…そうだ転移魔法だ、多分あれは元は自分に発動する魔法だろ。
ヤツは間違いなくそれを使ってここから逃げる。
おっマジで何かの魔法の発動準備に入ったぞ、しかもその魔法の発動する姿は俺を追放する時に目に焼き付けたそれと完全に一致した。ちょっと気取ったポーズをしてたんだよあのクソ女魔道士は!
つまりだ。
「………結局一人だけ逃げてんじゃねぇか」
俺は突撃のスピードを緩め、音も無く飛行してタリシアの背後に降り立った。緩めてもかなりの速度、更に眼前の魔族に集中していたタリシアは俺の接近に全く気がつかなかった。
タリシアはコソコソと自分だけ転移魔法で逃げる準備をしながらも威勢の良い言葉を放っている。
「お前達! 命を懸け、血を流してワーゲスト王国の為に戦うのよ! 行きなさい!」
「それは転移魔法か?」
「っ!? だ、誰っ!?」
「久しぶりだな……タリシア」
「え? 誰よ、お前……」
「…………」
声をかけられてようやく俺の接近を理解したタリシアは勢いよく振り返る。そこまでは予定通りだった。
しかしこのクソ女、俺を、この俺を完全に忘れてますって反応をかましやがった。
マジで許せん、何だコイツ。
「心底驚いた…まさかと思うが記憶力はあまり良くないのか? 転移魔法の呪文を覚える頭はあるみたいだが」
俺の質問に速攻で顔色を変えた、その変化は前線にいる魔道士達にも気付かれたらしく。各々反応している。
中には俺の言葉が聞こえた者、そしてタリシアが使おうとしている魔法に気付いた者もいたみたいだ。
「て、転移魔法だと?」「しかしあの魔法は確かに…」「そんな馬鹿な…タリシア様が俺達を見捨て逃げようとしているのか?」「我らを援護する支援魔法を発動してくれるのではなかったのか?」「と言うかなんだあの者は、国の兵士か?」「い、いきなりタリシア様の背後に現れたぞ!?」
「なっ何をいきなり…変な言い掛かりはよしなさい! 私は部下と共に命を捨てて王国の危機に……てまさかお前は!?」
目を見開くタリシア、やっと話が通じそうだな。
「ふん、どうやら思い出したみたいだな。お前とあのカス王が一方的に召喚し、更に更に一方的に不細工だと抜かして問答無用で何処ぞに追放してくれた男の事を…」
「カ、カス………そう、ようやく全て合点がいったわ」
何かタリシアが全てを理解した的な顔で俺を見てくる、その顔を見てるとぶん殴ってやりたい気分になるな。
「あん? 一体何の合点がいったんだ?」
「全ては…全ては貴様が仕組んだ事だったわけね!」
「……………は?」
「かつて異界より現れし存在! 私とジェネス殿下が必死で追放した悪の化身! 貴様が魔族と結託して此度の王国への侵攻を起こしたのね!」
「……………」
まさかの盛大な勘違い、更には自分達を何か良さげに説明してこっちを一方的に悪の化身とか抜かしてきやがった。こう言う所がクソ女魔道士のクソなところなんだとあらためて理解したよ俺。
「なんと! ヤツは異界の存在だったのか!」「それを陛下と共に追放するとは! 流石はタリシア様だ!」「確かに我らとは目鼻立ちがかなり違う、別世界の存在ならそれも理解出来るぞ!」「肌の色もクリームに近い色をしてるしな」「ヤツが今回の魔族侵攻の黒幕なのか!」「許せない、どれだけの国民が犠牲になったと思ってるんだ!?」
そしてその戯れ言を速攻で信じてる魔導師団とやらのオツムのアレ具合よ。
何、キミらこのクソ女魔道士の信者か何かなの? 確かに綺麗な赤髪と赤色の瞳をしてる、つり目でキツい印象を受けるが顔立ちは整ってはいるしスタイルも良いけどさ~。
流石にもうちょっと…いや、もうどうでもいいか。
「……ふふふふ、ふふふふふふ」
「なっ何がおかしいの!?」
「お前が相変わらずのどクズで安心したって話だ、タリシア…この、クソ女魔道士が」
「クククク、クソ女魔道士!? だっ誰がクソ女よ……貴族でもないブ男が調子に乗るのも大概にしろ! 死ね、スカーレッドタワー!」
足下にバーンと現れたのは赤色に輝く魔法陣、そこから真紅の炎の柱がぶち上がり俺を包み込む。
まあ魔力でガードしてるので効かないけどな。
「ふんっ効かないな」
「何ですって!?」
「信じられないか? なら好きなだけ魔法でも何でも撃ってくるがいい、お前は偉い魔道士なんだろう?」
あの驚きよう、余程自分の魔法に自信があったんだろうな。変に自分のルックスに自信を持ちまくってる歌舞伎町の水商売の女性とかオタサーの姫に姿が重なった気がした。
タリシアが吠えた。
「黙れ! 言われなくても我が魔法で消し飛ばしてあげるわ!」
手にした杖を両手に持って、杖の先っぽを俺に向けて構えた。そして放たれる無数の魔法、別に炎に大して固執してる訳でもないのか炎以外にも氷の塊や風の刃などかなり多様な攻撃魔法を披露している。
「我が魔導の奥義を持って滅べ! デストロイオーバーブレイク!」
そして恐らくは彼女の扱える最大火力の魔法が俺に直撃した。その爆発は中々大した物で舞い上がる土煙がモクモクと、タリシアや魔導師団の視界を奪う。
「………ふ、ふふふどう? 私の魔法の恐ろしさが理解出来る前に消え去ってしまったかしら?」
だからこそ、こんな風に悠長に説明する程に余裕のある俺に全くダメージを与えていない事にも気がつかなかった訳だ。
「ん~見物する程度の価値はあったかもな」
「っ!?」
地面に降り立った場所から俺を一歩も動かす事すら出来なかったな。俺が歩いて近づくとビクッと肩を振るわせるタリシア。
「そ、そんな…そんな馬鹿な……有り得ない、有り得ないわ!」
「まあ……その価値も宴会芸レベルだと思うがな」
「ひっひぃい! こ、こここっちに来るなーーー!」
発狂一歩手前な状態になりながらも素早く魔法の発動体制になれるのは熟練さを感じさせるな。
「き、きき消えろーーーーーーっ!」
「ほう、最後の切り札はやはり転移魔法か? だがな……」
俺の言葉を無視して転移魔法を発動しやがった。
以前は全く認識も出来ずに転移させられたが今回は違う、ヤツの転移魔法の魔力が光となって転移させる対象である俺の身体を包み込もうとしているのが視認出来た。
勿論再び追放とかされてたまるか。
身体の回りを漂う光、それを自身の魔力で絡め取り、片手を前に出して手の平に集める。
そして俺はその光を握り潰した。
「もうそんな魔法は……何の意味もないんだよ」
俺は、会心の笑みを浮かべた。




