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第六話 ヒロインからクリティカルヒットもらいました

 ——楽しかったピクニックの翌日

 ホットな気持ちをそのままに、登校時間を迎えた。

 校門前に辿り着いた私は、従者の手を借り馬車を降りるところだった。


 足が地面に着くか着かないかというところで、走ってきた誰かに突き飛ばされ転倒したのだけれど、これがけっこうなクリティカルヒットで。


 強く打ち付けた背中が衝撃でつったようになって硬直状態。

 辛うじて守った頭を持ち上げようとしても、ピクリとも動けない。

 いったい何が起こったの?


「あんたでしょう!気付かないうちに台無しにして!!なにしてくれんのよっ!?」


そう叫んで暴れるのはココロだった。

我が家の御者とそばにいた先生に取り押さえられている。


「あんたがでしゃばらなきゃ、私はヒロインのままだったのにっ!」


 ギリギリと音が聞こえそうなほど奥歯に力を込めた声、絞り出すようなその声が、私の胃の辺りに響いて。私は倒れたまま吐き気をもよおした。


 その後すぐ別の馬車でやってきた兄が騒動に気付いてくれたのだけれど、駆け寄る頃にはもう私の意識はなかった。スーパーな兄でも、こればかりは仕方ない。


 そうだ——私、画面にすら映らない脇役だったんだから、本人の私ですら自分の動向なんて知るはずがない。

 今こうして生身のエミリアとして生きている私が、異世界転生の知識を使って動いたことで、ストーリーがガラリと一変したんだろう——きっと。


 そしてなんで考えなかったんだろう。

 脇役たちの未来が明るくなったら、ヒロインの未来はどうなる?って。


 私こそ自己中だったのかもしれない。


 ヒロインに与えられたはずの絶頂が、存在すらしなくなるということ?

 悪い方に変わる道しか残されていないということか?


 あぁそれなら——気を悪くしても当然だ。

 私を恨んでも当然だわ——。


 こうして頭に色々なことを巡らせながらも目は閉じていて、そのままどこかへ運ばれた感触もあって、ベッドの上に寝ている感覚もあるんだけれど、全く瞼が持ち上がらない。


 本当の意味で意識を取り戻せないような感覚?

 いや、もしかして——私、また死んだのかしら?


 ——いやいや、別のことを考えてる最中だったような——


「……ア、……リア……エミリア……目を開けろ、お前ならやれるだろ?エミリア……」


 泣いているんだろうか?

 誰か遠くで話しかけてくれてる——?

 少ししか目が開かない。


 ——それからまたどのくらい経っただろう。

 今はもう誰の声も聞こえない。


「……っ、うっ、うーん」


 体は痛むけど何とか目を開けられそう。

 ここはどこだろう?

 うっすらと視界に広がる天井は間違いなくオマール子爵家——私の生家ではない。

 だってこんなに豪華絢爛じゃないもん。


 でも誰かいるみたい?

 暗くて分からない——。


「……目が覚めたか?エミリア嬢」

「……?」


 男の人?

 焦点が合ってようやく分かった

 その人はこの国の王太子殿下だってこと。

 マジリエス王国王太子クライス・マジリエス殿下である。


 実のところ、こんなに間近でご尊顔を拝するのはお初で。

 いやはやこんな美形がこの世に存在するの?ってくらいの美男子。——さすがゲームの世界!


「……殿下?何で殿下が?殿下何して?」

「あははは、少しは元気だと思って良いのか?」

「……はい、体は痛みますが、頭はハッキリしてます。ここは?」

「私の家だ。すぐに宮医を連れてくる。子爵家にも知らせるから安心して休んでいてくれ」


 待って!?

 王太子の家って王城よね?

 なんで私が王城に?

 たしか学院の校門前で転んで、ココロから怒られて、それで何で王城なんだろう?


 宮医の診察を終えた私は、王太子殿下から状況を教えていただいた。

 まず魔道具はデミアンのスーパースキルにより3日で完成し、殿下は『魅了』されずに済んだと。残念ながら既に『魅了』されていた第二王子エリク・マジリエス殿下だけはいったん幽閉で、解放の目処は立たず。現在のところ解決策を検討中だそうである。


 精霊の使う『魅了』がとても厄介なことは、私でさえ知っている。

 魔術師の『魅了』とは異なり、使った精霊にしか解術できないからだ。


 ——そこへ今度は兄のデミアンが飛び込んできて、

 けっきょく私はトータルで一週間ほどベッドにいるのだと知らされることになった。

 もちろん学校は休んでいる。


 そしてその間も兄は活躍していたと自慢げだ。

 立派に先生デビューを果たすと同時に、王族の先生まで務めるようになったという。

 王太子殿下が兄を『先生』と呼ぶのには些か違和感があるものの、感慨深いのもまた事実——。


「……ココロさんは?」

「王城の一室で実家の男爵家の迎えを待っているよ」

 

 そう答えてくれたのは兄のデミアンで、ココロの状況も詳しく教えてくれた。

 精霊を私利私欲のために使ったことが禁忌とみなされ、修道院送りだそう。


 私に対する発言から察するにあちらも転生者だろうから、この世界の常識を知らない可能性もある。その場合、気分的には極刑の域だろうな——。


 意外にも私は、ココロの行く末を心配した。

 存外——思いやり深い人間に成長できたのかもしれない。

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