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第二話 婚約者との歴史

 そして10歳の私が次の目標に据えたのは、嫁ぎ先の候補を調査すること。

 聖女見習いと在学期間のかぶらない令息について知りたくて。

 はたしてどんな顔ぶれなのか、見ておかなきゃね。


 ——他の女性に現を抜かしたことを理由に、アシュレイ様との婚約は解消する予定だもの。


 かと言って、彼を雑に扱うつもりは全くない。

 だってアシュレイ様との面会日は月一の定期でやってくるうえに、現段階では極めて誠実なお方なのだから。楽しんで頂く努力は、欠かすべきではないわ。


 ——だからその代わりと言っちゃなんだけど、婚約の解消には大人しくご同意くださるわよね?



「アシュレイ様、ようこそお越しくださいました。お元気でしたか?」


「あぁ、おかげさまで。エミリア嬢はご活躍でしたね。デミアン殿の叙勲も素晴らしい。僕は剣術のことしか分からないから、羨ましかったな。そう、お祝いを持ってきたので、宜しく伝えてください」



 領地の視察に出掛けた兄は夕刻以降に戻る予定だから、私のために持参してくださった贈り物とともに代わって受け取ることにした。


 アシュレイ様は、金色のリボンをかけた深緑色の箱を丁寧に取り出して。

 私の前に正面がくるようにして、置いてくださった。


 箱を開けた私は、思わず声を上げた。

 その贈り物がとっても意外な驚きを届けてくれたから。



「まぁ、これは……」


「エミリア嬢の瞳の色と同じなんだ」


「素敵ですわ!大切にします。実は私からも贈り物があるのです。驚きますわよ……きっと」


「……これは」


 なんと——互いに相手の瞳色の石を使った、同じデザインのブローチを贈ったのだ。アシュレイ様の瞳はエメラルドグリーン、ちなみに髪は銀色。


「驚いたな……」と言ったアシュレイ様は耳まで赤くして、この時初めて、彼が照れ屋さんなのだと知った。なにより、この頃から既に顔が良かった。



 ——そしてまた2年の月日が過ぎ、私は12歳を迎えた。

 私より一つ上のアシュレイ様は13歳。

 一足先に入学して、既に学生生活に突入している。


 そして彼にしてみれば、入学からちょうど一年半ほどを過ごした頃、聖女見習いでありヒロインのココロと出会うことになるのだ。——攻略対象の一人として。



「アシュレイ様、わざわざありがとうございます」


「月に一度だから、わざわざと言うほどでもないよ」



 入学してからもアシュレイ様は月一面会ミッション、コンプリートの鉄壁を崩さなかった。成長するにつれどんどん顔が良くなり、中身がオーバーサーティーの私はもう——まるで息子のように愛でていたのを覚えている。


 そしてこの頃、私にも変化があって——。


 お茶会で同世代の令嬢たちと交流を深めるうち、香水のビジネスに興味を持ち始めたのだ。この王国に以前からある強い香りの香水ではなく、サラッと香る程度の若い令嬢向けヘアフレグランスのビジネスに。前世、エビの仕入れ担当の次に任されたのがヘアケア事業部のヘアフレグランス担当だったからね。


「ある程度のマーケティングして、在学中に発売できたらいいな……」


「次の開発の話?」


「ねぇ兄様、ヘアフレグランスの研究もしてみる気ない?」


「……リアのためならやるに決まってるだろう。他のやつに頼られたら生かしておく自信ないからな」


「……わたしデミアンに殺されるの?」


「相手に決まってんだろ」



 ますますシスコンに傾いていく兄を上手く使ってしまう自分を責めながらも、人生の足場を固めるまでは頑張ってもらうしかない——と遠慮なく巻き込んで。気の毒な話である。


 ——そしてあっという間に一年。13歳になった私は学院に入学した。


 入学式の後はお仲間作りのお茶会があって、婚約者のいる人は皆、花束やら贈り物を受け取るのを楽しみにしている。私の婚約者アシュレイ様も、花束と贈り物持参で訪ねてきてくださった。



「おめでとう、エミリア嬢」


「ありがとうございます」



 花束を渡しながら顔を赤らめて祝いの言葉を述べる姿。

 ——これ本当に他の女に現を抜かす男なのだろうか?と思うほど真面目なタイプ。

 

「これも受け取ってくれ」と渡してくださった贈り物は、私の瞳色(青)のペン。

 そしてアシュレイ様の瞳色のノート(緑)だった。



「ありがとうございます!勉強、頑張りますわ!!」


「い、いや……違う。これは、交換日記用だ」


「ええっ!?」


「嫌だろうか?」


「い、いえ、違うんです。ちょっと驚いてしまって」



 逆に驚かない人っていますか?と聞き返したいのをグッと抑え、「わかりました、さっそく今晩から始めましょう!」などと言ってしまったのだから、私って人間もまた——本当に期待を裏切らない。

 そしてなにより、満足そうに微笑む彼を見てキュンとしたことは、私だけの秘密——誰にも内緒だ。


 その後は『日記』というだけあって、毎日ノートを交換する日々が始まった。

 そして徐々に彼の書く内容にも変化が訪れる。

 周辺環境や友人について触れるようになったのだ。


 私のくだらない茶飲み話とは違って、アシュレイ様の文章は真面目。

 だからこそ赤裸々に綴られているわけで——。

 そういえばこのゲームの攻略対象、この人も入ってたよね?という名前もチラホラ見受けられるようになった。


 たとえば、王子。

 この国には二人の王子がいるのだけれど、当時、第一(王太子)がアシュレイ様と同じ14歳のクライス殿下。第二が私と同じ13歳のエリク殿下。それぞれヒロインに惚れちまう予定ですから「この国どうなっちゃうの?」と本気で私は心配したものだ——というか不安に思った。


 そして私が覚えている攻略対象を並べると、たった5人——サヨウナラわたしの記憶力。

 王子二人と私の婚約者(騎士団長の息子)、公爵家の長男と宰相の息子である。

 最終的に誰を選ぶかはヒロインのみぞ知るなんだけれど、選択肢はざっくり分けて二つだ。王太子を攻略するルートかそれ以外かの二つ。攻略してから先の話は『攻略対象』によって変わるから——結構な数のエンディングがあったはず。


 いずれにしても、目の前の真面目な婚約者がヒロインに攻略されるのかと思うと——非常に胸が痛む。

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