第7話 決闘
リュウセイと冒険者ランキング3位のギンガは決闘を始める
村の中心に対立するリュウセイとギンガ
その周りには大勢の付き添いが見守る
「いけー!ギンガさん!!」
「楽しませてくれよ!」
「リュウセイも頑張れ!!」
「いいのか?」
リュウセイは聞く
「何がだい?」
「俺とお前の一騎打ちで。周りの付き添いと一緒に戦ったりしないのか?」
「ふふふ、僕には強いこだわりがあってね
多くの視聴者やファンも増やすためにも正しく美しく勝つ必要があるのさ」
「一部俺の応援をしているやつもいるようだが」
「気にしないでくれ。彼らは楽しみたいんだ。
まあ、一瞬で終わるだろうけど・・・」
「・・・」
「・・・」
リュウセイとギンガ、お互い沈黙が続き
「はじめ!!」
付き添いが合図を始める
リュウセイとギンガ
二人の距離は5メートルほど
ギンガは騎士剣を取り出し、
リュウセイと距離があるにも関わらず剣を大きく振りあげ・・・
(距離があるにも関わらず大振り!?
何かくる!遠距離攻撃!?)
一瞬でリュウセイの前に現れ剣を振り下ろす。
「な!?」
リュウセイは瞬時に反応し斬撃を刀の鞘で防ぐ
すぐさま鞘から刀を取り出し斬りかかるが・・・
「消えた!?」
そしてリュウセイの背後に現れるギンガ
ギンガに視線は後方にいる付き添い達の方を向いている
「見てくれたかい!?みんな!これが最強の能力!!
【空間転移】さ!」
「【空間転移】だと!?」
続けてリュウセイはギンガに斬りかかる
ギンガはリュウセイの方を振り向き
再び消える
ギンガは再びリュウセイの背後に現れ
「そう、いわゆる瞬間移動ってやつさ。」
「く!」
リュウセイは咄嗟にギンガから距離を取る
「隠してもしょうがないし
一瞬で決着をつけるつもりだったんだけどね
【攻撃】にも!【回避】にも!!【移動】にも!!!
あらゆる状況に対応できる、まさに無敵の能力さ!」
「さあ、どこまで耐えられるかな?」
ギンガは不敵に微笑むと、その姿を一瞬にして掻き消した。
「……!」
リュウセイは息を呑む。ギンガが視界から消えた瞬間、横から剣が迫るのを感じた。
咄嗟に剣を振り上げ、辛うじて防ぐ。しかし、その攻撃の余韻が消える前に、今度は右前方から気配が迫る。
再び鋭い斬撃がリュウセイを狙う。リュウセイは後方に飛び退くことで辛うじて攻撃を回避した。
だが、ギンガは止まらない。
左、右、視界の端で一瞬現れたかと思えば、その姿はすぐに消え、次の瞬間には別の方向から剣が襲いかかる。その動きはまるで全方向から攻撃されているかのようで、リュウセイはギンガの移動を捉えられない。
彼の姿は既に十数回も移動を繰り返しており、リュウセイの目には追い切れないほどだ。
建物の壁を背にするほど追い詰められていた。
ギンガが目の前に現れた瞬間、斬撃を受け止めリュウセイが攻撃を仕掛ける
「ん!?」
ギンガは何かに気づき
リュウセイの攻撃を自身の騎士剣で防ぐ
そして振り返り空間転移を発動し、距離を取る
「ふふふ・・・」
ギンガは再びほくそ笑む
(今の動き・・・)
リュウセイは何かに気づく
「後ろの建物は・・・図書館か」
追い込まれた場所は村の中心にある図書館
リュウセイは図書館に施された装飾を伝って建物を登り
上部にある窓を割って侵入する
それを見ていたギンガと付き添いたち
「逃げた!?」
「ギンガさん、空間転移で追いかけてください!」
「・・・」
ギンガは少し黙り
「よし、挑戦者は逃げたみたいだし僕の勝ちでいいんじゃないかな?
今からアルテミスを討ちに行こう!」
「いやいや、だめですって!
「『決闘』なんだからちゃんと決着つけてくださいよ!!」
付き添いたちは困惑する
「冗談さ・・・あと僕たちは行儀良く入り口から入ろう!」
「この人・・・すごいんだけど所々ダサいんだよなぁ・・・」
呆れながらもギンガについていく付き添いたち
・・・・・・
(イリスを手に入れたぞ!これで俺は・・・!!)
(ニュースです。某銀行にて個人情報が盗まれる事件が発生しました)
(相次ぐハッキング事件。犯人は未だ捕まらず・・・)
(ついにここにも目をつけられたか・・・情報は盗まれたのか?)
(いえ・・・こちらのセキュリティは突破できなかったようです。ですがいずれ・・・)
・・・・・・
「回想にふけている場合じゃなかったな・・・
さて、とりえずあいつを倒す算段を立てないと」
図書館に侵入したリュウセイ。向かった先は・・・
・・・・・・
「さあ!決着をつけにきたよ!リュウセイ君!!」
ギンガの声が図書館に響き渡る
ギンガとその付き添いが図書館に入ってくる
周りは本棚ばかりで障害物も多い
「障害物に隠れて不意打ちとかするんですかね?あいつ」
付き添いの一人がギンガに言葉をかける
「十分あり得るかもね。でもみんな、もしリュウセイ君を見つけても僕に報告しないでくれ。それじゃあフェアじゃないからね」
ギンガと付き添いたちは図書館の中を進んでいくと
「俺はここだ!!」
リュウセイの声が響き渡る
ギンガが声の聞こえる場所に向かった時、リュウセイは
図書館の中心にある、中庭の奥に立っていた
そして、壁を背に
居合の構えをとり、オーラを溜めていた
「あ、あれは・・・」
「おそらく、あれが彼の能力だろうね。」
「でも、隙だらけじゃないか」
「【空間転移】で一気にケリつけれませんか?」
付き添いが言葉をかけるが、ギンガは黙る
「・・・近づけないだろ?」
リュウセイは言う
「お前の能力は大体わかった・・・。」
「【空間転移】移動できる範囲は自分の視界の範囲」
「お前はいつも俺の攻撃を回避する時、俺の後ろに移動していた。
俺が壁を背に攻撃した時、お前はわざわざ振り返って空間転移をした」
「そして移動後も向きは変えられない。北を向いた状態で空間転移をしたら、
転移後も北を向いているようにな。」
「また、空中など足場のないところにも移動はできない。出来たら俺が図書館の窓から侵入した時、能力を使ったはずだ」
「こんなところか・・・」
「ここは長方形状の中庭。幅が狭いから逃げ場はないぞ。
近付いた途端、振り向く間もなくぶった斬る!」
「ついでに俺の能力も教えてやる。
【練気一閃】居合の構えでオーラを溜め、武器に纏わせる。
溜めたオーラの分だけ威力が上がる。それだけさ
どうする?空間転移で近づいてガンマンのように早撃ち対決でもするか?」
ギンガは考える
(リュウセイ君・・・今まで付き添いすら見抜けなかった能力の特性をこの短時間で見抜いたのか・・・)
「・・・素晴らしい!素晴らしいよ!!リュウセイ君!!
僕の能力、君の言う通り!でもそれは通常での話さ!」
「だから僕は・・・【能力の解放】を使う!!」
ギンガの体が輝き出す
「【能力の解放】・・・やはり使えるか」
リュウセイは身構える
「本当はこのまま君を放置したいけど『決闘』だからどちらかが倒れないと終了できない
そして君に近づかずに倒せる手段はあるんだよ」
「何か魔法でも放つのか?」
「そんな立派なもんじゃないさ。」
そう言ってマントの中から取り出したのは
「短剣!?」
「これをただ投げるだけさ」
ギンガは不敵な笑みを浮かべながら、手に持っていた短剣を軽く振り上げ、指先で回転させるように投げた。
短剣はギンガの手を離れると、一直線にリュウセイの右大腿部に向かって飛んでいく――
(単純な短剣の投擲・・・簡単に躱せる!)
と思われたその瞬間、
「転移」
ギンガの言葉と共に視界からナイフが消えた。
「な!?」
ギンガの言葉と同時に投げた短剣が空間転移をし、リュウセイの眼前に移動した
「ッ――!」
反射的にリュウセイは首を横に振り、わずかに体を捻る。ナイフは彼の頬をかすめ、鋭い金属音を残して後方へ飛び去る。頬から一筋の血が流れ落ち、地面に赤い滴を落とした
「やっぱりいい反応するね。でもこれで終わりじゃないよ」
ギンガの服の下には無数の短剣が隠されていた
「まだまだいくよ。」
次々と短剣を投げるギンガ
襲いかかる無数の短剣
これらがいつどこに転移するかもわからない
リュウセイはかろうじて回避を続ける
ギンガは余裕な表情で話す
「回避しながらでいいから聞いてくれ、リュウセイ君
僕の能力【空間転移】能力の解放を
魔力を込めたものは僕の任意のタイミング、場所に移動させることができる。僕自身の体と違って空中でも可能さ。」
「ちっ、面倒な能力だな。」
リュウセイは汗ばむ手で剣を握り直し、ギンガを睨む。投げたものすべてを転移させられるその能力の厄介さに
「なかなか当たらないな・・・もう少し近づくか」
ギンガが短剣を投げつつ一歩ずつ近づいてくる
そして
「があ!」
短剣のひとつがリュウセイの大腿部に突き刺さる
「はは、やっぱり近づくと当たるようだね。安心したよ」
リュウセイとギンガの距離は7.8メートルほど
「この距離が最適かな?これ以上近づくと反撃を喰らいそうだ」
「く!」
「ぐあ!!」
「うっ!」
左肩、腹部に短剣が刺さり、
身体中には無数の探検による切り傷が増えていく
「ふふふ、どうだい?短剣も魔力もまだ半分近くあるよ。
それまでもつかい?」
次々と攻撃を受けるリュウセイ
居合の構えをとっているから刀で弾くこともできない
そして、
あと一撃・・・当たればもう立つこともできない
レミエルと戦った時のように鋭い突きで一気に勝負を決めたいが、
背後に空間転移をされてしまえば敗北は必須
【練気一閃】の効果は一撃だけ
絶対に外すわけにはいかない
ギンガは語り出す
「ランキングNo.1のナガレはもういない。No.2のオリオンも行方不明・・・
僕が・・・この世界で一番強いんだ。だから僕はアルテミスを討つ・・・」
「自分の存在意義を示すために!!」
ギンガが短剣を投げようとした瞬間
「オラァ!!」
リュウセイは刀を抜き、大車輪の如く刀を投げた
「な!?」
あまりの突発な行為にギンガは驚愕する
(思い切ったことを・・・だが、勝った!
前方に空間転移で回避移動し、斬り付ければ僕の勝利だ!
刀がないから反撃も攻撃を防ぐこともできない!!)
「【空間転移】!!」
ギンガの体が一瞬で掻き消え、刀は虚空を切り裂いた。そのまま彼は刀の進行方向の少し前に空間転移しリュウセイの前に現れる
だが――そこでギンガが目にしたものは
巨大なオーラを纏ったリュウセイの拳だった
「オーラを纏わせたのは刀じゃねえ!この右手だ!!
どのタイミング!どの場所に空間転移するかわかれば、あとは思い切り拳を振り下ろすだけだああああああああ!!!」
(ま、まずい!近づきすぎた!!空間転移を!いや、どこに!?僕の視界にはリュウセイ君の拳しかない!!)
ギンガが驚愕の声を漏らす間もなく、リュウセイの拳が一直線に振り抜かれる。
「あああああああああああ!!!!」
轟音とギンガの断末魔が村中に響き渡る
・・・・・・・
暗闇が徐々に淡い青色へと変わり始め。村の小道に微かな光が差し込んでくる
そして、東の空に太陽がゆっくりと昇ってくる。
「ん・・・」
アルテミスは夜明けと共に目を覚ます
傷はもう全快している。
旅を続けることは可能だろう。
「アルテミス、起きてるか?」
リュウセイがドアの前でノックをしながら聞いてくる
「ああ、大丈夫だ。入ってもいいぞ」
リュウセイが部屋に入ってくる
「旅の続きはできそうか?」
「問題ない」
「よし、次の目的地は山を超えて交易都市【グローム】だ。準備をするぞ」
「・・・」
アルテミスはリュウセイを見つめる
「どうした?」
アルテミスの挙動にリュウセイは聞く
「なんとなく・・・わかるぞ。リュウセイ、お前はまた私を守ってくれたんだな・・・。」
「ありがとう」
「・・・!」
優しく笑うアルテミス
彼女が、初めて彼女らしい姿を見せたような気がした
一方そのころ、
図書館の中央中庭には
額に巨大なタンコブを抱えて倒れるギンガの姿があった
3話までを1章とすると今回までが2章です
ここまで読んでくださった方がいればありがとうございます