第6話 療養
・・・
(ねえ、知ってる?)
(【ユメ】を持つと、強くなれるんだって)
(だったら、私たちも【ユメ】を持とうよ!)
(私たちの【ユメ】は・・・いつか必ず・・・)
(だから、また明日会おうね・・・ヤクソクだよ・・・。)
・・・
「ヤクソク・・・。」
アルテミスがゆっくりと目を開けると、木目の天井が視界に広がった。淡い陽光が窓越しに差し込み、室内を優しく照らしている。ふかふかのベッドに包まれた体が、予想外の安心感を与えた。
周囲を見回すと、木の質感を生かした簡素ながら清潔感のある家具が並んでいる。小さなテーブルの上には水差しとコップが置かれ、そのそばには折りたたまれたタオルが丁寧に置かれていた。
「ここは・・・?・・・っ!」
身体を起こそうとした瞬間、全身に鋭い痛みが走った。苦痛に顔を歪めながら手を当ててみると、厚く巻かれた包帯が触れた。腕や足にも同じように包帯が巻かれており、血が滲んだ箇所もある。
無理もない、あれだけの重症を負ったのだから
「……宿屋か。一体、誰が……?」
戦いの記憶がぼんやりと蘇る。倒れかけた自分、炎と血の匂い、最後に目にしたのは――。そこから先は霧がかかったように曖昧だった。
「お、目が覚めたみたいだな。」
部屋に入ってきたのは・・・
「リュウセイ・・・!?」
驚愕するアルテミスに対しリュウセイは呆れたように言う
「全く、勝手に行きやがって・・・。
その傷、恐らくまた天使に会ったんだろ?」
「・・・」
アルテミスは俯き黙る
リュウセイは小さなため息を吐き
「でも、よかったよ。お前が無事で
まあ無事とも言えないかもしれないが」
「・・・なあ、リュウセイ、ここはどこだ?」
「ああ、ここは森を超えた先にある小さな村『ツィンクル』
そこにある宿屋だ」
ここまで運んでくれたのはリュウセイで間違いない。
ただ、疑問に思うことがある。
「どうして、私の場所がわかったんだ?」
「そりゃあお前、あの森が大炎上してりゃあ向かうに決まってるだろ。
そして、女の子二人が必死に助けを求めてきたんだ」
「女の子二人・・・」
思い当たりがある・・・チョコレートをくれた、そして大木から庇ったあの二人・・・
続けてリュウセイは話し続ける
「聞いたぞ、お前その女の子二人を守ったんだって?お前にそんな一面があったんだな」
アルテミスは目を背け
「違う・・・巻き込んでしまったんだ。
私がいなければあの二人を危険な目に遭わせずに済んだんだ」
リュウセイは少し笑い
「少なくともあの二人はそう思ってないみたいだぞ?」
「え?」
アルテミスが聞き返したところ
「あ!アルテミス!!」
「よかった!目が覚めたんだね!!」
部屋に入ってきたのは森で助けたあの二人の少女だった
「どうしてここに・・・?」
「あの後どうしても気になっちゃって・・・」
「目が覚めるまで一緒に居させてもらっているんだ!」
「そして・・・改めてお礼を言いたかった。」
「「ありがとう!」」
「・・・」
二人の言葉にアルテミスは少し頬を赤らめる
リュウセイが横から声をかける
「よかったな。でもそれだけじゃないぞ」
「じゃーん!果物もたくさん買ってきたよ!!」
「果物・・・!」
アルテミスは目を少し輝かせる
「何か食べたいものある?」
「じゃあ、りんご・・・」
「わかった。切ってあげるね!」
剣士の少女は器用にリンゴの皮を剥き
「はい、あーん」
魔導士の少女はそれをアルテミスに食べさせる
「あーん・・・」
アルテミスは少し照れくさそうに口を開ける
「次は何食べたい?」
「ぶどう」
「バナナ」
「みかん」
「メロン」
(こいつやたら食うな・・・。)
リュウセイは思わず苦笑する
その日は、穏やかなまま時間がすぎていく・・・
ー夕暮れー
「それでは、失礼します。」
「アルテミスのこと、守ってあげてね」
「ああ、任せておけ」
宿屋の外
リュウセイとアルテミスは少女二人の冒険者を見送る
「よかったな。」
「何が?」
「みんながみんな、お前に怯えたり、襲ったりするようなやつじゃないって」
「ああ・・・。・・・ふあ・・・」
「ん?もう眠いのか?」
「ん・・・」
「じゃあもう眠ったらどうだ?まだ怪我は残ってるんだろ?」
「そうする・・・」
そう言ってアルテミスは部屋に戻って行った
傷は順調に回復している
明日には再び出発できるだろう
「俺はまだ眠くないし、村を回っていくか
いつ天使が襲ってくるかわからないからな」
村の中を徘徊するリュウセイ
日が暮れた後の村は静寂につつまれ、穏やかな雰囲気が漂う
空には、星が輝き
建物や木々の影が明かりの下でゆらめく
リュウセイは一つの建物に目を向ける
「あれは・・・」
村の中心にある一つの建物
建物の中央には大きな時計
外壁や玄関の周りには、美しいアーチや精巧な彫刻が施されており
穏やかな村に大きな存在感を放つ
建物の前にいる女性が話しかけてくる
「こんばんは、ここは図書館です。」
「図書館・・・『以前』はよく利用していたな」
「ちょっと入ってみるか・・・。」
建物は長方形の筒状となっており
壁一面に広がる本棚
中央は中庭となっており、月の光が優しく照らす
リュウセイは図書館の周りを徘徊する
「新刊が二つ・・・」
【能力の極意】
条件を満たすと複数の能力を持つことができます。
複数の能力を持つほど能力の質は下がっていきますが
多様性のある戦いをすることが可能です。
逆に一つの能力を極めると【能力の解放】を行うことができます。
魔力を大きく消費しますが、性質を変えたり、規模や威力を大きくすることもできます。
あなたに合った能力や戦い方を目指してください。
「【能力の解放】・・・ねえ
それよりも俺は複数の能力を使う方が合ってるかな」
リュウセイは本棚に戻し、もう1冊の新刊を手に取る
【月の女神と太陽の女神】
「これは・・・?」
本を手に取る
人類が衰退した時、天は二人の女神を生み出した
それが太陽の女神と月の女神
二人の女神は次第に世界を繁栄に導いた
しかし、二人の女神は天の想像以上に力をつけ
手に負えない存在となっていった。
そしていつしか太陽の女神は天の命令に背き
人類に災いをもたらす存在となった
人類はついに太陽の女神を討ち
平穏を取り戻すかと思った
残された月の女神は嘆き、苦しみ、怒り狂い
人類の新たな脅威となった
世界の理を変えてしまうほど
人類の繁栄のために女神の存在は必要
そう考えた天は、月の女神の記憶を消し、
災いは収まった
もし再び月の女神が太陽の女神の記憶を取り戻した時に訪れるのは
世界の災いか、それとも・・・
本はここで終わってる
「月の女神・・・アルテミス?」
気がつけば夜も遅い
怪我のアルテミスを一人長時間残しておくのは危険だ
図書館を出て宿屋に戻る途中・・・
宿屋が騒がしい
「天使か!?」
リュウセイは走って宿屋に向かう
「な!?なんだありゃ!?」
リュウセイの視界に映ったのは
宿屋の前には数十人にも及ぶ大勢の人だかりがいた。
「まさか、あいつらアルテミスを狙ってる連中か?」
その中の中心にいる人物が大声で言う
「さあ!これからみんなは歴史的瞬間を目の当たりにする!!
目に焼き付けるんだ!僕がアルテミスを討つ瞬間を!!」
天使ではない。
冒険者のようだ
中心にいる人物
黒髪で長髪
貴族のような服
顔つきは中性的であるが
天使に特徴的な羽や無機質な目はしていない
その人物は宿屋に入っていき、受付に話しかける
「アルテミスはどこだい?」
「いらっしゃいませ。おひとり様1泊50sです。」
「・・・もう一度聞くよ。ここにアルテミスが泊まっているみたいじゃないか。
どこにいるんだい?」
「いらっしゃいませ。おひとり様1泊50sです。」
受付の反応は変わらない
「・・・。」
その人物は宿屋から出ていき
「あ!どうでした?アルテミスは!?」
付き添いの一人が話しかける
「どうやら、僕に恐れをなして逃げ出したようだ。
よし、これは僕の勝利だな!」
「いやいや、嘘つかないでくださいよ!」
付き添いの言葉に、青年は少し黙る
「・・・仕方ない。宿屋に火をつけてアルテミスを燻り出すとしよう」
青年は松明を手に取り、火にかける
「待て!!」
声をかけたのはリュウセイ
「ん?君は?」
リュウセイは青年に訴える
「あの子は今傷の治療中なんだ。挑むのは後にしてくれないか?」
「・・・」
青年は少し黙った後
「そうか、君は・・・わかったぞ。確かアルテミスのそばにいる冒険者だね。
噂には聞いているよ。
知ってると思うけど、僕の名前は『ギンガ』ランキングNo.3の男さ」
「知らん。」
リュウセイは即答する。
「な!?この世界で僕を知らないだって!?君初心者?
仕方ない。名刺をあげるよ。君の名前も教えて欲しいな。『リュウセイ』くんか」
「いらん」
リュウセイはまたも即答する
「はぅあ!!?君、僕の偉大さを知らないのかい?
あ、そうか。もう一つの名前の方は知ってるはず。もう一つの名前は・・・」
「どうでもいい」
リュウセイは言葉を遮る
「アルテミスを狙うやつは、全員俺が倒す!」
目を見開き威圧する
ギンガは笑いながら言う
「ふふふ・・・まるでお姫様を守る騎士のようだ。
いや、悪魔に魂を売った下僕かな?でもね、リュウセイくん、僕にとっては君と戦う理由なんて何一つないんだよ。無理やりにでも宿屋から悪魔の子を叩き出して、とどめを刺すんだ」
「じゃあ、こういう条件でどうだ?」
リュウセイは刀を取り出し
「大業物『天叢雲』。
俺に勝てたら、この刀をやろう。だが、負けたら、潔く引いてもらうぞ!」
「な、なんでそんなものを君が・・・?」
ギンガは困惑する
「お前も剣を使うなら、この刀は欲しいだろ?」
「・・・」
ギンガは少し黙った後
「わかった・・・。いいよ。アルテミスを討つために、武器も最高のもので挑みたいからね。
これは『決闘』だ。勝負がつくまで逃げるのはナシだよ」