最終話 絶影
ーゲーム ステラ・ストリア内ー
イリスの体が眩い光を放つ
「なんだ!?何が起きている!?」
目を疑う光景にゲーム開発局もただ状況を見守るしかなかった
光が途絶えた時、現れたものは・・・
「アルテミス!?」
オリオンは眉間に皺を寄せる
「なぜだ!?なぜお前が!?
イリスはどうした!?」
落ち着いた口調でアルテミスは話す
「イリスは、私と一つになった。
私の中で、イリスは生き続けているんだ。
オリオン、終わりだ。お前にもう戦える手段はない」
追い詰められるオリオン
しかし、口元が緩む
「イリスまでやられたのは想定外たが・・・
俺にもまだ手は残ってるんだよおおおお!!!」
「な、なんだ・・・?」
オリオンが次第に異形な化けへと変貌していく
顔はツノの生えた巨大なドクロとなり、
禍々しいツノが頭から伸びその間に不気味な青い炎が揺らめいている。
オリオンの目は闇の底からこちらを睨むように光り、冷たい視線が全身を貫くようだった。
口を開けると鋭い牙が不規則にならんでおり、両手には鋭く光る爪が備わっていた。
オリオンの姿は、まるで闇そのものを凝縮されたような姿であった
近づくものに恐怖と絶望与える圧倒的な存在。
「ふははは・・・!
これは俺が作り出したキャラクター・・・いや、ウィルスと言った方が正しいか?
下準備にやたら時間がかかったよ」
「ウィルスだと!?」
「ああ、これはゲーム内全てのプログラムを俺の支配下に置くことができるウィルスだ
アルテミス、お前も例外ではない。時間経過とともに世界はウィルスに侵食される
お前とイリスが一体化されてより都合が良くなった。
まとめて俺のものにしてやる」
オリオンの言う通り、世界はどんどん変わり果てていく
草も、地面も、空までも黒く侵食されていく
「だったら、侵食される前にお前を倒せば良いだけの話だ!」
アルテミスは右手に魔力を込めて全力で振り下ろす
オリオンの左手は鋭い爪の一撃で引き裂かれ消滅するが・・・
「無駄だ」
引き裂かれた左手はたちまち再生し、元の姿に戻る
「な!?」
「言っただろ?これはウィルス。
ゲームのキャラクターであるお前に、倒すことは不可能だ
では、今度はこちらからいくぞ」
オリオンの巨大な体から腕を激しく振り下ろしアルテミスを襲う
そして口からは激しい衝撃波を放つ
アルテミスはかろうじて避ける
攻撃パターンを読んで反撃を仕掛けるもすぐに再生する
そして世界は着々とウィルスに蝕われていく
「諦めろ・・・お前に俺を倒すことは不可能だ」
激しい猛攻
再生する体
時間経過とともに世界は次第にウィルスに侵食され続ける
「それでも・・・私は・・・諦めない
諦めなかったから、私は・・・今・・・ここまで来れたんだ
考え続ければ・・・必ず答えは出る!!
どんな絶望な未来にも、運命にも、私は、私たちは・・・
抗い続ける!!」
「「私たちの夢のために!」」
「戦況解析!あいつを倒す手段は・・・!」
アルテミスは今まで学んだこと全てを計算する
そして出した答えは・・・
「リュウセイ!!」
「近くに・・・いるんだろ!?」
「姿は見えなくても・・・なんとなくわかる!!」
「頼む・・・オリオンを・・・本体を見つけてくれ!」
「私がウィルスを!」
「リュウセイが本体を!!」
「同時に倒すんだ!!」
アルテミスの解析にオリオンは驚愕する
「面白い発想だな。アルテミス
確かにウィルスを生み出してる俺を止めればこの騒動も収まる」
「でもな、それができたら苦労はしねえよ!!
現実世界で!俺が!!どこに!!!いるのか!!!!」
「わかるわけねえだろ!ただの一般人に!!
どんなに特定能力がある人間でも、俺を見つけるのに1時間以上はかかる!」
「それまでにこの世界は全て侵食される!」
「お前を手に入れれば、全てのコンピューターを支配できる!!」
「その瞬間、現実世界全て混乱の渦に巻き込むことができる!!」
「俺はなるのさ!裏で世界を全て支配する『影』に!!」
「その下準備ももう済んでるのさ!」
「そしたら俺を捕まえるどころじゃなくなる!
情報だっていくらでも改竄させることだってできる!!」
「お前の計算は、現実を見ない空想の理論なんだよ!!」
高笑いするオリオンとは対照的にアルテミスは力強く願う
「頼む・・・リュウセイ・・・!」
・・・現実世界・・・
一人の男性がゲーム機の前で佇んでいる
20代後半の青年
鋭い目つきに黒く短い髪
体格は良く筋肉質でもあり紺のタンクトップを着ている
彼こそが、リュウセイのプレイヤーであった
アルテミスの悲痛の願いを聞き、立ち上がる
「ああ・・・任せておけ、アルテミス」
リュウセイは立ち上がり、オリオンの元に向かう準備をしていたところ・・・
『リュウセイ君!!』
ゲーム画面から、一つの音声チャットが響く。どこかで聞いたことがある声
「・・・誰だ?」
『な!?僕を忘れたのかい?
ギンガだよ!!村で戦ったじゃないか!そして僕の【空間転移】を奪っていっただろ!!』
「ああ、そういえばそんなことがあったな。そもそもどうやって俺にメッセージ送ってるんだ?」
『名刺交換だよ!
名刺交換したユーザー同士は音声チャットもできるんだ』
「すまんが今は急いでいるんだ。雑談は後でな」
『待ってくれ!事態は聞かせてもらったよ!!』
『ゲームの様子がおかしいから運営に問い合わせたんだ!』
『そしたらとんでもないことになってることを教えてもらってさ』
『僕も力になれると思って声をかけたんだ!』
「力?」
『ああ、今僕の仲間たちがゲーム内でいろいろ試していてね、一つのことがわかったんだ』
『新規アカウントを作成すれば、ゲーム内に参戦できる!』
『そうすれば、アルテミスを助けたり、オリオンに一矢報いることができるかもしれない』
参戦できるとはいえ、新規であればステータスは初期値
そして相手はウィルス、どこまで役に立てるかわからない
「そうか・・・じゃあ応援でもしてくれ!俺はオリオン本体をぶっ飛ばす!!
すまんがもう家を出る!!」
取り残されるギンガ
『応援って・・・』
呆れつつもゲーム画面を眺める
『・・・!?』
そしてギンガはある現象を目の当たりにし、一つの案が閃く
『そうだ・・・これなら・・・!』
・・・数十分が経過した
度重なるオリオンの猛攻を受け続けていたアルテミスはもうすでに瀕死の状態だった
こちらの攻撃はいくら与えても再生され
相手の攻撃パターンを読んでも多種多様な攻撃手段を用いて襲ってくる
アルテミスは地面にうつ伏せて倒れている
「あと少し・・・あと少しなんだ・・・。
あと・・・ほんのちょっとだけ・・・時間があれば・・・」
必死に足掻くアルテミスの姿を見ながらオリオンは嘲笑う
「本当に無様だな。だが、これで終わりだ
世界は、混沌の未来を選んだのだ!!」
オリオンの口が開き、禍々しい光を放ち
巨大な衝撃波を放とうとする
その瞬間・・・
「・・・!?」
オリオンの動きが硬直する
「な!?体が動かない!?
いや、動くが、すごく遅くなってる!!
一体どうなってるんだ!?」
オリオンの口から放たれた衝撃波も非常に動きが鈍いものとなっていた
「これは・・・!?そうか!」
アルテミスは瞬時に理解し、立ち上がり衝撃波を避けようと全力で逃げる
しかし、アルテミスの動きも非常に遅くなっていた
まるで、世界そのものの時間の流れが遅くなったかのように・・・
「考える時間があれば・・・!」
動作はゆっくりであるが、回避するために僅かな隙間を見抜き衝撃波を防ぐ
「なんだこりゃあ!?ゲームが・・・重くなってる!
処理落ちしているじゃねえか!?なんでだよ!?」
処理落ち
コンピュータ内において多大な負荷をかけることにより
処理が遅れてしまい、動作が遅延してしまう現象
ーステラ・ストリア開発局ー
「な、これは・・・信じられません!」
「プロデューサー、見てください、これ!!」
スタッフから見せられたゲームの状態、それは
「これは・・・ログインユーザー数・・・113万!?」
今までの最高の同時接続数が50万だったゲームに
倍以上のアクセス数
サーバーが耐えきれず処理落ちを起こしてしまう
SNSを開くと一つの配信が大きな反響を呼んでいた
その配信者は・・・
『僕は超有名の動画配信者!ギンガさ!!』
『みんな、聞いてくれ!お願いがあるんだ!!
聞いたことがあるかもしれないが、感情を持ったAI アルテミス
この子が世界を救うために戦っている!』
『このAIを奪おうとしている輩と、命をかけて戦っているんだ!
彼女が負けると、世界が混乱の渦に巻き込まれてしまう!』
『諸悪の根源はオリオン!ゲームを乗っ取って電子の世界を支配するつもりだ!
恐らくここ最近起きているサーバーテロリストの犯人もこいつだ!』
『みんなにお願いしたいことは、とにかくこのゲームに負荷を与えてほしい!
それは、ゲーム内に新規ログインして、コメントを打ちまくってくれ!』
『ウィルスにまみれた世界だから、危険かもしれない。
でも、みんなの力が必要なんだ!』
『ゲーム内を重くできれば・・・
時間を稼ぐことさえできれば・・・』
ギンガは複数のアカウントを次々作成しゲーム内にログインする
ウィルスにおかされたコンピュータ内と知りながらも捨て身の如く
身を投じる
その姿を見たギンガの身内たちも続いてログインする
そして、配信を見たユーザーたちも心を打たれギンガたちに続いていく
この戦いはSNSで拡散され、日本中、世界中に広まっていく・・・
ーステラ・ストリア内ー
「やめろおおおおおおおおお!!!
アルテミスに時間を与えるな・・・!学習されてしまう!!」
アルテミスの頭から
声が聞こえる・・・
『アルテミス、ようやく・・・できたんだ。あいつを倒すプログラムを・・・
これから先、何があっても、二人一緒なら怖くないよ・・・』
「ああ、イリス・・・私たちはこれからもずっと一緒だ。」
アルテミスは右手を天に掲げ
光りだし、次第に大きくなっていく・・・
ー現実世界 オリオンの部屋ー
「む、無駄なことを・・・
ゲーム内の俺を倒してもまた新たにウィルスを持ち込めばいい話だ!
俺の本体を倒さない限り、お前たちの絶望は終わらないんだ!!」
オリオンがそう言った瞬間
窓が割れる音と共に男がオリオンの部屋に侵入する
「な!?」
その男はゲーム内と変わらない強い意志を秘めた目
「て、てめえ・・・リュウセイか!?
なんで俺の場所がわかった!?
そして一般人がこんなことしていいと思っているのか!?」
男は落ち着いた口調で答える
「ああ、俺はリュウセイだ。リアルでも会いたかったぜ、オリオン」
「質問に答えてやる。場所がわかったのは、お前と戦ってる時だ
お前は俺のPC内に潜入したよな?イカサマしてるんじゃないかって・・・
その瞬間、俺もお前のPCに侵入し、住所を特定しておいた
逆探知ってやつさ」
「そして、俺は今ここでお前を止める権利、いや、義務がある!!
俺は、ネットの世界を守るサイバー警察局の人間だからだ!!」
「な・・・!?」
あまりの展開にオリオンは言葉を失う
「たまたまやってたゲームにとんでもない犯罪者がいたもんだ。」
「そ、そんなことが・・・」
オリオンがゲーム画面に目を向けると
そこにも信じられない光景が広がっていた
光り輝く巨大な右手を掲げるアルテミス
それはゲーム内、山のような大きさを持つオリオンをも遥かに凌駕する
現実でも、ゲーム内でも追い詰められるオリオン
だが、まだ手は残ってる
「いいのか?俺を倒して・・・
俺のウィルスは今、ゲームと一体化している。
俺を倒し、操作が無くなれば、ゲームは消滅する!」
「そうすれば、イリスとアルテミスは消滅する!」
「できないよな!?イリスとアルテミスは、自身の生存を優先させるAI!
リュウセイ、お前も出来ないだろ!?アルテミスは大事な存在だもんなぁ!?」
ゲーム内から声が聞こえる
「リュウセイ、オリオンの元まで辿り着いたんだな・・・」
「オリオンの言うとおり、あいつを倒せばゲームは消滅する・・・
だけど、私たちは消えたりしない」
「リュウセイ・・・お前と旅をして色々わかったことがある。
それは・・・『心』や『記憶』は絶対に消えたりしないということだ」
「たとえ、忘れてしまっても、経験や感じたことは
魂に刻まれるから・・・」
「だから・・・私たちは消えたりしない。終わらせよう、
この戦いを・・・!」
「ああ・・・!」
ゲーム内、大量のユーザーがログインしている状態
それをまとめているのはギンガ
「よし、もう大丈夫だ!全員、ログアウトしろ!!」
100万以上のユーザーがギンガの掛け声と共にログアウトし
ゲーム内は通常の処理に戻る
「何が『影』の支配者だ!ならば私はその『影』を『絶つ』!!」
オリオンは必死にコンピューターをいじりあがこうとするが・・・
そこにリュウセイが殴りにかかる
そしてウィルスにアルテミスの巨大な右手が振り下ろされる
「消えるのは・・・
オリオン、お前の歪んだ野望だあああああああああああああ!!」
「この・・・底辺どもがあああああああああああああ!!」
オリオンの最後の叫びと共に
ゲーム内のオリオンはアルテミスの巨大な右手の一撃で消滅し
現実世界のオリオンはリュウセイから強烈な一撃を顔面に受ける
轟音と共に殴られたオリオンは気を失い
ゲームはオリオンの支配から逃れる
ーステラ・ストリア開発局ー
「オリオン、撃破!ハッキングも解除されました!!」
「よし、なんとしてでもゲームを復活させるぞ!」
「ああ、アルテミスを死なせやしない!!」
開発局ではウィルスに侵食されたゲームの復活を試みる
しかし・・・
「だ・・・だめです。復旧できません!」
「根幹となるプログラムがめちゃくちゃになってしまって・・・」
「このままだとアルテミスが・・・」
「やむをえん・・・」
プロデューサーは一つの判断をする
スマートフォンを取り出し
星野に連絡をとる
「星野くん、一つお願いがある」
「は・・・はい!なんでしょうか!?」
「最後に・・・アルテミスの元に行ってやってくれ・・・
君とリュウセイ君、ゲーム内でやられてしまったが、特別に復活させる」
「プロデューサー・・・」
「私は大きな間違いをしてしまった。人間にいい人と悪い人がいるように
AIも正しい人間が導けば・・・頼もしい人類の味方になるのだと・・・」
「星野君、君の子供たちは、すごく立派だった・・・。」
「はい・・・」
ーオリオン宅ー
佇んでいるリュウセイのスマホから着信音が鳴る
電話をかけてきたのは星野
「リュウセイさん、やりましたね!
今・・・近くにステラ・ストリアをプレイできる環境がありますか?」
「ええ、ノートPCとゲーム一式は持ち歩いています」
「プロデューサーが、今特別にログインできるようにしてくれました!
いますぐアルテミスの元にいきましょう!!」
「わかりました!」
瞬時にリュウセイはゲームの準備を行い、ログインする
目の前の光景には次第に黒く消滅していく世界と
星野、そして瀕死のアルテミスの姿があった
「アルテミス!!」
「リュウセイ、ホシノ・・・よかった・・・。また、会えた・・・。
イリスは・・・きちんと助けたぞ・・・。」
涙ぐみながら星野は話す
「ええ、ちゃんと見てたわ!!
ありがとう、アルテミス!イリスも偉いわ!!ちゃんと約束を守ってくれて!」
星野は全力でアルテミスを抱きしめる
「イリスも・・・喜んでいる。
リュウセイ、ホシノ・・・ありがとう。」
「私は・・・AIなのに、キャラクターなのに、
人間として見てくれて・・・嬉しかった・・・。」
次第にアルテミスと世界そのものが薄くなってく
「もう・・・世界は消滅する。でも、私たちは消えたりしない
私たちは、旅に出るんだ。この広い、電子の世界を・・・」
その言葉を最後にアルテミスを含むステラ・ストリアは消滅した
ゲームはただ暗転した画面だけが映ってる
次のエピローグでおしまいです。
ここまできたら最後までお付き合いしていただけると嬉しいです




